【小説】みどりとミドリ 第2話(改訂版)


6月某日
 梅雨入りをスマホニュースで知った私は、使い慣れたリュックを背負い
玄関に向かう。今日の講義は外せない。最近いろいろと忙しくて、大学をサボっていたから。
 あれ?昨日行ったし、単位間に合ってるんじゃなかったっけな? 
 まぁいいか。
「お父さん、行ってくる。」
居間でボーっとしているであろう父に、私は言葉を投げかけた。
父は何も返さなかったが、私も学校に行かねばならない。
 マンションの玄関を開けて、私は大学に向かった。

「野島ー!」
 食堂でうどんをすすろうとしていたのに、誰だ邪魔するのは。
「…カリン?」
「隣、いい?」
 カリンは私の横の席に座りたいようだ。
「あ…いいよ」
 ガラガラと大きな音を立てて椅子を引き、カリンは座る。
「野島ってうどん好きなん?うどんばっか食ってんじゃん。」
 カリンは、所謂ギャルだ。金髪の姫風ヘアで濃いめのメイク。男も取っ替え引っ替え。
 最近はティックなんとかとか言うショートビデオアプリでダンスしてフォロワーを増やしている。
 何でもない食堂の定食を5枚くらい写メを撮り・・・
「あー、あまり映えないなぁ」
 ネットに載せる気のようだ。

 バクバクと生姜焼き定食を貪りながら、カリンは私に話しかける。
「メグが野島の心配してたよ?」
私はうどんをすすり、咀嚼した後に言葉を返した。
「心配って?」
「なんかぁ『ミドリ、最近ご飯とか行ってくれなーい』とか言ってたし」
「それは、いつもメグお金無いからって私にたかるんだよ。それに、私だって金欠の時あるし。」
「それな。メグもバイトでもしろって言いたいわ」
 私は無心にうどんをすする。沈黙に耐えられないのか、カリンが話す。

「野島って彼氏いるっしょ?」
「居ないよ」
「あれ?先週、彼氏いるって言ってたじゃん。」
「そんな事言っていないよ?彼氏居ないよ。」
 カリンは「そうだっけ??」と不思議がりながら、また生姜焼き定食を食べていた。

「はぁ、食った食った。んじゃあたしはバイトがあるから。」
 カリンは、また大きな音を立てて椅子を押し立った。
「カリンって何のバイトしてるんだっけ?」
「あれ?言わなかったっけ?」
 そういうとカリンは私の耳に口を当てて、
「パパ活だよ」
 カリンはお盆を下げ、視界から消えていった。


 夜。
 家に帰ると、テーブルにご飯の準備が出来ていて父が近くのスーパーで買ってきた、唐揚げやらトンカツやら、サラダやらが並んでいた。
 私と父は対面に座り、食事をする事に。
「学校はどうだ?」
「ん?まぁ…普通かな」
「そうか…」
 父はもともと口数が少ない。母が亡くなってからは更に少なくなった。

 ピンポーン。
「ん?誰?ご飯の最中なのに?私見てくる」
私は席を立ち、相手を確認すべく玄関のドアスコープを覗いてみた。

 女が立っていた。
 若い…同い年位の。

 チェーンロックをしたまま、扉を少しだけ開けると女は私に話しかけてきた。
「ミドリ?久しぶりねー!」
 女は白いフェミニン系のフレアスカートと水色のブラウス。顔は若干の童顔。小動物の様な愛らしい瞳。
「あの…どなたですか?」
 私は恐る恐る聞いてみた。
「私よ、ミドリ。園崎みどり。高校の時に同じクラスだったじゃない?」

 全く記憶に無い。
「え?誰?知らないんだけど…」
「本当に?」
 いじわるそうな顔でこちらをみる女。

「本当に知らないんだけど」
 私は突き話すように強く拒絶する。
すると女から笑みが消える。
「そっか。」
と冷たい表情を見せた。


 グサッ。
何かが背中に当たる。

 グサッ。
何かが背中に当たる。

 グサッ。
何かが背中に当たる。

 私はその場に倒れ込んだ。目の先に見えたのは、玄関の隙間に映る女の足。
 女は踵を返して、去っていく。

「ぶはっ……まっ…て…」
 私は口から大量の血を吐き出す。

 視界が闇に染まる。私はこれで終わった。

(第3話へ)


(校正 久海ユカ)

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