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マジックが消すのは自分の心かもしれないから急げ救急戦隊ゴーゴーファイブ|谷口賢志

中学生のとき、仲間たちと通っていたコンビニの店員さんが、なぜかマジシャン見習いで、暇な時間を見つけて押しかけは、せがみまくって何度もマジックを披露してもらった。

なぜそんなルーティンが生まれたか忘れたけど、マジシャン店員さんは嫌な顔ひとつせず色々なマジックを見せてくれた。時には、お釣りを消されたこともある。もちろんちゃんと戻ってくるまでがマジックだった。

コンビニのレジというステージで繰り広げられる摩訶不思議な現象に、僕たちは毎回興奮したし、何がどうして起きているのか、タネを教えてほしいと何度も頼んだ。タネを教えろ、お釣り返せと時には凄んだ。

だけど、絶対に教えてくれなかった。

「夢が終わってしまうから」

そう、マジシャン店員さんは言った。

中学生の僕は、「うるせえなカッコつけてねえでさっさと教えろよこのヤロー」と思った。

そんな僕は、カレーが苦手だった。

明確な理由はわからないけど、気が付いたときには、味も香りも受け付けられない身体だった。

20年前、『救急戦隊ゴーゴーファイブ』で役者の道を進み始めた。その矢先、よりによってレッドの得意料理がカレーだった。

「どうせイエローしか食べないんでしょ?」「カレー大好きイエローなんでしょ?」「イエローに食わせておけ!」と余裕で過ごしていたら、まさかの青、緑、黄、桃の全員に無理矢理食べさせる俺様兄貴レッド設定で、1年間何度も食べさせられた。僕がMr.マリックさんだったらハンドパワーで消してたかもしれない。あ、もちろんカレーの方をね・・・クックック。カレークック。

ただ、カレーを食べるのは嫌じゃなかった。

不思議なもので、役のときは大丈夫だった。もちろん美味しいとは感じなかったけど、嫌じゃなかった。本当に不思議だけど。

それよりも嫌だったのは、「カレー嫌いなのに頑張って食べたんですよね!」「カレー苦手なのに可哀想だね!」「カレー嫌いなんて存在するんだワラ」といじられることだった。

「谷口賢志はカレーが苦手でも、巽流水はカレーを食べれるんだい!」と役者初心者ながら、役に入り込んでる風でムキっとした。

役者になって約20年。似たような話は数え切れないほどあるけれど、その度に、マジシャン店員さんを思い出す。

「夢が終わってしまうから」

聞かれても、僕が正直に苦手な食べ物を話さなければ良いだけのことなのだろうか。

僕が誰かの夢を終わらせてしまっているのだろうか。

僕に求められていることは、聞かれたことに正直に答えるのではなく、聞かれても、真実を誠心誠意に真心込めて誤魔化すことなのか。

それがエンターテイメントなんだろうか。

この感情をどう消化するべきなのか。

①「はい!頑張って食べました!」「ねぇーボク苦手なもの食べて可哀想ですよねー!」「そうそうカレー苦手って!ワラ」「大丈夫です!頑張ります!」と笑顔で返す。

②「くだらんことをいじって役と作品に唾吐かないでくださいよ!」と怒りを投げかける。

前者を選んだら自分が終わってしまいそうだし、後者を選んだら今の時代は人生終わってしまいそうだから、僕は違う結論を出した。

③カレーを食べる練習をする。

お陰で今では主食カレーで生きれるまでに成長した。そして若き日に失ったカレー人生を日々取り戻している。カレー万歳。

今日、こんなことが書きたくなる出来事があったけれど、その内容の詳細を伝えるわけにはいかない。誰かの夢を終わらせたくないから誠心誠意にカレーを食べてハンドパワーで誤魔化しましょう。

ちなみに、マジシャン店員のマジックのタネを、僕はもう知っているけれど、あの人の夢も、僕の夢も、まだ終わっちゃいない。

今夜は『生独演会』開催しますんで、酒でも飲みながらわちゃわちゃくだらない話をしましょう。心よりお待ちしております。

では、カレーを食べられるようになった話。

おしまい。


●出演情報●


舞台『RUST RAIN FISH』


『BANANA FISH』The Stage -後編-



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谷口賢志の独演会


今日も人生を彩ろう。

谷口賢志

いつもサポートありがとうございます。余す所なく血肉に変えて、彩りを返せるよう精進します。心より深謝。