[Vol.1 ~Throw-In Analysis (スローイン分析)]

第一回はスローインについてです。

試合は1/16(月)リーガ17節アルメニアvsアトレティコ、1/28(土)FAカップ4回戦マンCvsアーセナル、1/29(土)FAカップ4回戦ブライトンvsリバプールの3試合を対象とした。スローインの数は全部で103回であった。
(あくまで分析対象はこの3試合のみで母数が少ない分、結論付けたものは仮説っぽいニュアンスです。是非自チームや対戦相手を見る際、海外試合やこれから始まるJリーグを見る際に参考にしてみてください。また全て手集計の為誤差を含みます。)

分析しやすいようにスローインの中でも特定の条件にいくつか分類する。以下添付図を使いながら説明する。

スローイン時特定条件の図

まず、エリアは大きく3つに分ける。一般的にピッチ縦に三分割して自陣から近い順に、「ディフェンシブサード(以下、DF)」「ミドルサード(以下、MD)」「アタッキングサード(以下、AT)」と呼ぶのでそのまま使う事にする。(これは、エリアATよりもDFの方が積極性を欠きより安全に行おうとする心理を予想して、少なからず投げるエリアによって種類が変わると仮説立てた為)
次に投げる方向を5つに分ける。ここは若干曖昧だが、図のように後ろ(自陣側)、斜め後ろ、横、斜め前、縦(敵陣側)とした。また、受け手がどの部位(足元/もも/胸/頭など)で受けたか、出し手と受け手のポジションはどこか、どういう状況下で受けたか、その後のプレーについて記録しながら見ていった。

約100シーンを3つの評価で分類した。[○](シュート、クロス、逆サイドに展開など次に繋がるナイスプレーと判断したもの)、[-](後ろに下げてビルドアップなど、特に直接的にチャンスには繋がっていないが悪いとも言えない(良い悪いどちらかに評価できない)もの)、[×](インターセプトされる、相手ボールになるなど、良くないと判断したもの)とした。
*これらは全て主観的な判断な為、観る人によって判断が分かれる可能性もある事は留意したい。

[Throw-In in DF]
(RESULT) [×]-41% , [-]-47%, [○]-12%
(Analysis)
・The Conditions of [×] ([×]となった多い状況下(具体例))
1) 縦方向に山なりで15~20mくらいの距離をFWの頭に入れそらすスローイン→そらした後のセカンドボールが相手に渡る(FWが出ている分その先に誰もいない)、少しの助走or止まった状態のFWに対して、マークする相手CBは後ろからより長い助走を取って上からヘディングする
2) 下げてGKからロングキック繋がらず→エリアDFでのスローイン時、相手DFラインがハーフラインより少し前にいる事が多く、自陣では相手が多い分心理的に繋ぐ事が怖い、選手がボールサイドに寄る事が多いので、GKからのビルドアップ時居てほしい所や普段いる所に味方がいない、Voもマークをつかれている、相手ラインが高い分その後ろのスペースに蹴ってWGなどを走らせて繋げたい、そもそも繋ぐ意思はなく一旦押し上げる等…
3) 斜め前方向下りてくるFWにライナー性の低くて速いスローイン(15~20m程)→インターセプトされる

・The Conditions of [-]
1) Quick(すぐに)後ろor斜め後ろに下げて逆CBに入れてビルドアップ(ボールサイド以外の選手は寄りすぎず普段の自チームのビルドアップする形をできる限りキープする)
2) 下がってくるVo,IH,WG,FWに対して足元(スペース)に入れてそのまま下げるor逆サイドへ

2)の状況の図

2)のような状況はどのエリアでも多く見られた。あえてスロワーの前は誰も入らず、そこに後ろ向きで入りながら入れてそのまま下げたり逆サイドへ入れる。この時、大事な事は、味方の動きを止めない事、投げる球種は、ふんわりと味方の勢いを殺さないように足元に入れてあげるor小さなバウンドですぐ収められるようなボールを投げる事。下がりながら入れる事で相手に体を当てられない状況をキープできる。

・The Conditions of [○]
1) QuickでフリーのVo縦に受けてスロワーのSBへリターン→ワンツーでSB前に出て行き縦方向にドリブル
2) 斜め前のVo受けてリターンでSB→20m程前方中央にいるFWにパスを入れて収める→反転してドリブル開始(シュートまで)

(DFでの分析結果)
このエリアでは、自陣ゴールに近い分、心理的に前へ大きく投げたいが、結果として、特にFWの頭に当てるロングスローは[×]に繋がりにくい。また、GKまで下げた時に、相手がプレスをGKまでかけて、ロングキックで逃げた時も繋がりにくい。
逆に近場に当ててから次に繋げる事がこの局面では[-],[○]に繋がりやすい。特に、[-]での2)のように、後ろ向きに下がりながら当てることで相手に体を当てられる事なく展開できる。また、この場合相手FWは後ろを向くor数歩下がるので、その分下げた時に若干の時間が生まれ次のビルドアップに繋がりやすい。
また、[○]のように一度近くの前方向で受ける事で、相手Voを前に出させて、味方FWの受けるスペース(相手Vo-CB間)を広くできる。この時、FWはボールサイドに寄らず、中央で構えている事でよりスペースがある。

また、このエリアでは、スロワーは全てボールサイドのSBであり、数回受け手の利き足に意図的に出して、次のプレーにスムーズに繋げる事ができた。

[Throw-In in MD]
(RESULT) [×]-19%、[-]-67%、[○]-14%

・The Conditions of [×] ([×]となった状況下(具体例))
1) 斜め前、縦に対して背負った(ポストプレー)FW, WGに足元、ももにスローイン→相手DFの後ろからの圧力に耐えられず、トラップミスやボールを離して相手にインターセプトされる(長い距離、短い距離どちらとも)
2) 横、後ろに対して足元にボールを入れてワンタッチで相手DFの裏へ→パスミス

・The Conditions of [-]
1) Quickで下げてビルドアップ(逆CB,GKへ)
2) エリアDF同様下がりながら受けてくる味方へその勢いを殺さないようなパスで下げてビルドアップ
3) 横(斜め前)に体を向けて投げる雰囲気を出し、相手FW,WGが下がってきた所で低くて速いボールを後ろに入れてビルドアップへ繋げる

・The Conditions of [○]
1) 寄ってくるVo, WGの利き足に出してワンタッチで中or外へ(Voであれば中→サイド(外)、WGであればサイド(外)→中(FW))
2) ボールサイド相手SBの裏へFWが流れていき、そこにロングスロー(20~25m程)で入れる→収めてから中に入っていったWGなどへ

[MDの分析結果]
このエリアでは、DFに比べて圧倒的に[×]の%が減り、[-]の%が増えた。DF→MDに連れて、守備者側は当然ボールサイドは左右どちらかに絞れる一方で、出されるエリア(DF, MD, AT)とその方向(後ろ, 斜め後ろ, 横, 斜め前, 縦)が可能性としてより均等にあり得る為、一点に集中して守備ができない。チームによっては、自陣ゴール近くのエリアを埋めてしまい、あえてFWも意図的に低い位置を取る事で後ろに下げさせる。実際、対象試合でも同様な現象は多くあり、結果[-]の数字が伸びていった。ただ、皮肉にも、[○]の状況においては、後ろ、斜め後ろの選択肢はなく、全てが横,斜め前,縦のどれかであった。チャンスに繋げる為には前方向に出す事は、一見当たり前の様だが、実際は前方向に行けば行くほど、相手の守備枚数も増え、単純には投げ入れる事ができない。
その中でも、今回の[○]の状況下は代表的な崩し方だ。一つは寄ってくる選手に預けてそこからワンタッチではたく事だ。ここで注目したいのは、一つはリターンパスではなく、スロワーではない選手に出すことだ。寄っていくという行為は、特にスローインという局面においては、ほぼ確で相手選手も引っ張ってくる。エリアATでも後述するが、リターンで返せば、もしそのまま相手選手がスロワーにまでプレスをかけた場合、寄った分距離は縮まっており、非常に強い圧力がかかる。また、サイド→中、中→サイドと、別レーンにダイレクトでパスしている事も注目したい。スロワーは利き足に出しており、出し手の丁寧さも必要となる。また、WGが寄っていってその裏へのロングスローも有効だ。2)イメージ図にもあるようにその後の動き方もデザインすればこの局面からも大きなチャンスを作れそうだ。

余談だが、対象試合において、約20m~25m程のロングスローを止まった状態で背負ったプレーをしてほぼ全員のFWが相手CBの勢いあるプレスに耐えきれず、結果取られた。しかし、アーセナルのエンケティアだけは止まった状態でキープに成功した。エンケティアは勢いよく来る相手CBにあえて後ろ見しながらバック走で近づき、右手で相手を掴んで相手CBを止めさせてお互い止まった状態にした。そして、腰を落としながら、相手と少し距離を取るようなトラップ&ボール保持で時間を稼ぎ味方WGが中に入った所でパスを出した。相手CBはファールを要求したが笛は鳴らなかった。確かにファールの様にも見えなくもないが、この手の使い方、体の使い方を練習すれば、ロングスロー時非常に怖いFWになり得そうだと感じた。是非、あなたがプレイヤーで、FWであれば、エンケティアのプレー集などを見てほしい。

[Throw-In in AT]
(RESULT) [×]-25%、 [-]-69%、[○]-6%

・The Conditions of [×]
1) 斜め前方向約15m遠い位置で味方を走らせて入れるスローイン→近くの相手Voなどにインターセプトされる
2) ワンタッチリターン→そのまま相手がプレスをかけてきてかなり狭い局面
で奪われる

・The Conditions of [-]
1) 後ろに下げてインプレー(横を向いておいて相手を下げさせる事も)
2) WGがスロワーで、FWに当ててダイレクトでリターンを受けてそのまま敵陣サイド深くまで運んだ後に、後ろのSBへバックパス

・The Conditions of [○]
後ろフリーのCB or FWが斜め後ろから受けワンタッチでサイド大外のWGへ出してクロス

[ATの分析結果]
先述した通り、相手はまず自陣深くに守備枚数を当てるため、後ろに下げる事は容易にできる事が多い。結果[-]の数が多くなり、前方向にチャレンジすれば自ずと[×]が増える。
また、このエリアでは、15m程の距離の中で斜め前方向に出すと、近くの相手選手にインターセプトされた。低く速いボールではあったが、手で投げる分スピードも足よりは無く、通すのが難しい。イメージしやすいのは、ATからボックス(ポケット)内へのスローインだ。ここは工夫が必要そうだ。また、先述した通り、寄った状態でのリターンは[×]に繋がりやすい。
このエリアでの[○]はクロスであった。直接シュートまで持っていけるシーンも今まで見た事はあるが、改めて今結果を受けて、この局面では、クロスの準備をしておく、練習をすることが大事だと感じた。
また、MDでもあったが、横や斜め前を向いて投げる様に見せることで相手の前線の選手の立ち位置を下げさせて、一気に後ろに速くボールを投げる事もプロ選手は行っていた。
また、ManCityはこのエリアATになると、WGがスロワーとなっていた。[-]部分で記しているが、リターンを受けた際に、かなり狭い局面ではあるが、ドリブルが出来る、無理でも後ろにSBが受けを作り、CBへ下げて再度インプレーが続行できる。ドリブルの得意なWGがいる際には、この方法を試してみても良いかもしれない。また、アトレティコはATにおいてSBの相手ゴールに向かったロングスローもあった。しかし、全て相手に先に触られてしまい成功とはならなかった。単純な身体の勝負では、高校・大学サッカーでは多くこの形から得点が生まれるが、プロにおいては、もっとデザインされるべきかもしれない。

[全体の総括]
本稿では、簡単に、利き足に出すスローイン、低くて速いスローイン、ふんわりと足元に出すスローインなどと書いているが、実際行うにはかなり難しい。私自身スローインをしていて、正直受け手の利き足に意識して出した事はほとんどない印象だ。それが、小学生年代などでは尚更だと思う。もしあなたが指導者だったら、教えるカテゴリーにもよるが、スローインの練習を是非、してみて欲しい。また、その際、各エリアで起こりそうな事象をイメージしながら練習メニューを組んでみた方が良い。想像以上に出来ない事が多いのではないかと思う。
記録を続けているうちに、各エリアで見られる特徴的なパターン、どのエリアでも見られるパターン、スロワーの意図、チーム全体の約束事など様々な事が見れた。今回は、合計6チームのみであったが、例えば、先日のW杯のスペイン代表は、インプレーに拘り、9割以上をQuickで後ろに下げていた印象があるし、昨年のルヴァンカップ決勝での広島vs甲府で、力関係的にも、FWの体格を活かして、甲府はATエリアでほぼ全てロングスローをしていた印象がある。チームによってはどこでも前方向or後ろ方向にしか投げなかったり、絶対足元にしか入れないチームもあるかもしれない。これからも様々な試合をスローインに着目して、そのチームの特徴を探っていきたい。あなたのチームはどういった特徴がありますか?

読んで頂きありがとうございました。何かございましたら、お問い合わせ下さい


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