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8/29 18:47 踏まれて覚えたオトナ

お久しぶり。
生きてる? 生きてるよ。
笑ってる? 笑ってるよ。
不機嫌な空を見て、湿った空気をひと呼吸分。
太陽に負けたアスファルトが、雨にも負けた匂いがした。

電車に乗る時にふと思い出した。
「あなたは自分が傷つくことには敏感で、他人が傷つくことには鈍感」
だから叱れないと、アルバイト先の上司に言われたことがある。

「プロ」ばかりがいる飲食店で、他のチェーン店とは勝手が違った。マニュアルはあるようで無く、無いようであった。
食材を調べるのは自分の目と鼻。触った時の感覚。
お客様の要望を覚えるのは頭。
すべて手が抜けず、何に関しても技が必要だった。
プロとしてのこだわりに、いい意味で振り回されていたあの頃。
20歳の私には厳しすぎる言葉もあって、何度も挫けたし泣いた。
うまくやってる人達が羨ましくて、何度も辞めようとした。
私だけがうまくできない世界のようで、苦しかった。毎日が憂鬱で、死ぬことも考えた。
そんな中で言われたのが、冒頭の言葉だ。
雷のように頭から全身に駆け抜けた。
私が人を傷つけてる? どういうこと?
だって私が傷つけられてるのに。
そんな言い方しなくてもいいじゃないって毎日思ってるのに。

「傷つけるために言ったことじゃないのに、ショック受けた顔されたり泣かれたら、こっちが傷つくのよ」

上司は眉を釣りあげて怒っていた。
その隣によく注意してくれた社員さんが立っている。
とても、とても悲しそうな顔で。

ようやく、私は社員さんを傷つけていたことに気づいた。
傷つくことで誰かを傷つけることがある。
注意するっていうのは、言う側にもストレスがかかる。
仕事以外で人と関わるのを徹底的に避けてきた私には、到底考えつかないことだった。

私は虐げられるだけの可哀想な人間ではなかった。自身を可哀想と思い込む、悪者だったのだ。
現実が涙腺をくすぐったけど、もう泣くわけにはいかなかった。

仕事では泣かない。注意は喜んで受け取る。
私を思ってくれる人に感謝を。

まだ世界が私を見放していない証だから。

少しだけ、世界が明るくなった日。
ちょっぴり生きやすくなった日。
それからも変わらず注意されることばかりだったけど、今思えば「確かになぁ」と納得出来ることばかり。
それどころか、今なら「でもその言い方で傷つくなっていうのも変ですよ」と言い返せる部分もある気がする。
あの時は子供だったのだ。
周りをいっさい見ていなかった。
誰かしらが気にかけてくれるのを待つばかりだった。

涙を我慢した瞬間から、私は大人になり始めた。
たくさん失敗したけど、なんとか大人になった。
たまに心の奥で子供の私が泣くこともあるけど、大人の私が灘められる。
きっと何十年後にはもっと大人の私が、現在の私を慰めるのだろう。

芯を突いた言葉は、受けた人を変える。
言葉は人生の足跡。
足跡を残された私は、幸せ者だ。

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