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入場しました

改札で交通ICカードを使用するたびに、入退場の通知が入るシステムがある。
楓さんは娘の真奈さんに、システムと紐付けた定期を持たせていた。
中学生になり、部活などで帰宅時間が疎らになったためだった。

朝の入場通知が2回入っていた。
「真奈、今日学校行く時に忘れ物でもした?」
「してないよ。なんで?」
「朝2回通知が来たから。うちの最寄り駅で入場2回」
「それなら退場なきゃ変じゃん」
誤通知だろうと楓さんは思ったそうだ。
しかし、この日から朝の通知が2回ずつ来ることが続く。

真奈さんが
6:40に○○駅に入場しました。

真奈さんが
6:40に○○駅に入場しました。

「ねぇ、真奈。本当に2回入ったりとか……知り合いに定期渡して2人で通ったりとか、してない?」
「なんでそんなに疑うの? するわけないじゃん」
システム側に問い合わせても、確認すると言うだけで何も解決には至らなかった。
楓さんは、間もなく始まる真奈さんの夏休みを心待ちにした。
通学さえなければ通知は来ない。
そう思っていた。

��さんが
15:45に��に入場しました。

文字化けした通知が1通。時刻は現在のものだった。
真奈さんは自転車で遊びに出ている。
また誤通知かバグだろうかと考えていると、テーブルの上の定期が目に入った。
ICカードを模したステッカーが全面に貼ってある、かわいらしいものだ。
元々は楓さんのパート先の忘れ物で、こっそり持ち帰ったICカード。
後ろめたさを隠すようにステッカーを貼って、真奈さんに与えていた。
じわりと嫌な予感が背中を走る。
手元の携帯を見ると、次々に通知が入っていた。

��さんが
15:46に��に入場しました。

��さんが
15:47に��に入場しました。

��さんが
15:48に��に入場しました。

楓さんはすぐに定期を持って走った。
そして最寄り駅に着くと、窓口で事情を話したそうだ。
駅員からは厳重注意を受け、定期や残高もあったがそのまま没収ということになったらしい。
まだ楓さんは罪悪感の他に不安を抱えている。
何がどこに入場したのか。
それがわかっていないからだそうだ。

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