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LONELY DAYS〜まっする7観戦記②〜

「まっする」最終回を終えて

今、私は新宿に取ったビジネスホテルの一室でパソコンに向かっている。時間はまもなく3時。眠くない、眠れない。まっするの最終回を観てきたのだ、直接。この両の眼で。
マッスル坂井氏が作り上げた2.9次元ミュージカル(2.5次元ミュージカルよりも0.4だけ現実よりのミュージカル。何この発想、天才のそれ)にDDTのGMである鶴見亜門氏の退社にともなうイベントの終焉を甘酸っぱく描いた作品がこのまっする7である。
「まっする」に触れたことがない人にとっては何を言っているんだ…。といった感じだと思う。実際に筆を執っている私もそう思う。ちょっとでも興味が湧いたのであればこちらのサイトに登録して観ていただきたい。


ネタバレ含む雑感

初のまっする観戦がまさかの最終回。この歴史的なイベントを生で観戦することができて本当に良かった。格闘技も音楽もプロレスも現場で味わうことこそが至高なのだと痛感した一日だった。
千秋楽の夜公演は、昼の応援観戦とは違い満員のお客さんを入れての開催だったため声を出すことはできなかった。では迫力がなかったのか?そんなことはない。あんなに気持ちのこもった厚みのある拍手の雨を聞いたことはない。ただそれぞれが強く手のひらを打ち付けているだけではない、気持ちが乗っていた。
ユウキロック氏の前説で熱くさせられた、たかだか数百人の拍手は満員の東京ドームの歓声にも負けない熱を会場にもたらしていた。私はこらえきれずに前説から泣いていた。

昼公演は今日がまっするの最終回だなんて感じさせないくらい、各レスラーが楽しそうにイチャイチャしていたのが印象的だった。少し話がそれるが声優の稲田徹氏の会場を盛り上げるホスピタリティには脱帽だった。プロの姿を見た気がした。
そんな昼公演の和気藹々した空気は各々のレスラーが意識的に、ある意味空元気的に作り出していたのかなと思えるほど夜公演の雰囲気は独特のものがあった。
イベントの大サビ、最終決戦は新時代のエースとしてのMAO選手と退社を控えた鶴見亜門氏の大死闘のシーンは特にそれを感じた。いつものように葉加瀬太郎のエトピリカが流れてスローモーションになるシーン、昼公演はそれをリング下で見ている各レスラーがスローモーションの演技をしていた。声援を送ったり、おおげさに驚いたり。しかし、よる公演においては皆が背筋をピンと伸ばし、真っ直ぐにリング上の戦いを凝視していた。
どう考えてもバカバカしいシーンなのだ。葉加瀬太郎の曲が流れて、照明が暗くなり、スローモーションでのプロレスが始まるのだもの。ただ、今日は本当にスローモーションに見えたのだ、ゾーンに入ったアスリートがゆっくりと世界が進んでいくのを認識するように。そう思わせるほど、作り手が本気であのシーンに取り組んでいた。偽物甚だしい戦いの場面に本物以上の熱が宿る。まさにマッスル坂井氏が好む言葉「虚実の皮膜」を地で行くシーンだった。
神聖な曲に合わせて男たちが緩やかに、しかし激しく戦い、舞う。リング下ではそれを見守る仲間たち。涙を流すレスラーもいる。その様子はプロレスというよりは、何かもっと崇高な儀式のような、祈りによく似たものであった。観客も祈る。どうかこの戦いを、男たちの想いを終わらせないでほしいと。しかし、終わりの時間はやってくる。どうしようもなく切なく、美しい宗教画のような幕切れであった。この瞬間に立ち会えたことは一生覚えているだろう。一生だ。
この物語が終わるのは寂しい。でも樋口和貞選手が最後の挨拶で述べた「まっするは終わるが各々の物語は続いていく」という言葉が全てな気がした。選手たちも、我々観客の物語も続いていく。

LONLY DAYS

そんな挨拶の後に流れたエンドロール。こんなに染みたLONLY DAYSは初めてだったかもしれない。
歌詞を引用する。
I keep my lonely lonely days, just flow out
I keep my lonely lonely days, just slow dive
I keep my lonely lonely days, but I wish you were here
I keep my lonely lonely days, just flow

自分でも思うがこのイベントが好きで好きで、肩を震わせて涙を流すような趣味の人間は圧倒的マイノリティだ。この会場にいたそれぞれがそんな孤独な日々を送っていたのではないか。孤独な日々の中で我々は求めた。この想いをわかってくれる「あなた」を。そんな「あなた」はいた。会場中にいた。私は、私達は一人ではなかった。
そして曲はこう締めくくられる。

How can I say good-bye?

どうさよならを言ったらいいのか自分にもわからない。言う必要があるかどうかもわからない。でも私は明日から「まっする」がない世界を生きていく。今までならまた孤独な日々が始まると感じたかもしれない。でも今は違う。一人じゃない。孤独じゃない。

こうして私のまっする7が終わった。甲州街道に秋が訪れた。夏は終わったのだ。でも、季節が巡ればまた夏はやってくる。我々プロレスファンはしぶとい。地獄の底までだってついていく所存だ。大会開始前に会場で流れていた曲に次に繋がるエールのようなものがあった。
星野源の「うちで踊ろう」からスチャダラパーからのライムスターの「Forever Young」に曲が繋げられていた。

生きてまた会おう。
まだいける、まだまだいける
やめたらおしマイケル

プロレスラーの引退は信じるな。いつの日かまた会える日を信じて。
本当にありがとう。
「マッスル」は「まっする」は俺の青春でした。


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