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Future Noir

友人に誘われて、文学フリマに行った。作り手の催しは、デザフェス、コミティアなどもあるが、文学フリマは、書き物に重点を置いたイベントだ。行くのは初めてだった。友人は、知人の出店と新刊の購入がお目当てで、私は付き添いの気分だったのだが、オルタナ旧市街さんの新刊の情報を知り、興味が増した。
当日、あいにくの空模様。肌寒いくらいだった。近ごろは休日の天候に恵まれず、この日も曇天。天気の神様に休日を弄ばれている。会場は、平和島の東京流通センター。土地勘はゼロ。前日、友人と行き方を話し合うが、平和島駅の周辺で安倍川餅を買うらしく、現地で合流することに決まる。
浜松町駅からモノレールに乗り、会場に向かった。モノレールに乗るのはひさしぶりで、外を眺めたり、座席の位置関係に戸惑ったり、完全にお上りさんだった。車窓から見えるのは無機質な建物ばかりで、人間の姿は見当たらなかった。会場に着き、友人と合流。寒空の下、平和島駅から歩いた友人は、人間を見かけなかったという。トラックの往来が激しく、車の運転も自動操縦なのではないかと夢想する。機械たちが働く未来都市、東京流通センター。
早速、友人の知人のブースに向かう。挨拶と、世間話を聞きつつ(安倍川餅は差し入れだった。気が利く人だ)、本を選ぶ。ショートショートの作品集を購入。友人とは別れて、各々に会場を回る。ジャンルは多岐に渡り、小説、ノンフィクション、詩歌、漫画。雑多な印象を受けた。映画に関わる出店を探すが、目ぼしいものには出会えず。出店の多さ、作り手の熱量に気圧されたが、作品を巡るのは楽しかった。結局、さらに数冊を購入。誘われた身だが、十二分に楽しんだ。すでに休息中の友人の元に向かい、戦利品を読み、雑談。周囲の人たちも読書に耽り、店内は静かだった。
夕方、モノレールに乗り込み、未来都市を離れた。ロボットたちは仕事の真っ只中だろう。三原則に基づき、あくせくと働く姿を思い浮かべる。暗闇にぽつぽつと光が灯り、濡れた路面にはネオンが映り込む。目の前の座席に腰を下ろす友人は食べたいものをぽつりぽつりと呟き、うなぎに思い至ったらしい。私たちは、ひつまぶしが食べたいとか、鰻重派だとか、呑気な会話を繰り広げる。空想と現実の狭間を泳ぎ、モノレールは京浜運河を越えた。

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