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ドル売り・円買い介入で何が起こるのか

石塚良次先生が「ドル売り・円買い介入」に対する野口悠紀雄先生の論説について疑問を呈されていました。

https://twitter.com/R__Ishizuka/status/1592348967656099841?s=20&t=0GSV7ulVcpAmZNED26Ysqw

そこで私も石塚先生が引用されていた野口先生の元記事を拝見しました。
https://www.sbbit.jp/article/fj/96202

私の理解では野口先生の元記事は論理的に間違っているので、石塚先生のご疑問はもっともだと思いました。以下、その根拠を簡単に記します。

日本国が行うドル売り・円買い介入は、公会計では「外国為替資金特別会計」を使って行われます。これは日銀の会計ではなく日本政府(財務省)の会計です。

日本政府の指図を受けた日銀はまず米国債を売ってドルを買います。厳密にはFRBを構成する米国連銀のどこかで決済することになると思いますが、ここでは便宜的にFRBと表します。
https://www.bank-daiwa.co.jp/column/articles/2017/2017_75.html

この時点で日本政府の指示を受けた日本銀行がFRBに持っているドル口座にドル資金が入ります。

次に日銀は円を保有する日本の民間銀行にドルを売ります。その民間銀行がFRBにドル口座を持っていればそこに送金します。また、その民間銀行がFRBにドル口座を持っていなければ提携先の米国民間銀行のFRB口座に送金します。

ドル資金の決済はここで終了です。
次に円資金の決済です。

日本の民間銀行は日本政府に支払う円を日本銀行当座預金(日銀当預)を使って決済します。そうして野口先生が仰る「銀行の日銀当座預金の残高が減少し、政府預金の残高が増加する。」という結果になります。ここまでは正しいです。

しかし、野口先生が次に仰る「銀行は日銀当座預金が減るので、その減少分を埋めるために、無担保コール市場などで資金調達を行う。」という部分が違います。
https://www.sbbit.jp/article/fj/96202

公会計の実務を知っている人から見れば「そんなことはないでしょう」という話になりますね。

「外国為替資金特別会計」のしくみから言えば、ドル売り・円買い介入によって増えた政府預金の残高は、円売り・ドル買い介入の時に発行した国庫短期証券を償還するために使われます。

結果的にいったんドル売り・円買い介入により増えた政府預金は国庫短期証券の償還によって民間銀行に戻り、野口先生が仰る「短期金利に上昇圧力がかかる。つまり、日銀が金融緩和政策をやめて、引き締め政策に転じたのと同じ効果が発生する」という現象は起こりません。

野口先生の論説は全体の流れの一部分だけを切り取っていると言えます。

実際には、ドル売り・円買い介入によって短期金利への上昇圧力がかからないので、サイト記事の2ページ目は前提条件が間違っていることになります。そのため、2ページ目は全体の記述が間違っていることになります。

うがった見方をすれば、財務省は上記の国庫短期証券の償還を行いたくないのかもしれません。なぜならば、財務省が唱える「国の借金」1000兆円には国庫短期証券も入っています。償還をすればその分だけ「国の借金」は減ってしまいます。野口先生は財務省の御出身だからこんな無理筋のことを仰っているのかな、という疑念さえ抱きかねません。

でも、もし国庫短期証券の償還を行わないとしても、政府が余分の政府預金を持っておくことはないので、日銀が保有する日本国債の償還時に政府が保有する政府預金と相殺され、結局は国債が償還されます。結局、「国の借金」は減ってしまいます。

だから日本政府(財務省)がドル売り・円買い介入によって得た円資金を国庫短期証券の償還に回さないということは考えられません。

以上が石塚先生のTweetを拝見しての説明です。
読者の皆さんのご参考になれば幸いです。

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