土壌汚染と河川は関係あるのか
今回は、土壌汚染と河川の関係についてお話しようと思います。
土壌汚染と河川、つまり土と水。相反する存在のようにも思えるかもしれませんが、実は大いに関係しています。
河川の壁面と底面がコンクリートで舗装されているならば話は別ですが、土壌と河川はもともと一体ものです。
土壌汚染が河川にどう影響するのか。
河川が土壌汚染の影響を受けた場合、河川水の浄化は可能なのか。
解説いたします。
土壌から汚染される河川
「土壌と河川は一体」
結論から言うと、土壌汚染から河川が汚染されることは十分ありえることであり、今現在も汚染土壌に含まれた特定有害物質が河川に漏洩している場所はたくさんある、と言わざるを得ないでしょう。
理由は、土壌と河川が地質学的に一体のものであるためです。
そもそも日本中にいくつも存在する河川は、どうやってできたのか。
山に降り注いだ雨は地面に染み込んで地下水となり、地下水の流れを形成します。ただ、染み込んだ雨すべてが地下水になるわけではなく、一部は地上へと湧き出てきます。
地上へと湧き出た地下水は地形にしたがって海へと続く道を形成し、時には大雨による洪水となってより大きな道が形成されます。そうして河川が形成されるのです。
もちろん河川整備などで、壁面に鋼矢板やコンクリートが設置される場合もありますが、基本的に土壌と河川は一体ものです。
幼い頃、私は砂場で砂山を作ることが大好きでした。両手で抱えきれないほど大きな砂山を作って真ん中にトンネルを掘る。トンネルが開通して向こう側が見えた時、なんとも言えない喜びがあったことを覚えています。
砂山遊びはそれだけではありません。砂山の頂上からバケツに汲んだ水をゆっくりと流すと水が流れ出し、1本の道ができる。それがまさに河川なのです。大きな砂山とそこにできた河川の姿は、まるで山のジオラマのようで面白かったのを覚えています。
つまり、実際の河川も同じです。大げさに言えば、砂山に作った水の道も、大阪を流れる一級河川の淀川も基本的には同じなのです。
では、土壌汚染と河川がどう関係するか。
以前のブログでも書いたことがありますが、山に降り注いだ雨は地下水を形成し、海の方角へ向かって流れていきます。
もちろん地下水の流れは1本だけではありません。雨はいくつもの地下水の流れを作り出し、やがてそれはいくつもの支流を作り、まるで毛細血管のごとく地面の下を駆け巡ります。
あなたが立っている地面の下にも、間違いなく地下水は流れているはずです。
地下水はやがて海へと流れますが、地形次第では河川へと流れる地下水もあるのです。いや、むしろ河川へと流れる地下水が大半かもしれません。河川はやがて海へと流れるので、地下水の行き着く先は結局海になるのですが、河川が、地下水と海の中継点となる場合が大半なのです。
ここまでお話しするともうお分かりだと思いますが、特定有害物質が土壌中に染み込むと汚染土壌となり、土壌を汚染した特定有害物質はやがて地下水へ溶出します。つまり、汚染された地下水が河川へと流れ出すことは十分に考えられることなのです。
法的には土壌と河川は別物
「もし土壌を汚染した特定有害物質が河川へ流れ出す恐れがあるならば、汚染の元凶である汚染土壌を取り除き、地下水汚染ルートを解明する必要がある」
これは汚染土壌から河川への特定有害物質漏洩に関する私の考え方ですが、おそらくこの考え方に異を唱える人はほとんどいないと思います。
河川を汚染土壌から守るためにはこれが最も正しい・・・と言うよりも、どう考えてもこれしかないのです。もちろん、よほど最新の技術が生み出されるか、独自の理論があるならば話は別ですが。
ところが、土壌汚染対策法に河川への漏洩についての条文はありません。ガイドラインには地下水に溶出した特定有害物質が到達する距離についての文言がありますが、あくまでも参考程度のものであり、実用的ではありません。
土壌汚染対策法で調査や浄化の対象となるのは、基本的に調査対象地の範囲のみです。そこには地層や地下水の流れの範囲などは一切考慮されません。
つまり、土壌汚染対策法に河川についての条文は一切存在しないのです。河川は、水質汚濁防止法という法律の適用になります。
もちろん水質調査によって、河川が特定有害物質で汚染されていると判明すれば、原因究明調査や浄化対策などの処置が施されますが、水質汚濁防止法の範囲であるため自ずと限界が生じます。
「土壌と河川は互いに深く関係していて、それぞれの汚染もまた影響しあう」
誰もが認めざるを得ない事実ですが、残念ながら法が追いついていない・・・
土壌、地下水、河川水そして海水までも含めた法の整備が必要になると考えます。
河川に悪影響を及ぼす有害物質の種類
地質的には一体である土壌と河川ですが、土壌と河川水になるとやはり考え方は変わってきます。河川水は、土壌以上に私たちの生活に深く関わってくるためです。
水質汚濁防止法では、河川水の環境基準項目を、人の健康の保護に関する環境基準と生活環境の保全に関する環境基準の2つに分けています。以下にそれぞれについて説明いたします。
人の健康の保護に関する環境基準
人の健康の保護に関する環境基準の項目は以下の通りです。
・カドミウム
・全シアン
・鉛
・六価クロム
・ヒ素
・総水銀
・アルキル水銀
・ポリ塩化ビフェニル(PCB)
・ジクロロメタン
・四塩化炭素
・1、2-ジクロロエタン
・1、1-ジクロロエチレン
・シス-1、2-ジクロロエチレン
・1、3-ジクロロプロペン
・テトラクロロエチレン
・1、1、1-トリクロロエタン
・1、1、2-トリクロロエタン
・トリクロロエチレン
・シマジン
・チオベンカルブ
・チウラム
・ベンゼン
・セレン及びその化合物
・硝酸性窒素及び亜硝酸生窒素
・フッ素及びその化合物
・ホウ素及びその化合物
・1、4-ジオキサン
これらの項目の多くが土壌汚染対策法で規定する物質と同じですが、硝酸性窒素及び亜硝酸生窒素と1、4-ジオキサンは水質汚濁防止法独自の項目です。
硝酸性窒素及び亜硝酸生窒素は、化学肥料や動物の糞尿による汚染の指標となる項目であり、河川の汚染状態を測る上でも極めて重要な項目です。
1、4-ジオキサンは、土壌汚染対策法でも追加がほぼ決定している項目であり、発癌性が疑われる揮発性の物質です。比較的水へも溶出しやすいため注意すべき項目です。
これらの項目は河川へ影響を及ぼす有害物質として規制されており、数値が低ければ低いほど望ましいと言えるでしょう。
生活環境の保全に関する環境基準
生活環境の保全に関する環境基準の項目は以下の通りです。
・水素イオン濃度(pH)
・生物化学的酸素要求量(BOD)
・浮遊物質量(SS)
・溶存酸素量(DO)
・大腸菌群数
これらの項目は、土壌汚染対策法では見られないものですが、いずれも水質の健全性を測る上では極めて重要な項目です。
ただし、これらの項目はあくまでも水質の健全性を示す指標であって、有害物質の濃度を示すものではありません。
例えるならば、私たちが定期的に受ける健康診断の血液検査のようなものです。
河川の浄化方法
土壌汚染の影響を受けた河川をピンポイントで浄化する方法は、残念ながらありません。汚染土壌の場合、概ねそこにとどまっていますが、河川は基本的に常に動いているもの。
仮に地下水と河川との合流地点が判明し、地下水から河川への汚染流入が判明したとしても、その場ですぐに流入を止めることは不可能です。
汚染流入のポイントや地下水の流れを調査するための調査期間を経て、河川への汚染流入を食い止める手法を検討し、その上で井戸設置等の処置を実施するのが一般的な流れです。
どれだけ急いでも2ヶ月から3ヶ月もの期間を要するでしょう。
仮に汚染の流入地点が明らかならば、河川と合流する手前に井戸を設置しそこから地下水を汲み上げて河川への流入を防ぐことはできますが、流入してしまった汚染を浄化することはできません。
一般的に河川浄化方法は、河川への汚染流入を未然に防ぎ、流入してしまった汚染は自然浄化を待つしかありません。
より積極的に浄化を試みるならば、河川水に酸素を注入するという方法がとられることがあります。ただし、これも河川の自浄作用を促す効果に期待する方法であり、土壌浄化工事のように汚染箇所を根こそぎ取り除くような手法ではありません。
河川の底に堆積するヘドロを浚渫するということが行われていますが、これが最も効果が期待できる方法かもしれません。
ただし「土壌汚染の影響を受けた河川の浄化」とは少し違ってきますが。
基本的に河川への汚染を防ぐことが最も効果の高い浄化方法ということになるでしょう。
まとめ
土壌と河川は、相反するものと捉えられがちであり、そのため適用となる法も別です。しかし、地質学的には一体であり、それぞれの汚染は互いに影響しあいます。
特に、土壌汚染が地下水汚染、河川水汚染につながることは、地質学の専門家でなくとも容易にわかることにも関わらず、土壌汚染対策法ではそこまで謳われていません。
土壌、地下水、河川、海、これらを一体とした環境関連法の整備が期待されます。
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