10.19と10.8の決着が逆だった時の日本シリーズを考察してみる

 あーしんどい…女子バレー、惜しかったなあ。そんな時に次の球団をどこにしようかと漠然と考えてた俺。

 パ・リーグセ・リーグを交互に取り上げているので次はセ・リーグ。はじめは阪神を書こうと思ったけど、ネガティブな内容なので中日に変更した。

 さてプロ野球ファンには、タイトルの通り超有名な日付があるが、両方とも中日が影響を受けていることに気づいてる人も多いだろう。前者は日本シリーズの対戦相手を待つ側、後者は日本シリーズに出る側という立場だ。当時の本拠地はナゴヤ球場で、昭和最後の日本シリーズ会場となったが、平成になってからは8年間だけだったがついに再びその日が来ず、今は外野スタンドを丸々取り壊してナゴヤドーム基準の広さに改装されて二軍本拠地として今も佇んでいる。ドーム以前の中日はこの球場の狭さを地の利としてホームラン打者がそこそこいて『強竜打線』というネーミングにふさわしい戦い方をしていた。

 さて本題。まず10.19。ここで時々聞こえてくるのは、「近鉄がこれに勝ってリーグ優勝していたら、きっと日本一にもなっていた」という意見。その後の日本シリーズで西武に1勝4敗と返り討ちされた様を見ていると、そういうのが出るのはわかる。
 だが、俺はそうは思わない。さすがにストレート負けはないにしても、同じ星取で中日の後塵を拝していた可能性のほうが高いように思う。理由として、まず近鉄のチーム状態が満身創痍“すぎて”、とても日本シリーズで戦えるかどうかが怪しいという点。日本シリーズの第1戦は10.19からわずか3日後だが、それまでに13日間で15試合ぶっ通しで戦い続けた上に、主力打者の金村義明が骨折リタイヤ中。さらにエースの阿波野秀幸が完投二日後にダブルヘッダー連投と、正直言ってまともなコンディションと思えない。加えて首位を追いかける立場だった状況で、中日のデータをどこまで偵察・研究できていたかもわからない。DH制を使わないナゴヤ球場でラルフ・ブライアントとベン・オグリビーの守備位置の問題もあるし、よくよく調べると五番打者以降の攻撃力も心許無いと、近鉄の分はそこそこ悪かったように思う。
 データ云々の話ならば、待っている中日も二段構えで備えなければならなかったことを考えるとまだ何とかなるかもしれなかっただろう。だが、投手陣の頭数はほぼ互角で、大石友好、大宮龍男の両ベテラン捕手のパ・リーグ経験値、さらに仁村徹や中村武志、川又米利といった下位打線の厚み、そして待つ側としてコンディション面での明らかな差が中日にはあった。勢いという点では俄然近鉄だったとしても、そんなランナーズハイ状態で身体がどこまで動いたか…いろいろ反論はあるだろうが、個人的には「4勝2敗で中日が日本一」としておく。

 続いて10.8。あの試合、巨人は長嶋監督が「国民的行事」と発して『特別感』を演出。さらには先発三本柱の槙原寛巳、斎藤雅樹、桑田真澄の三人全員をつぎ込んでその空気に拍車をかけ、見事に制したのに対し、当時の高木守道監督は山本昌(当時昌広)、郭源治といったタイトルホルダーがブルペンにいたにもかかわらず、130分の1として奇をてらった継投をせず敗れた。だが、その後の日本シリーズでの長嶋監督の継投や三本柱以外の投手陣の頼りなさを考えると、高木監督はけっこう森監督率いる西武に似て基本に忠実な野球ができたんじゃないだろうか。仮に日本シリーズに出ていたとしたらどうだろう。

 まず日程を考えると、10.8から日本シリーズ第1戦までは中15日、約半月あった。コンディションを整えるのには十分だろう。
 選手の陣容もなかなかに強力だ。沢村賞投手の山本と防御率1位の郭源治、打線も首位打者のアロンゾ・パウエルに本塁打・打点の二冠王大豊泰昭とタイトルホルダーを数多く擁し、前回対戦時の88年を知る選手も多く残っていることからリベンジへの気概も高いだろう。懸念は試合中にヘッドスライディングで脱臼したリードオフマン、立浪和義の回復具合だろう。
 ただ、投手陣を比較してみると、西武に大きく分がある。勝率1位の郭泰源に工藤公康・渡辺久信の両ベテランはいずれも百戦錬磨で、近鉄から移籍し復活した小野和義も十分計算が立つ。加えてブルペン陣は輪をかけて強力で、防御率1位の新谷博を筆頭に鹿取義隆・潮崎哲也・杉山賢人のいわゆるサンフレッチェ、前ダイエーの左腕・橋本武広に終盤配置転換された石井丈裕と質量ともに豊富だ。対する中日は山本・郭・今中に次ぐ四枚目の先発こそ2年目の佐藤秀樹が候補だが、この年のストッパー役の小島弘務(防御率1点台で6勝8セーブ)とチーム最多44登板のサウスポー北野勝則以外は物足りず、継投勝負、特にリード時以外のリリーフは懸念が残る。与田剛、森田幸一の元新人王二人もこの年は戦力になっていないのが惜しい。
 また、西武の攻撃力を考えたとき、盗塁王・佐々木誠を筆頭とした機動力野球にどこまで対処できるかが重要だ。日本シリーズに本領を発揮できる鈴木健、安部理といった左打者を今中・山本とがどうしのげるかというのも見ものである。

 そして案外カギとなりそうなのが『外部の雰囲気』だ。94年の日本シリーズで敗れた西武の面々は、長嶋監督を追いかけるマスコミの異常な多さと、稀代のカリスマを軸に回っていく報道の雰囲気にペースが狂わされたという。中日も親会社はマスコミ関係ではあるものの、高木監督をはじめ万人向けのキャラクターを持った選手はいない。ヘタすれば10.8の熱が高すぎた反動で熱量が低い可能性もあった。おそらく西武の選手はリラックスして戦えたのではないだろうか。

 日本一になれるかどうかは山本昌、そして佐藤がカギを握っている。第1戦に山本が投げたとして、それを読んで西武打線が右打者をそろえた時、規定未満ながらシーズン打率3割越えで日本シリーズにも強い鈴木健と安部理の両左打者がスタメンから外れるだろうから、破壊力はいささか落ちる。それを山本が牛耳ることができたとしたらペースは握れるし、逆に打ち込まれるなどして落としたら5戦目以降の登板に不安が残る。そして第4戦に投げることになるであろう佐藤が、鈴木、安部を加えた本来の西武打線に耐えることができるのかが日本一の分水嶺だろう。
 打線に関しては首位打者のパウエルがシーズン通り打てるのか、はたまた狂わされてブレーキとなるかがで違ってくるだろうが、そのパウエルの前にどれだけランナーを出せるかだろう。88年の時は四番落合博満が打率3割と打ちはしたが打点なしに終わったのが大きく響いただけになおさらだ。立浪、大豊ら左打者と杉山・橋本の両左腕の対決もポイントだ。

 こうしてifをあれこれ考察するのは実に面白い。そしてこのどちらかで中日が日本一になっていたとしたら、あの「完全試合」はそのまま山井大介で行っていたのか…そんな興味も出てくる。

 そして、ファンに記憶される二つの日付に翻弄されている中日は、主役になり損ねたという点で、惜しい思いをしている球団なんだなあと思った。

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