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テテテの謎に迫る…?

「テテテdesign」という屋号を使っている。

ときどき、なんで「テテテ」なの? と聞いてもらえたりもするけれど、え…と…「テツカ」だし…などと、もごもごしてうまく答えられなかったりする。でも一応、その名前を決めるときにはいろいろ考えたのだ。

自分がやりたい仕事とはどういうものなんだろう、とごにょごにょ考えて、いろいろこねくり回してつくった最初のコピーがこんなものだった。

ちいさいけれど
大切なことを
ていねいに
伝える

その頃、仕事を大きくスピーディに動かすことを優先させるためにさまざまな人たちの思いややる気を充分に活かすことができなかったり、そのことについて一人一人にきちんと説明できなかったりすることがとても辛かった。だから自分で決めることができる仕事については、私が関わる一人一人を大切にしたい、ていねいな仕事がしたい、ということを痛切に感じながら考えていたのだ。

ちいさい、大切、ていねい、伝える、と並べながら、なんだか頭文字が「た行」だなぁ、と思ったのと、名前が「テツカ」で手仕事、手作業など「手」を動かして物をつくるのが好きだし…ということで基本は「て」だな! と。

だんだん考えるのが疲れてどこかめんどうくさくなってきた時に「テテテ」と重ねてみたらちょっとイイ感じ。「ゲゲゲの鬼太郎」や「ビビビのねずみ男」もあるし(同じ…)水木しげる好きだし、というこじつけな理屈も追加してようやく決定したのだった。

初めは口にするのがものすごく恥ずかしかったけれど、数年経ってそれなりになじんできた「テテテdesign」。

そんなある日、知人から「アガサ・クリスティの英語朗読版で『テテテ』と言っている」という情報が寄せられた。わざわざ何度も聞いて朗読版からテキストを起こしてくれた上に、「tete-a-tete」というフランス語由来の英語で「一対一の、二人だけの、差し向かいの、内密の」という意味があるようですよ、と調べて教えてくれた。まじか。

これは裏を取らねばなるまい! ということで調べましたよ! 教えてもらった「葬儀を終えて」の原作を探し、Agatha Christie「After the Funeral (Poirot) (Hercule Poirot Series Book 29) (English Edition)」から2か所発見。

He had engineered adroitly têteà-têtes, walks upon the terrace, and had made his deductions and observations.
(201p)

時には誰かれとなく、差し向かいで話をし、時にはテラスを歩きまわった。そして自分の推理と観察を進めた。(注)
(※ 「-」がないのは原文ママ。強調は引用者、205pも同様。)
Whether by his own wish, or by that of his wife, he seemed to have no liking for tête-à-têtes or quiet discussions.
(205p)

彼自身の意志によるものかよく分からないが、グレッグは差し向かいの話も、静かな議論もあまり好まない様子だった。(注)

この辺まったく無知なのでイチからいろいろ調べてみたらけっこうおもしろかった。アガサ・クリスティの推理小説である「葬儀を終えて(原題:After the Funeral)」は名探偵エルキュール・ポアロのシリーズ25作目。

ポアロはベルギー南部フランス語圏出身のベルギー人という設定だそうで、だからフランス語由来の「tête-à-tête」という言葉を使っていたのだなぁ。改めて作家の言葉の選び方の精度と遠い見知らぬ街のリアリティを想う。

Google翻訳で「tête-à-tête」のフランス語の発音を聞くと「ティテテッツ」のように聞こえる。無理やり日本語にしたものは「テタテ」とか「テタテト」と表記されていることが多いようだけれど。他の翻訳サービスや英語での発音などでちょっとずつ聞こえ方が変わるので、どれが一番「テテテ」に聞こえるかな…と聞きまくってしまった。

フランス語では「tête」は「頭」という意味らしく、一つの頭と一つの頭を突き合わせるようなイメージのようだ。いろいろな訳を見ていくと「二人だけの」「内密の」とか、一対一の中でもちょっと親密な、関係性の深さをイメージさせるような言葉なのかな、という印象。

ともかく私が大切にしていきたいと思っていた「ひとり」と「ひとり」のていねいな関係に通じる意味が「テテテ」という音(ちょっと音の扱いが雑だけど)に含まれていたわけだ! 図らずも!

というわけで、後付けですが「テテテdesign」には

一人一人の思いと
ひとつひとつの関係を大切にしながら
ていねいにデザインする。

という思いを込めているんですよ! ということにしたいと思います。


(注)日本語訳は下記より引用。
アガサ・クリスティ 著, 加島祥造 訳,「葬儀を終えて」, 株式会社 早川書房, 1976
図書館で借りたので古いですね…。今は新訳が出ているようです。

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