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都市獣拳

 空手はアプリで学べた。
 身体に端子を開け、アプリの入ったメモリを挿すだけで、達人になれる。
 クソ親父もそれに惹かれた輩だった。
 路地裏で襲われそうになった私を電子空手で薙ぎ倒し、私を拾った。
 クソ親父には感謝している。
 野垂れ死ぬところだった私を助け、痛みと怒りを教えてくれた。
 電子空手ではダメだということを教えてくれたのも、父だった。

「ぐぎゃあっ!」

 と情けない悲鳴を上げたクソ親父を覚えている。
 酒場に私を連れ出した時だった。
 ヤツは私を傍に置きながら、女を口説いていた。
 おっぱいがデカくてすらりとした女だったと思う。
 そいつには連れがいた。
 男だ。
 時代錯誤な空手着の上にコートを羽織っている姿が脳に刻まれている。
 端子は開けていなかった。
 クソ親父はそれを見て調子づいたのだろう。
 空手で挑発した。
 空手で返された。
 激しい殴り合いの末に、クソ親父は死んだ。

「保護施設にでも行くんだな」

 空手男はそう言って、女の腰を抱いて去っていった。
 彼への怒りなんてものはない。
 連れていってほしかったとは思うが、過ぎたことだ。
 私はストリートチルドレンに逆戻り。
 だがクソ親父の遺したカネがあった。
 そいつで空手を習った。
 合気道も習ったし、変な横文字の武術も習った。
 もう四年くらい前のことだ。
 今は格闘チップも進化している。

「しゃっ!」

 目の前の男が入れているそれも性能が良かった。
 精密だ。
 僅かな隙も見逃さない。
 だから機械仕掛けの殺気を見分けるのは容易かった。
 作った隙でも的確に突いてくれるのだから。

「ふっ」

 腰を落とす。
 鋭い蹴りは空を切った。
 私は跳ね上がる。
 同じような蹴りをお見舞いした。

「がっ!?」

 首に命中。
 丁度メモリが挿さっているところだ。
 男は痙攣して、崩れ落ちた。

「やるな、生肉女」

 後ろで声がした。
 振り返ると、全身義体の男がいた。
 鋼鉄の拳が眼前に迫っていた。


つづく

踊って喜びます。ドネートは私の生活や他のクリエイター様のサポートなどに使わさせて頂きます。