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画面の弾幕(そら)を超えて、君に会う。

4月の放課後。駅前の繁華街は制服を着た高校生で賑わっていた。その一角にゲームセンターがあり、表口にはクレーンゲームが並んでいた。

敷島マキは百円玉を握りしめ、遊ぶ台を選んでいた。入学から半月。高校生活初の放課後遊びに少し胸を躍らせていた。

ゲームの景品の品定めをしているとき、反対側の裏口から同じ制服の女子が入ってくるのが見えた。艶やかで黒い長髪にガラス細工のような瞳。それは学年トップの優等生、金ヶ崎智代だった。智代はこちらのコーナーにを意に介さず、さらに奥のコーナーへと姿を消した。

マキは好奇心でこっそりと智代の後をつけた。たどり着いたのは最奥部。少し昔のビデオゲームが忘れ去られたように5台並んでいた。表に比べて薄暗く、空気が冷たい。

マキは陰から智代を観察した。智代が座ったのは縦スクロールSTGの台だった。智代がコインを入れると、それまで無音だった筐体から小気味よい効果音が飛び出し、ゲームが始まった。

画面を埋め尽くす弾幕を掻き分け、自機を画面上部に突き進めて大量のアイテムを貪欲に取る。その淀みない手捌きはゲームに詳しくないマキをも虜にした。ブラウン管の薄明かりに照らされた智代の後ろ姿は、神憑りの巫女のように神秘的だった。

しかしラスボス前の最終局面で智代は初めてミスをする。神憑りの儀式はここで途切れた。

智代の舌打ちが聞こえた。残機を全部潰して席を後にする。マキは思わず陰に引っ込もうとするが間に合わず、智代と目が合ってしまった。

「あ…」マキの心臓が高鳴った。二人の時間が一瞬凍った。

「これ、順番待ってたの?」智代が沈黙を破って聞く。
「う、うん」マキは思わず頷いた。

迂闊に頷いたばかりに智代に促され、ゲームが再び始まった。智代の視線が背中に突き刺さる。「実は私もゲームマニアでして」と取り繕う腕前も当然無い。マキの手は汗ばんでいた。画面上の自機は覚束ない動きで敵陣へ飛んでいく。

【続く】

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