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ふりむくな ふりむくな うしろには夢がない

ふとしたきっかけで観た映画に心をうばわれ、感想を書きたくてしょうがなくなって家に帰るのも待てずにファミレスに入りキーボードを叩きはじめた。

今日が2023年の映画館はじめだった。鑑賞したのは「ドリーム・ホース」だ。これが最高だったのなんの。
競走馬を育てることを思いついた主婦が、片田舎の小さな村で組合をつくり育てた馬が最高峰のレースに挑戦する。ざっくりとこんなストーリーなのだが、これ実話をもとに作られているというのだから驚き。
寂れた田舎を舞台に、はじめは歯牙にもかけられなかった組合と競走馬が地元の誇りになっていく労働者階級の成り上がりに血湧き肉躍った。
いろいろ言いたいことがありすぎるのだが、ここで映画の内容を書いてしまうのは野暮中の野暮。
ここまで読んでくださった奇特なあなた。ぜひ1900円(レイトショーだと1400円)分の鑑賞券と言う名の馬券を買ってみてほしい。絶対に損はしないはずだ。本当にいいレースだから。

競馬というものに触れると私は寺山修司を思い出す。特にこの映画を観終わったときに「さらばハイセイコー」が思い出された。
少し長いがぜひ引用させてほしい。

ふりむくと
一人の少年が立っている
彼はハイセイコーが勝つたび
うれしくて
カレーライスを三杯も食べた

 
ふりむくと
一人の失業者が立っている
彼はハイセイコーの馬券の配当で
病気の妻に
手鏡を買ってやった

 
ふりむくと
一人の足の悪い車椅子の少女がいる
彼女はテレビのハイセイコーを見て
走ることの美しさを知った

 
ふりむくと
一人の酒場の女が立っている
彼女は五月二十七日のダービーの夜に
男に捨てられた

 
ふりむくと
一人の親不幸な運転手が立っている
彼はハイセイコーの配当で
おふくろをハワイへ
連れていってやると言いながら
とうとう約束を果たすことができなかった

 
ふりむくと
一人の人妻が立っている
彼女は夫にかくれて
ハイセイコーの馬券を買ったことが
たった一度の不貞なのだ

 
ふりむくと
一人のピアニストが立っている
彼はハイセイコーの生まれた三月六日に
交通事故にあって
目が見えなくなった

 
ふりむくと
一人の出前持ちが立っている
彼は生まれて初めてもらった月給で
ハイセイコーの写真を撮るために
カメラを買った

 
ふりむくと
大都会の師走の風の中に
まだ一度も新聞に名前の出たことのない
百万人のファンが立っている
人生の大レースに
自分の出番を待っている彼等の
一番うしろから
せめて手を振って
別れのあいさつを送ってやろう
ハイセイコーよ
お前のいなくなった広い師走の競馬場に
希望だけが取り残されて
風に吹かれているのだ

この映画にも、この詩にも同じ血が流れているように思えて仕方がない。
持たざるものたちの人間讃歌。現状を変えるために博打を打つしかない者たちの熱い血の滾り。それらを存分にこの映画は備えていた。
そして、「さらばハイセイコー」はこう続く。

ふりむくな
ふりむくな
うしろには夢がない
ハイセイコーがいなくなっても
すべてのレースは終わるわけじゃない
人生という名の競馬場には
次のレースをまちかまえている百万頭の
名もないハイセイコーの群れが
朝焼けの中で
追い切りをしている地響きが聞こえてくる

前を向こう。進もう。
そう照れることなく思わせてくれる素晴らしい映画だった。
2023年一発目から幸先いいぜ!

そして、競馬についてあーだこーだ言っていますがまだ競馬場にいったことがありません。競馬場デビューもしようと思う。
先輩方、どうかご指南を。

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