かまってちゃん羽織を撃ち抜く魔貫光殺砲からオレンジレンジの音が聞こえる|谷口賢志
宝生流・夜能『杜若』の朗読に出演した際、脚本を担当された、いとうせいこうさんと、能楽の解説や感想を話す機会をいただき、あらためて実感したことがある。
「一枚の羽織が世界を変える」
表情や口調を大袈裟に変えてキャラクターを表現するのではなく、能面の表情を変えなくても、台詞の言い回しや強弱や高低を変えなくても、動きを派手に変えなくても、ただ一枚、新たに着物を羽織るだけで、或いは着ていたものを一枚脱ぐだけで、演者が纏う世界も、観客が観ている世界も変わる。
これまで役者として「衣装」と共に役柄を創り続けてきたわけだから、もちろんその力は理解していたつもりだけれど、つまりは普段着ている一枚のシャツが、ジャケットが、ライダースが、他人へ与える影響力は、世界が変わるとまで言わないけど、自分が思っている以上に大きいんだ。と、あらためて実感した。
今から15年前ぐらいの話になるが、あるCM監督に言われた一言のツッコミが、僕のファッションセンスの一部を作ってくれた。
その巨匠CM監督とはありがたいことに何度か仕事をさせていただき、ありがたいアドバイスを貰ったり、ボケたりツッコミ入れたりできる関係性だった。
あるとき、CM撮影の為の衣装合わせ。僕は当時頻繁に着ていた、真オレンジのつなぎ(私服)で現場に入った。瞬間、スタイリストさんやヘアメイクさんに「派手だねー!」「目立ちすぎじゃない?」「それほんと私服?」「けど可愛いねー」「キャッキャッ!」などと口々に言われ、僕は「いやいや普通ですよ。普通。普通」と素っ気なく返したわけです。すると、その一連を見ていたCM監督が一言。
「お前そう言われたくて、着てるんだろ?」
ドカン。
「変わってるね!って言われたいんだろ?」
ドギャン。
ギョバババババ。
ドカーン。
魔貫光殺砲喰らったのかと思うぐらいの衝撃と、逃げ出したくなるぐらいの恥ずかしさにぶっ飛ばされた。全身オレンジクソかまってちゃんが、折角みんなにかまってもらってんのに、「オレーかまってほしくないンジー!」みたいなこと言ってると思われたわけじゃないですか。意識してなかったけどたぶん図星だよ、それ!ああ!それってクソだるいオレンジ野郎じゃないですか。あ!あ!なんかいい感じ!って歌ってる場合じゃないじゃないですか。ギャリック砲で消滅したくなるじゃないですか。オレンジレンジの皆さん元気ですか?
以来、オレンジのつなぎと心の道着を脱ぎ捨て、亀仙流とファッションかまってちゃんを卒業したわけです。
一枚の羽織が世界を変える。
一枚のオレンジがかまってちゃんを変える。
ここで一曲オレンジレンジでロコローション。
43歳になった今でも「ファッション」についてよくわからないけど、少なからず、自分の生き様と、着ている洋服の存在を背負って、一枚を羽織れるようになってきたとは思う。
そして今なら、オレンジつなぎを着ていても、魔貫光殺砲を弾き返せる気がする。かめはめ波は撃てなくても、世界は変えられなくても、かまってちゃんじゃなく、はなびらの様に散りゆく中で生きていけるがする。
谷口賢志
●ファンコミュニティ『独演会』●
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