見出し画像

【映画】1日1キアロスタミ

「京王井の頭線・急行の、吉祥寺行きです。間もなく永福町です。西永福、浜田山、富士見ヶ丘へおいでのおキャッサバ…」

そこで私はタピオカになった。

夜の電車は満席だったが、おキャッサバ、に反応したのは、私だけだったかもしれない。2021年10月、寒さ深まる東京。コロナの第5波がおさまり、街も人々もおそるおそる、活気を取り戻しつつある。やがてくる第6波までのつかの間。

そんな東京で、イランの映画監督であり、世界の巨匠でもある、アッバス・キアロスタミ作品のデジタルリマスター版が特集上映されている。

画像8

渋谷のユーロスペースでは、10月16日~11月5日の間、7本の作品が上映されている。もとは1974年から1999年の間に公開された作品で、イランの、普通の人々が、劇映画なのに驚くべき自然さで、生き生きと描かれている。

動画配信のU-NEXTでもみられるけれど、やはり映画館でみたかった。
こんなありがたい機会に、キアロスタミの世界をじっくり堪能しようと、毎日1本ずつ、見に通っている。今日までで5本、見ることができた。

数十年前のイランで、男の子が女の子に熱心に求婚したり、少年が首都へサッカーを見にいっておかしなハプニングが起きたり、今日だって、監督がたくさんの小学生に、宿題やったか、家で怒られるか、褒められるかなど、執拗に聞いている。

イランの人や暮らしは、知りえないのに、キアロスタミの映画の中では、めっちゃキャラが立っていて、何を考えているか、どんな間がらか、というのがよくわかる。時も、国も、文化も越えて、すごい。

画像9

初日の、「友だちのうちはどこ?」の上映前に、歌舞伎役者の中村獅童さんのトークイベントがあった。たまたま私は目の前で話を聞くことができた。

勝手なイメージと違って、獅童さんはキアロスタミの大ファンなんだって。キアロスタミ作品は、日本では1993年に、ユーロスペースで上映され、多くの日本人の知るところとなった。私もその頃に見て、「すごい」と思ってファンになった。獅童さんもそうだったんだって。学生時代に、まだ桜丘町にあった頃のユーロスペースに通って、キアロスタミの世界に浸っていたと。同じだ。いっしょの回を見てたかもしれない。私は社会人になりたてだった。愛読誌は「ぴあ」じゃなくて「シティロード」。それ系の特集がたっぷりあった。ユーロスペースで上映してもらったおかげで、私たちの目が開けたわけだ。

画像6

画像4

今も、ロビーに貼ってある昔のチラシを見て、獅童さんも胸が熱くなったそう。わかるわー。私も育児期間に映画などみられなかった頃をへて、また映画館に戻ったときに、これらのチラシをみて泣いたよ。

そしてまた、時をへて、1日1キアロスタミ作品を見られる、幸せよ。

画像2

画像3

転職をへて、会社で働けているおかげで、学生時代のようにお金を気にせず映画くらいは好きにみることができて、時間も自由で、会社帰りにふらっとユーロスペースに寄れる、この幸せ。

そして作品がまた、味わい深いのである。

2021年の日本が、コロナだろうと、情報が爆発していようと、タピオカが流行ったり廃れたりしていようと、変わらずそこにアハマッド少年がいて、友だちのことを心配している。

画像7

画像10

中村獅童さんもありがとう。お話、たのしかった。

キアロスタミ特集は全国にて巡回予定だそうです。

それにしても今年は、巨匠たちの素晴らしい特集上映が多いなぁ。
ホン・サンス(韓国)、
ホウ・シャオシェン(台湾)、
アッバス・キアロスタミ(イラン)、
そして11月からヴィム・ヴェンダース(ドイツ)特集も待っている。
大島渚の「愛のコリーダ」もすごかった。朝ドラ「おかえりモネ」を見る度に、藤竜也さんをリスペクトする。
あ、チベット現代映画特集@岩波ホールは素晴らしい出会いだった。全部みた。
(エリックロメールやジムジャームッシュ特集もあったけど、私は行かず)

願わくば、
イ・チャンドンのプロデュース作の特集(「冬の小鳥」を映画館でみたい)と、
沖田修一監督特集(「横道世之介」を映画館でみたい)
をやってほしいなぁ。