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変わってしまった世界に再開した映画館で、『天気の子』を初めて見た

 映画館に、映画が帰ってきた。

 緊急事態宣言が終わり、各地の映画館は約2ヶ月にも及んだ営業自粛から、ようやく映写室に灯がともるように。東京都も、6月5日(金)からはTOHOシネマズが営業再開となり、映画館は全国的に再び開くようになった。

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 この厳しい状況は、様々な感情を沸き立ててくれる映画館を将来に渡って存続させたいならば支えなければならないし、最後に映画館で映画を見たのは3月上旬のことで約3ヶ月も映画館で映画を見ておらず、そろそろ映画館での映画鑑賞を待望していたことから、早速再開したシネコンへ『天気の子』を見に行った。

 『天気の子』は、『シン・ゴジラ』や同じく新海誠作品の『君の名は。』とともに、新作映画が供給されなくなったため、あちこちの映画館で上映されている旧作の代表的な作品だ。

 『天気の子』公開以降ネタバレもシャットアウトしていたことにより、すでにパッケージソフトや配信もリリースされ公開からまもなく1年が経つという頃に、本当にまっさらな状態で『天気の子』を見るのだ。

再開した映画館の様子は

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 足を運んだイオンシネマは、ロビーのエントランスが入口と出口でポールパーテーションで仕切られており、ロビーに入るためにはスタッフの方から手へのアルコール噴霧を受け、非接触での検温を受けなければならない。

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 映画を見るためではなくロビーに入場するために必要なので、売店だけ利用したり、チラシをもらうだけでもこれは必要だ。

 ロビーには、他に2〜3人程度の観客がいるだけ。平日の夕方とはいえ、往時のにぎわいはなくこの場にいるスタッフよりも少ないという状態だった。とにかく、ひと気がない。チケットの自動券売機の音声が、ロビー内に響き渡る。

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 場内には、「近日公開」と貼られた春休み映画のポスターやスタンディが並ぶ。もう半袖Tシャツの6月なのに、まだ肌寒い頃で止まっている。

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 『天気の子』の上映劇場内は、私以外に観客が1人だけ。

 特別上映の1100円のチケット料金のため、この1回の上映での興行収入は2200円。

 大雑把に分けて、配給の東宝に1100円、イオンシネマに1100円が渡る。劇場側は、スタッフ1人の時給にしかならない。これはきびしい。

 これだけ空いた劇場ならば、密の危険も感じなかった。

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 上映前には、全興連(全国興行生活衛生同業組合連合会)による感染症防止策の映像が流れるし、イオンシネマの空調についても紹介される。映画泥棒に次いで、上映前のおなじみの映像になりそうだ。

 映画館も変わってしまった。

変わってしまった映画館で初めて見た『天気の子』

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※Anime Japan 2019での『天気の子』ブースの模様

 そんな半ば貸し切り状態に近い劇場で、初めて見た『天気の子』は…

 心の中のどこかに中二男子が住まうのならば、叫びながら走り出すこと間違いなし!

 あの子は僕の世界のすべて!
 あの子と世界がつながる!
 あの子か!世界か!

 セカイ系を一巡して破壊と肯定をもたらす究極のセカイ系が、令和の世になった2019年最大のヒット作になるとは!

 すでに大人になった者ならば、恋に恋したあの頃を思い出して身悶えし、気持ちが若返るような映画!

 これはアンチエイジング映画だ!

 須賀は大人になったあなたの理想系、そして穂高はあの頃のあなたの理想系!

 青い!蒼い!青くさい!

 だが、それがいい!

 と、はっきり言える人はついていけるし、色々とついていけない人も出てくる映画(おそらく、それも折り込み済み)。

 『君の名は。』で、歴史に残る大ヒットを成し遂げた後で時間や予算の制約もおそらく緩和されて作り上げた次回作で、伝えたかったことはこれか!

 大成功したイイ年の大人が、このような作品を作るとは!(褒めてます)

 随所に登場する過去作の要素も、まさに新海誠ユニバース。

 止まぬ土砂降りの雨が降り続く世界でも、君が、君さえいてくれればいいんだ!!!!!!!

スクリーンから戻っても、世界は変わっていた

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 そんな感じで『天気の子』が終わり、2人しかいない劇場内が明るくなって誰もいないロビーに、無数の「近日公開」と貼られたポスターのある映画館に戻ってくると、確かに世界は狂ってしまって元通りにならないと、スクリーンの世界から帰ってきてますます実感させられる。

 天候も感染症も自然の中の一部で、人の営みがどうなろうと自然には関係ない。世界は元から狂っていた。

 そんな、強制的な変化を強いられる中でも人々は、とりあえず今日を生きていく。

 こんなに説得力のあるエンディングになろうとは、2019年の夏に鑑賞したら思いもよらなかっただろう。

 『天気の子』を、変わってしまった世界の映画館で見ることは、2019年の夏に見るのとはまた違う意味を持つことになった。

 そして、映画館は再開したが、映画界の復活はまだこれからだと実感した。

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