ゾゾ_中国

ZOZOの新”三本の矢”(中国進出、MSP、自社EC支援)が心配

中国への再進出を発表!

ZOZOは昨日(4月25日)、19年3月期の通期決算を発表しました。商品取扱高(ZOZOTOWNの流通総額やその他事業の売上高の合計値)は前期比19.4%増の3231億円となりましたが、営業利益が前期比21.5%減の256億円となってしまいました。期初計画と比べると商品取扱高は89.8%、営業利益は64.1%、当期純利益は57.1%の大幅な未達となりました。

計画未達の要因はPB事業「ZOZO」の不振です。そこについては皆さんご存知だと思いますので、注目したいのは「挽回策は何するの?」という点です。もちろんその点については、前澤友作社長が自ら発表しました。

挽回策は大きく3つの取り組みがあります。アベノミクスではないですが、これを3本の矢と例えることができると思います。その内容は・・・

①日本ブランドを引き連れての中国本土への再進出
②ブランドのアイテムを好きなサイズで購入できるMSP(マルチサイズプラットフォーム)事業を開始
自社ECサイトの運営支援事業を強化

の3つです。このどの取り組みもリスクが高く、本当に成成功できるのか心配に思ってしまうものばかりです。

特に中国本土に、しかも独自ドメイン、自社アプリで進出するのはなかなかのハードルです。日本のファッションブランドが中国で特に人気というわけではないと思いますので、アリババやJD.COMなど中国の巨大モールと真っ向から戦いを挑むことになります。すでに巨大な経済圏を築いている巨人とゼロから戦うのですから大変そうですよね。

アマゾンも中国からは撤退しました。楽天のように現地のプラットフォームに乗っかるやり方の方が現状では成功確率が高そうですよね。いずれにせよ年内(早ければ11月11日の独身の日まで)に進出する予定のようですので、どう戦うのか見ものですね。

MSPはPBの二の舞にならない?!

MSPはブランドのアイテムをマルチサイズ(自由なサイズ)で販売する新たなサービスです。「PBはベーシックアイテムだけだったのであまり売れなかったけど、マルチサイズへのニーズは高いため、ブランドの魅力的なアイテムをマルチサイズで販売できれば売れる!」というのがZOZOの見解です。

これはどんなアイテムが出てくるのかにもよると思いますが、購入までのユーザービリティーはPBと変わらないだろうと考えると、そんなに大きな売り上げを生むサービスにはならない気がします。PBで人気が高かったジーンズやTシャツ、スーツなどのアイテムは多少ハマるかもしれないですね。確かに一定のニーズはあるとは思いますが・・・

自社EC支援事業は確かに魅力的だが

自社ECの運営支援事業の強化策も打ち出しました。これはグループ会社のアラタナが提供している自社EC支援サービスを強化するという内容です。具体的には、アパレル企業のフルフィルメント(受注、決済、発送、商品保管、ささげ等)を代行するサービスです。「自社ECの運営手数料15%を無料化」というのは、自社ECで販売した商品の売上に応じて徴収していた15%の手数料を無料にするという意味だと理解しています(詳細確認していないので未確認情報です)。

固定費などがあるのかないのか未確認ですが、手数料が主なコストだと思うので、それが無料になれば、委託したアパレル企業はフルフィルメントのコスト(もちろん配送料などはかかるはず)がかからず、自社ECサイトを運営できるようになるので、これはすごいサービスですよね。

利用条件はZOZOTOWNとの在庫共通化

ただ、このサービスには条件があります。上のスライドにも「ZOZOTOWNとの共通在庫のみ」とありますが、自社サイトの在庫とZOZOTOWNの在庫を共通化した場合のみ、手数料を無料化できるということです。ZOZOとしてはこのサービスに興味を持ち、委託企業が増えれば、ZOZOTOWNの在庫が増え、ZOZOTOWNの販売力が上がるという公算があります。もちろんZOZOTOWNで販売した商品については手数料を徴収するでしょう。

さらにフルフィルメントだけではなく、広告サービスなどもアラタナは手掛けているので、委託企業へさまざまなサービスを提供することで、収益化を図ると思われます。

自社ECサイトとZOZOTOWNでEC売上のほとんどをまかなっているアパレル企業(これがかなり多い)にとってはかなり魅力的なサービスです。しかし、この共通在庫は楽天やアマゾン、マガシーク、ショップリスト、ロコンドなど他モールの販売商品の発送には対応しないので注意が必要です。

アパレル企業はオムニチャネル的な観点から、販売チャネルを多角化しながらも、在庫はリアルもネットも共通化したい(けどなかなかできない)という会社が多いです。将来的な販売チャネルの多角化や在庫の一元化を見据えている会社にとっては、ZOZOにEC在庫の管理を依存するのは一過性の取り組みとしては良くても、長期的には厳しいと考えるところもありそうです。

挽回策での損失拡大は避けたい

新”三本の矢”とも言える取り組みは、それぞれに不安要素をはらんでいます。どんな事業もリスクはつきものだと思いますが、とくに中国進出のハードルは高い。PBの挽回策として打ち出した取り組みで、さらに赤字を膨らますようなことになると、さらに厳しい局面を迎えることになりそうです。

個人的にはZOZOTOWN事業だけにあぐらをかかず、挑戦を止めないZOZOの姿勢はEC業界の記者としても応援したいところです。まずは具体策を待ちたいと思います。


EC業界向け専門紙「日本ネット経済新聞」で記者してます。EC、通販、モノづくり、流通、マーケティングなど取材していく中で紙面には書かない自分の考えや疑問について書いていきたいと思います