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COVID-19の中枢神経合併症 (髄膜炎・脳梗塞他)

COVID-19の中枢神経合併症の報告が結構出てきました。
画像が得られている報告を元に、summarizeしました。
かなり、ザッと見て纏めましたので、違和感がある所は原著に当たってください。

症状としてはvarietyがあって、
* 髄膜炎
* cortical micro infarction/hemorrhage (低酸素?微小血栓?)
* 脳症
* Large vessel occlusion

が報告されています。

原因としては
* 脳神経を好む感染形式。嗅覚消失(嗅神経は脳神経)などからはあり得そう
* 髄膜炎
* サイトカインストーム
*低酸素
* 血管壁損傷に伴う全身の血栓形成と血管炎

が考えられている様で、それぞれの機序に対応して、症状が異なってくると思われます。

時系列順に記載しましたが、少数例の報告はpublication biasが多いにあり得る様に思われ、RadiologyからICU入室27例の脳MRI所見の報告 (5月8日) の記載が最も確からしい様に思います。

完全な私見ですが、髄膜炎 + 低酸素ないし微細血管壁損傷に関連したcortical micro infarction/hemorrhageが最もdominantな所見との印象です。


Radiologyからの急性出血性壊死性脳炎の1例報告 (3月31日)

デトロイトの放射線科より。
COVID-19–associated Acute Hemorrhagic Necrotizing Encephalopathy: CT and MRI Features | Radiology
https://pubs.rsna.org/doi/10.1148/radiol.2020201187

MRIでは両側側頭葉内側と視床にガッツリ出血性脳炎がある。

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本症例は女性というのみで年齢も不明 (女性のairline workerで症状発現3日、とのみ)
CSF中のSARS-CoV-2の有無などは検討されていない。
病因には触れられていませんが、一般的なウイルス感染に伴うサイトカインストーム?でしょうか。
下記に述べます複数症例のレポートでも、このような症例の報告はなく、頻度は低いと考えています。
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International Journal of Infectious Diseasesにおける山梨大学からの髄膜炎の報告 (4月3日)

A first case of meningitis/encephalitis associated with SARS-Coronavirus-2
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7195378/

国内でもニュースになった報告です。

24歳男性で、発症9日目で神経症状が強くE4V1M1で救急搬送。
入院後のMRIで右側脳室下角に沿ったFLAIR高信号域あり。
もしかしたら、海馬硬化+痙攣後脳症の可能性もあるかも?と一瞬考えました。
著者らもそれを鑑別に挙げています。
ただ、過去に痙攣のepisodeなど無く、否定的の様です。

なお、髄膜炎に伴う髄軟膜造影増強効果やBBB破綻を疑う造影増強域は無かった、との事。だが、髄膜炎に対する造影MRIは感度が低いので、所見がない事は、特に診断における情報を追加しない

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参考までにPostictal Signal Changesの記事を下記に添付します

Postictal Signal Changes | American Journal of Neuroradiology
http://www.ajnr.org/ajnr-case-collections-diagnosis/postictal-signal-changes

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咽頭スワブでは陰性のもののCSFでCOVID-19 PCR陽性であり、髄膜炎が存在した事には間違いない。(髄膜炎があるからといって、脳所見も髄膜炎に伴う物である事を担保はしない)

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NEJMからのICU入室58症例について神経症状-脳MRI-CSF testの報告 (4月15日)

フランスからの報告で58症例の報告。MRI画像も報告されている。

Neurologic Features in Severe SARS-CoV-2 Infection | NEJM
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMc2008597?query=featured_coronavirus

* 年齢中央値は63歳
* ICU入室にあたって84%は何らかの神経症状があった
* MRIは13症例に施行
* Perfusion MRIで脳血流低下を全例に認めた (後述)
* 髄膜炎の所見である髄軟膜造影増強は62%に (造影後3D FLAIRを撮っている様なので感度が高いのかもしれない)
* 脳梗塞は13例中2例 (3例と記載あるが1例はCOVID-19とは関係無い物か?と)
* CSF中のCOVID-19 PCR検査は7例で行ったが、全員negative

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3例、MRI画像が掲載されているが、解釈が少し難しい

Case 1
脳溝に沿ったFLAIR高信号と髄軟膜に沿った造影増強で髄膜炎とassessmentされており、それで良さそうです。
eのpresentationはnodular likeで、こちらも髄膜炎と記載されていますが、nodular likeの髄膜炎が単発で来ているのなら少し違和感があり、別の機序かも (micro infarction?)しれないと少し思っています。但し、DWIの提示無く良く分かりません。

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Case 2

造影Perfusion で前頭-側頭葉に灌流低下
この後に述べるRadiologyの論文では低酸素のよる物では?とsuggestionされている


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Case 3
* a-dは髄膜炎と記載されているが、脳表から離れていて、結構な違和感があります。例えば、solitary venous thrombosisの可能性は無いだろうか。
* e-fはmicro infarctionとassessmentされており、それで良さそうです。

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Radiologyからの塞栓性脳梗塞を含む全身塞栓症のcase report (4月23日)


これは、かなり所見が派手で、ここ数ヶ月で着目されてきたウイルス性血管炎+血栓・塞栓症の機序と推測しています。

Pulmonary, Cerebral, and Renal Thromboembolic Disease Associated with COVID-19 Infection | Radiology
https://pubs.rsna.org/doi/10.1148/radiol.2020201623

脳底動脈閉塞 (血栓除去により再開通)と腎動脈塞栓・肺動脈塞栓が多発したfigureが掲載されています

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NEJMからの若年のLarge-vessel strokeの5例報告 (4月28日)

NYからの報告のcase series
COVID-19に合併して若年で脳梗塞を発症した症例があり、常時の若年脳梗塞より頻度が高いと(たまたま、若年脳梗塞が合併した訳では無い)
症状発現からが早かったり、COVID-19症状に乏しかったり、と中々、議論を呼びそうです。

Large-Vessel Stroke as a Presenting Feature of Covid-19 in the Young
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMc2009787

* 全例50歳以下 (33歳-49歳)
* 事前合併症なしが2例
* CTAやMRAでlarge vessel occlusionを確認 (画像提示なし)とのこと
* time to presentationは2-28時間
* COVID-19関連の症状は2例では無症状
* 2週間で5例の症例を確認したが、平時であれば、著者らの施設における2週間以内における若年の脳梗塞の発症率は過去のデータから0.73人である、

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RadiologyからICU入室27例の脳MRI所見の報告 (5月8日)

現時点では脳MRIの裏付けが取れている事、読影所見もNeuroradioloigst 2名が確認している事から、最も確からしい報告と思っています

Brain MRI Findings in Patients in the Intensive Care Unit with COVID-19 Infection | Radiology
https://pubs.rsna.org/doi/10.1148/radiol.2020201697

* 8つの病院の749名の患者をrecruit
* 235名がICU入室 (症状からICU入室は3-4日程度と比較的早めで重症例)
* 50名が神経症状あり
* 27名がMRI撮影
* 12名がMRI所見あり(ICU入室の5.1%、有神経症状の24%)
* 皮質異常所見があった10名の内、5名でCSF検査が施行されている
* CSF検査では4例で蛋白上昇していたが、COVID-19のPCRは全例negativeだった、と。
* 15例のMRI所見negative症例群においても2例でCSF検査が行われ蛋白上昇があった、と

代表的なMRI所見としては
* 10名が皮質のFLAIR信号変化
* 一部では拡散低下、髄軟膜造影増強効果、脳溝に沿った出血 (髄膜炎が主体の変化)
* 3名では皮質下白質-深部白質信号変化が合併
* 皮質の信号変化のdistributionには規則性なし
* 他には1名が横静脈洞血栓、1名がMCA領域の脳梗塞
* 脳梁病変、深部灰白質病変、小脳病変はいずれも存在しない
* COVID-19の肺病変に伴う低酸素の修飾がありそう
* 皮質の微細出血は低酸素によるものか

これらの事から、COVID-19の低酸素・髄膜炎に伴う皮質-皮質下出血や白質損傷が病態のメインと考えている様子です。

下記の様に述べ、COVID-19に起因するウイルス/自己免疫脳炎の存在については所見が非特異的である事から抑制的なコメントがなされています

Certain viral and autoimmune encephalitis can have specific pattern of involvement that is helpful to establish a differential list, however nonspecific imaging pattern in our series hinders achieving a specific diagnosis based on MRI (10). In addition, the complex clinical course including comorbid conditions like diabetes mellitus, long ICU stay with multidrug regimens, respiratory distress with hypoxia episodes can all act as confounding factors and a clear cause-effect relationship between COVID-19 infection and MRI findings is hard to establish in the absence of more specific CSF findings.


症例として提示されていた物は所見がかなり強く
* 右前頭葉の皮質変化
* ある程度の両側対称性の白質変化
* 髄膜炎所見
* 皮質-脳溝への出血所見
が存在しており、フォローアップで多くが消失した事が述べられています。
この症例は所見がかなり強い症例だと思います。

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6日後

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NEJMからCOVID-19により急性期脳梗塞MRI検査が激減との報告 (5月8日)

関連してですが、COVID-19と関連しない急性期脳梗塞MRI検査が減少している事がアメリカから報告されています。

Collateral Effect of Covid-19 on Stroke Evaluation in the United States | NEJM
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMc2014816?query=featured_coronavirus

RAPID software (急性期脳梗塞MRIの判定software)の利用件数のデータを用いた解析
本softwareは病院で撮影された画像がサーバーに飛ばされて判定が返ってくるシステムなので、脳梗塞疑い目的のMRI撮像の件数の推定が出来るかも?というのがコンセプト

結果としては39%の利用件数低下が見られたとの事

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地域によって、減少率の差異が乏しく、COVID-19の感染率の地域較差の影響は少なく、急性期脳梗塞に振り分けられていた医療リソースを能動的にCOVID-19対策に転換されている事が読み取れます。

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本邦よりCOVID-19下における脳卒中診療のプロトコル (4月24日)

上記の様な状況を受け、COVID-19パンデミック中の急性脳卒中診療、あるいはCOVID-19患者に対する脳卒中診療についての提言が日本神経学会より出ています

COVID-19対応脳卒中プロトコルについて|お知らせ|日本神経学会
https://www.neurology-jp.org/news/news_20200427_01.html




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