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【2日目】あられ改メ黒酒

小学生の頃、国語の授業で『自分の名前の由来を親に聞いてそれを作文にする』という授業があった。
現在ではキラキラネームなんてのがあったり、家族構成も多様化してるのでそんな課題は出せないだろう。
しかし、当時は自分の名前に込められた親の思いやなんかを作文にすることで親の愛を感じさせ、ひいては非行防止につなげようとしたんだと思う。

私の名前は繁盛(しげもり)という。
母に名前の由来を聞いたら「昔お店をやってて、その店が商売繁盛するように」と言った。
だが名前に込めた思い虚しく私が生まれてすぐに店はたたんだそう。
「全然繁盛してへんやん」と思ったが口には出さなかった。

会う人会う人に「しげもりって凄い名前だね」と言われた。将軍みたいだと。
その度私は「いや実はこの名前、何の意味もないんですよ。昔お店をやってたんですけどすぐ潰れちゃって〜」と笑って話した。
でもなんか引っかかってた。
作文は適当に書いた。

そんなこともあってか名前なんてどうでもよくて、二ツ目の芸名は【あられ】のままじゃダメですか? と師匠に聞いてみたら「名前は節目節目で変えた方がいい」と仰る。
じゃあ【喜助】(師匠の二ツ目の時の名前)ください。 と言ったら「良い名前じゃないからダメ」と仰る。
以前、自分主催の会のお客様アンケートで『あられが二ツ目になった時の名前』を募集したことがあった。
それを集計して師匠に見せたら「んー…もう少し考えてみて」と仰る。
じゃあ雲助師匠に付けてもらおう、と相談してみたら「なんでもいいよ、好きにしてくれ」と仰る。
【桃月庵なんでもいいよ】にしようかと思った。

江戸東京落語まつり2022の最終日、楽屋から高座までの廊下で師匠が
「桃月庵くろきはどう?」とニヤニヤしながら言った。
一瞬何のことか分からなかったけど【くろき】というのは聞き覚えがある。

「ああ、私の苗字が黒木だからですね」

私の名前は黒木(くろき)という。黒木 繁盛。
【桃月庵黒木】か。
めちゃくちゃふざけてるなぁ、と思ったら
「くろきの『き』は『酒』な。お神酒の『酒』だから縁起がいいし洒落がきいてる」と師匠。
【桃月庵黒酒】いやいや白酒に対して黒酒は恐れ多いし、中学生が付けたみたいな安直さがある。
「いやぁ……」と渋い顔をしてると「まあ今パっと思いついただけだけど」と師匠は高座へ上がっていった。

その日の夜にふと「パッと出るかな? 弟子の苗字」と思って、
黒酒について調べてみた。

新嘗祭(しんじょうさい)大嘗祭(だいじょうさい)などで、白酒 (しろき) とともに神前に供える黒い酒。甘酒クサギの焼き灰を入れて黒くしたもので、室町時代には黒ごまの粉を入れたものを用いた。→白酒(しろき)
goo国語辞書

『黒酒』というものは師匠が『黒木』から適当に作った造語じゃなく実際にあった。
白酒とちゃんと関連しているし、ひな祭りの白酒もこの新嘗祭の風習から変化したという説があるそうで、桃月庵とも関わりがないわけじゃない。
また新嘗祭は11月23日(勤労感謝の日)で披露目の最中。
本名の黒木とかかっていて洒落がきいている。
パッと出るか? 本当は考えてくれたんじゃないか。

私の両親がやっていた店の名前が『くろき』という。
『くろき』の商売が繁盛するように、と付けてもらった『繁盛』。
期待には添えず『くろき』は繁盛しなかったけど、『黒酒』の商売が繁盛するための名前だったと思えば、30年以上意味がないと思っていた名前に意味が付いた気がする。


2/40 鈴本演芸場 二日目
【寿限無】
名前の由来を話したくて寿限無。
最後の戒名の小噺はオリジナルじゃなくて、作者不明のもの。
「いつも来ているお客さんに悪いから、と誰かが作ったんだと思うよ。蛇足だけどね」と教わりました。
確かに蛇足ではあるんだけど好きでやってます。

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