見出し画像

谷口賢志の取扱説明書を手に入れたければまずは母親に尋ねてみましょう|谷口賢志note

昨今、「役者」の仕事ーー或いは求められることーーは年々様変わりしていて、「演技だけをして生きている役者」というのは天然記念物に相当するのではないかと思う。

「谷口さんの生き方を尊敬します」「谷口さんの考え方を見習いたいです」とよく言われる。別に自慢したいわけじゃなくて、本当によく言われる。その度に、自分が如何に聖人君子ではないかを説明するのだけれど、ご冗談をと谷口賢志の作り方や説明書を求められる。

役者の仕事の種類が増えた結果、役者という生業の可能性は広がった。そのひとつとして、望む望まないは別にして、自分のことを話す機会や場所が爆発的に増えた。比例して暴かれる事柄の種類も増えた。望む望まないは別にして。

当然、仕事に関しては自分なりに真面目にやっているから、真面目な話しをすることになり、真面目な部分だけが伝わり、谷口賢志真面目号機が皆様に発進されるから、上記のように「尊敬します」「見習いたい」のように危険な思想がどうしても広がってしまう。

そんな活動限界を回避すべく、手持ちに溢れているみっともない部分を曝け出すと、そこはあまり求められず、時には「武勇伝語ってんじゃねぇ!」と非難される。「俺は!捨てられてる猫を見て見ぬふりして通り過ぎるぜ!武勇伝!武勇伝!武勇伝伝で伝伝!」と照れ隠しジョークでバランスを取ろうとすると、「猫虐待だ!」と存在していない猫のことで炎上する可能性すらある。

なんとも難しい時代だ。

自分のことを正確に評価してくれる人物のひとりは間違いなく母親だろう。

生まれてから二十歳ぐらいまでの僕のことを知っているランキング一位はぶっちぎりで母親だ。

高校生のときーー今から二十五年前ーー掃除という概念を持たなかった僕は、部屋が絶えず世紀末だった。見兼ねた母親が掃除をすると、見たこともない虫が大量発生していて、呼び出され、怒鳴られ、僕は吐き気を抑え涙を流しながら虫と延々戦わされた。その姿を母親は鬼軍曹のように見張っていた。

数年前、僕が出演する舞台に両親を招待した。ここ十年「なんで息子がたくさん人を殺すところを金払って観ないといけないのさ」と言い、母親はあまり舞台を観に来なかった。しかし主役をやるということもあり、僕は自腹でチケットを買い、久々に無理矢理招待した。

作品を楽しんだか楽しんでないかは知らないけどーー未だに感想は知らないーー終演後、母親が裏に挨拶しにきたとき、プロデューサーや演出家や共演者など関係者全員に、「うちのどうしようもない馬鹿野郎をありがとうございます!」と挨拶をした。「楽屋とか稽古場に見たこともない虫を大量発生させてますよね?ごめんなさい!」の勢いだった。

いやいやお母様、さすがに谷口賢志の辞書にも「掃除」の文字は書き込まれていますし、二十年間それなりに必死に役者をしてきましたので、そこまで息子を落として挨拶しなくても・・・と思ったりはしない。よ!その通り!さすが!ありがとう!と思う。掃除も碌に出来なかった男が、やりたいことに出会い、ただ一生懸命生きてきただけなんだ。

僕の生き方を尊敬する人は、まず部屋に見たこともない虫を大量発生させてください。

僕の考え方を見習いたい人は、両親に自分の駄目な部分を至る所で暴露させてください。

それが谷口賢志の作り方です。

それにしても人生は何か起こるかわからない。


●出演情報●

舞台『RUST RAIN FISH』


●ファンコミュニティ●

谷口賢志の『独演会』



今日も人生を彩ろう。

谷口賢志

いつもサポートありがとうございます。余す所なく血肉に変えて、彩りを返せるよう精進します。心より深謝。