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ブラック企業では「血尿が出るくらい働いてやっと1人前」

ブラック企業の美学?として、「仕事はションベンから血が出るくらいやってようやく1人前」と、昔からよく言われている有名な言葉があります。

今回は、本当に仕事し過ぎて血尿が出たときの話をしてみましょう。

よくある話で申し訳ないが、物語は私が朝から腰を抜かしたところから始まります。

まずはブラック企業勤めのモーニングルーティンとともに見ていきましょう。

ブラック企業勤務のモーニングルーティン

その日は、いつもと変わらない朝でした。普段通り寝不足の目を擦り、「こんなに朝スッキリ起きられないのは…きっと自分の気合いの無さの表れだ(テヘ」と反省(実際は全然してないけど)。

「布団で寝ると起きれないのは当たり前」というありがたい教えの元に、いつでも会社から連絡があれば起きれるようにするのが正しい方の当たり前。

常に携帯を抱いたままソファで寝ていた私は、戦場のゲリラが銃を抱いたまま眠る緊張感を知っている。

会社からの連絡は時間外ほど緊急自体なわけで、「サーセン!寝てて気づかなかったス!」なんて責任者はもってのほか、むしろ小学生でも言わない言い訳だと決まっているらしかったので、そのような状態があれば社会人として恥ずべき問題になり、一回出れないだけでも●万円の減給が確定します。

こんなの、どんな会社でもそうですよね?社長は言っていましたよ。一流企業ほどもっと厳しいと。ホントよかった零細で。こんな大きなミスでもこの程度の致命傷で許されるのは我々のレベルが低いのを見越した社長の配慮。ありがたやありがたや。

さて、遅刻はもちろん社会人としてやってはいけないことなので、一流企業同様に1回●万円の罰金は当たり前で、さらに1分ごとに●千円の迷惑料もかかります。始業を遅らせた損失を考えたら安いものです。

顔を洗い、歯を磨いて髪をセットして、スーツのズボンの折り目の縦線が入っているか、シャツがヨレていないかをチェックしながら、シワにならないように着ていきます。

これも普通の会社と同じで、「身なりが整えられていない人間に、人の手本になる資格無し」という教えのもと、ズボンの折り目の線が無ければ次のボーナスは無しというのが定説です。

これも仕事でお金を頂く社会人なので、準備としては当然のことですよね。わかりますわかります。

そして、通勤時間は車で1時間くらいかかるので、途中でトイレに行きたくなっては困ります。

なので朝は行きたくなくても必ずトイレに行く習慣を身につけておくのも紳士の嗜み。いつものようにチョロチョロとしていたら、何か違和感を感じます。

シャアがアムロの存在を察する能力と似ている感覚かもしれませんが、その日は何も変わらないはずのルーティンで「アムロ!行きます!」の時点で「⁉︎」という、謎の感覚が私の持つ大口径ビームライフル(※個人の感想です)から伝わってくるのです。

ブラック企業で一人前になった瞬間

違和感とともに目線を落とすと、発射されたビームがどちらかと言えばオレンジ?そう感じた頃には完全に色が変わり、勢いよく鮮血に染まっていく白い陶器(モビルスーツ)。色だけなら完全に「シャア専用」です。

人間の脳って、情報処理が間に合わないとホントに混乱するもんですね。言葉なんか何を発したらいいかさえわからず「あー!あー!えー?あー!?」って朝からトイレで叫んでました。

人間「腰を抜かす」という行為は、なかなかありませんが、母の死を目の当たりにしたとき以来、実に10年ぶりに私は腰を抜かすことになります。

奇妙な叫び声に嫁が現れます。私はまだ状況がまとまらず、言葉を発する事ができず、ただシャア専用になったモビルスーツを指差すことが精一杯。

よくドラマで、殺人現場を見つけた人が腰を抜かして、どうしました?って駆けつけた人に指で示し伝えてる姿を想像してもらえらば、だいたいそんな感じです。

しかも指で差した報告には鮮血が飛び、まさにホラーな惨劇。これはもうダメかもしれない、知らないうちにもう俺の身体ダメかもしれない、そんな思いを描きながら半泣きで嫁に首を振りながら「もうムリ…」と捨てられた子犬のような状態で人生を思い返していきます。

そんなときの嫁といえば、「シッコか?おっきいほうか?ん?これはシッコやな?」と冷静に現場からガイシャの犯行状況を確認して、「病院いこか」と行って腰抜けて半泣きの私を抱えてバタバタと車を走らせる。

結果的にストレスかなんかによる一時的な腎臓炎?かなんかだったので、お医者さんからも「小の方なら大丈夫。沢山水飲んで何回かしてたら薄くなっていきますよ笑」的な話だけで、点滴などもなく薬ももらえませんでした。

会社にも一応連絡はしていたのですが、特に入院とかの心配もないので結局改めて出社することになるわけです。

何故それだけの大騒ぎなのに詳しい病状を覚えていないのか?と思われたかもしれませんが、それはその後の方がインパクトありすぎたから、としか言えません。

ブラック企業での立ち回り方

病院に行くために私が仕事に遅れるなど前代未聞の珍事なので、社内にも過労による重症説などのザワザワ感がありました。

動揺を防ぐためにも、とてもナイーブな問題になるものの報告は、社長室で個別に行われることになります。

こういった会社では、報告ひとつに関しても、言葉選びを間違うと大事故に繋がることもあります。

言葉の事故の代表的なものとして、ブラック企業の経営者に対して「ストレス」というキーワードは絶対禁止なのです。

誤って使用すると、それがたとえ故意でなかったとしても「ストレスとは自分の思い込みからくる問題」理論を延々約1.5時間程度(当社比)語られるという重い処罰を受けます。

さらに、ストレスに弱いと管理職は任せられないなどの理由から、降格または減給などの反則金を取られることもあるのです。

この点については、皆さんも充分に気をつけておきましょう。

さて、ブラック企業キャリアが長い私は、当然このような初心者のやるミスについては熟知していますので、「原因はよくわからないが、体質も関係あるのかもしれない」という、「かもしれない運転」を心がけて事故を防いでいきます。

しかし、ここで重大な見落としがあったのは、「自分に非はない」と判断した経営者ほど、攻めに迷いのなくなる力強く勇猛な戦士はいないということ。

これは私の慢心からくる油断がもたらした「ブラック企業における前方不注意」と言えるかもしれない。

その言葉を聞くと、突然席を立ち「絶対今じゃなくてもいいよねソレ」という謎の書類を手にして、会話に相槌を打ちながらあえて経理に渡しに行く。

この行動のポイントは、これまで閉ざされていた天井界(防音の社長室)の扉が開け放たれ、静かな世界に雑多な音が入り乱れるとともに、下々の者が生きる下界と通じるようになるということ。

そして絶対神である経営者は、その扉の外から天井界に1人残された私にこう言うのです。

「だから毎日運動しろとあれほど言っただろう?自己管理ができない管理職でどうする?毎晩酒呑んで休みもダラダラしてるからそうなるんだ」

神は離れた私に対して聞こえるように、私の過ちを大きな声で教えてくれる。

って、勝手に離れたのアンタだよね?もしかしてこの環境狙ってた?つうか、俺普段酒呑まないし、休みもほぼ無いんですけど?

そんなことが一瞬頭をよぎりましたが、神のお告げは絶対です。きっと知らないうちに私は毎晩遊び呆けていたのでしょう。

いや、それはないし、そんな暇もない。ウン、絶対に無いしムリ。そう思ったところで、もはや自分の意見など言える状況にはありません。

私はすでにブラック企業の経営者のスタンドが作る「ザ・ワールド」に知らない間に取り込まれていたので、発言はもとより自由に身動きすらとれないのです。

ブラック企業の社内は油断大敵

そんな、「とりあえず刀を振ってみろ」という様子見程度で言われ、わかりましたと寸止め前提で踏み込んだ相手に対し、わかりきった軌道を受け流したあとの返す刀で秘技「天翔龍閃(あまかけるりゅうのきらめき)」を容赦なくブチ込んでくるのがブラック企業の経営者なわけです。

それならこちらも、勝てないまでも一矢報いるために「牙突」でも打ち込んでおけばよかった…と思っても後の祭り。その予期せぬ痛恨の一撃で意識を失い倒れた私は、武器を取り上げられ早々に縛り上げられた挙句に、大衆(社員)の面前に引き摺り出されて「罪人」として裁かれるわけです。

結局、顔は私だけを見てはいますが、立ち位置で事務所中に聞こえるように大声で、血尿出たのは「いかに本人の生活態度が悪かったのか」になるための力説をされる始末。

もちろん聞いてる側だって、そんなこと信じるわけもありません。

しかし、ブラック企業の社内の社長とは、例えるなら麻雀で絶対に通らないだろソレ、という牌を捨てるときにも、周りに睨みを効かせて「アガるなよ?」と言葉なく目で威圧するヤクザの親分のようなもの。

そんな親分の捨てた牌でアガる子分なんて居ないのと同じで、ほかにも官僚がゴルフで上司をボコボコにしないのと同じともいえます。

サラリーマンの世界にも「勝ってはいけない相手」というのが、このように存在することを、我が優秀な社員たちは充分に知っていますので、わかっていても、神の無理難題を笑顔で「通し」ます。

指摘の内容に「さすがです」というかのような視線を送り、言葉が強いのは「社員を思う気持ちがそれだけ強い」証。僕らは家族(ファミリー)だから、父として厳しいのは優しさの表れ…などなど。

こうして、ある種の演劇のように一連のお決まりの流れを経て、ブラック企業では新たな無言のルール「血尿なんて出した方が悪い」という方針が満場一致で認められていき、さらなる「独自の強さ」を身につけていくのです。

ブラック企業で血尿出るまで頑張ってみたけど質問ある?

言われた通り血尿出るまで仕事したのに、血尿の出すタイミングや出し方が悪かったとでも言うのか、磔にされて大衆の面前で棒叩きの刑に処され、涙を流し天を仰ぎながら「神は死んだ」と心で嘆くという結末になるわけです。

結果このときは減給などの処分はなかったのですが(当たり前ですけど)、その後しばらく「またキツいからって血尿出すなよ笑」という嫌味を言われ続けるという執行猶予が付くことになります。

「血のションベン出るまで仕事してこそ1人前」って言葉を思い返しながら、このときに私は強く思いました。

コイツ絶対自分で言ったことすら忘れてるわ…

そうです。ブラック企業の経営者は、都合の悪いことは全て忘却の彼方に飛ばす能力を持っているのです。

この面で我々のような凡人と違うのは、凡人はぼんやりと言ったことを覚えていて、なんか気不味いなぁと思いますが、ブラック企業の経営者はそんなこともなく、完全に忘れてるから真っさらな気持で心の底から強く否定できるということ。

悔しいが、見習うべきはその習性。たとえ何度挫かれようとも、何度でも立ち上がってチャレンジできるのは、そういう忘却のシステムを脳に備えているからなのかもしれません。

どんなにツラく苦しいことも、未来には笑い話になることもあります。

覚えておくだけ心がツラくなるのなら、いっそ忘れてしまうことだって悪いことでもないでしょう。

世の中、けして目先の楽しいことばかりではないですが、苦難の今を抜けた先に、味わってきた苦難も笑えるような人になっていれば、それだけでも体験した価値はあるというもの。

今も世界にこれまでにないいつ終わるかわからない苦難が続く時代ではありますが、ブラック企業勤めしてたときも、いつ終わるかなんてわからないままでした。

でも、やまない雨は無いのが人生です。晴れた日にすぐに出かけられるような準備を、今だからこそ時間をかけて忘れずにしておきましょう。

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