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おそれおののく清野と押切

僕が最もこれまで読んできて「怖い・・・!」と思った作家が清野とおる先生と押切蓮介先生。

特に、清野先生。最近はテレビの露出も増え、赤羽ではマンホールの蓋のデザインにもなったらしい、赤羽といえばこの人、昨年は檀蜜さんとの結婚で有名になった。清野先生の作品とはどういう縁で出会ったか忘れたが、有名な「東京都北区赤羽」、その背景としてブログにはまって読んでいた。(※「清野のブログ」は終了しており、更新はされてないが、今現在は見れる状態です)

清野先生がデビュー以降、不遇な時代を過ごし、ネット漫画「Bbmfマガジン」で代表作「東京都北区赤羽」を発表するまでの様子がわかるブログで、その圧倒的存在感にとても興味が引かれた。とにかく、怖い。

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清野先生の性格というか才能もそうだが、それに引き寄せられるのか、清野先生に群がる奇妙な人々。妖怪などは一切出ない。現実の人々なのだが、いや普通の人なのだが。負の面が強調されているというか、そこをよくウォッチしている清野先生が凄いのか。平然と園児を虐待する「地獄保育園」の園長先生、幼い清野少年に変態行為を見せ逮捕される通りがかりのパンイチおじさん、薬物で捕まった実は同性愛者だった学校の先生。車で人をはねて即「無かったことにしてくれ!」と土下座する学校の先生。清野少年が目撃した都市伝説と思われた「三本足のサリーちゃん」、赤羽駅で遭遇した人身事故・はじめて見た轢死のようす、などなど。出てくるキャラが想像の斜め上。読んでみた当初は僕も笑っていいのかわからずドン引きだった、あの微妙な感覚を覚えている。(清野先生のエッセイ「バカ男子」にくわしい)

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特に何が怖いのかというと、これが「日常」なのだろう。決して特別な世界なのではなく。それを人間観察が長けている清野先生は直視していたのだ。人と違う性格や趣向を持ち悩んでいたと思われるからこそ、このような特殊な情景を直視でき、さらにはその人の内面を独自の見方で察してきた。ひたすら売れなかった時代にひたすら観察と描写を続け、それが「東京都北区赤羽」という作品で爆発した。赤羽の奇妙な人々らの奇行とその背景。読んでいて、どの人にもしっかりと背景があり人間ドラマさえも感じてしまう。

その清野先生の作品で出会ったのが、清野先生の親友であり同じ波長を持つのであろう押切蓮介先生だ。代表作「ハイスコアガール」は2013年の「このマンガがすごい!」オトコ編で2位、2018年と2019年でアニメは2期まで、僕も大好きな作品だ。僕も2010年代半ばは押切作品をむさぼり読んでいた。

その中で最も心えぐられたのが「ミスミソウ」だ。2018年に映画化もされた、いわゆる黒押切の代表作。押切作品は日常や青春を描いた「白押切」と、ホラーを描いた「黒押切」というジャンル分けがなされているが、僕はこの作品を読んだ時のあの「読み疲れ」の感じをとても覚えている。

「ホラーM」(ぶんか社)という雑誌で2007~2007年にて連載されていたが、ホラーといっても「おばけ」の類は一切出てこない。「おばけ」の描写も押切先生は上手いのだが(「でろでろ」も好きだが、特に「サユリ」の「ページをめくった途端に息が詰まるような演出は最高!)、この作品は「中学生同士の人間関係」で恐怖を演出している「精神崩壊(メンチサイド)ホラー」だ。

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正直、好き嫌いが分かれるかもしれない。登場人物は皆、救いようがない人間たちで、「胸糞悪くなり」離れる読者もいるだろうし、冷静に読むと突っ込みどころは多かろう。けど、僕は救いのない話の中に圧倒され、何よりキャラの描写により登場人物が不思議とみんな好きになる。そして、なぜか人間の儚さと美しささえ感じてしまった。評価は分かれるだろうが、押切先生の代表作と言われ、この作品により女子ファンが大きく増えた(ぶんか社のターゲットは女性層が多い)こと、さらには映画化もされたことから、名作であるのは間違いない。いい読み疲れで、精神的に相当なショックを受けたが、僕は読んだ後に光悦感があったのを覚えている。

いずれにしても、人間が為す恐怖がどんなホラーよりも怖いのだろう。これらの作品により、僕の性格と趣向が若干ゆがみ、実話ナックルを愛読したり事件史にはまったこともある。

僕自身も、いろんな奇人や奇妙な事件を見てきた。今回はこれを書こうと思ったが、読んできたマンガを記録したいのがこの「note」の趣旨だったため、その原点ともなったマンガについて記してみた。僕が見た奇妙な体験はこの日記に書いた容量も多くなったのでまた別の機会に。けど、それぞれいろんな人がいて、いろんな衝突があり。僕もおそらく奇妙な人間の1人なのかもしれない。

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ミスミソウの1シーンより。描きたかった。

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