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2020年 日本格闘技界勝負の年が始まる。─中編─

2020年、日本格闘技界のメジャー団体は2月22日(土)に「RIZIN.21浜松大会」。3月22日(日)に新生K-1の一年に一度のビッグイベント「K'FESTA.3」の順に開幕する。

前回の2020年のRIZINの見解に続き、今回は新生K-1の2020年の見解について記していこうと思う。

─目次─
Step.1  2020年の新生K-1 ~ファンを舐めてはいけない~
Step.2  RIZINと新生K-1の関係性 ~やっぱ“アレ”やった方が良いのかもね~
Step.3  日本格闘技界最高の逸材 那須川天心への期待と想い
Step.4  格ヲタの我々に出来ること ~感謝と恩返しとエゴイズム~

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Step.1  2020年の新生K-1 ~ファンを舐めてはいけない~

2014年11月から始まった新生K-1。今年で早くも7年目に突入する。

Twitter上で私と交流のある方はご存知だろうが、念のため伝えておくと、私は旧K-1を愛するKヲタだ。

立ち技世界最強を決める打撃格闘技の世界最高峰の舞台。
その舞台で繰り広げられる一流のキックボクサー、空手家、ムエタイ選手、ボクサー、MMAファイターによる死闘。そして異種格闘。
ヨーロッパを中心に世界各国から立ち技の猛者が日本に集まる壮大なスケール感。豪華な演出。

そんなロマンに溢れた日本で開催されるワールドワイドな世界観を私は愛した。いや、溺愛したと言っても良い。

しかし、旧K-1は2012年に事実上消滅。
商標権や運営権は外資に譲渡されたが、結局上手く行かず、巡りめぐって日本の小規模キックボクシング団体「Krush」を運営する会社が「K-1 WORLD GP」の商標権を買い取り、今の新生K-1が誕生したと言うわけだ。

しかし、K-1と言うブランドが復活したとはいえ、中身はまるで別モノだ。
大会の規模、演出、日本人中心の構成、マッチメイク、地上波放送は無し、新設された多く階級、軽量級中心、外国人選手の質など......まぁ言ったらキリがないほど別モノである。

旧K-1を愛した私を含む旧K-1ファン(通称:Kヲタ)からすれば、勿論『こんなのK-1じゃない!』と少し老害じみたことを言ってしまうのも、まぁ仕方ないだろう。

しかし、私は一概に新生K-1を批判してるわけではない。寧ろ“評価している”と言える。

それは何故かと言うと

新生K-1は旧K-1がやるべきだったこと。出来なかったことを実践出来てるからである。

具体的に述べていこう。

Point.1 ピラミッド型の組織ヒエラルキーの構築

新生K-1は、「K-1 WORLD GP」のタイトルを頂点にKrush、KHAOS、K-1甲子園とK-1ガレッジ、アマチュア部門の順にヒエラルキーを形成している。

このピラミッド型の仕組みを作ることでどんなメリットがあるかと言うと

(1)選手の育成。手持ちの次世代スターを何人も作れる。

(2)選手の育成により、選手層が必然的に厚くなる。

(3)新陳代謝が活発に。マンネリ化を防げる。

(4)独自の世界観によるマッチメイクで様々なストーリーを作れる。

(5)独自のブランドを構築。

ざっと思い付いたところでこんなとこか。

かつての旧K-1も創始者・石井和義氏がこのピラミッド型の組織を世界規模で構築すべく、「FIKA」というK-1連盟を立ち上げ、オリンピック連盟IOCやサッカー連盟FIFAも本部を置くスイスの都市チューリッヒに組織を立ち上げようと目論んだが、その最中に石井氏は脱税で捕まり、経営者が谷川貞治氏に移る。結局その組織を作れないまま、PRIDEとの醜い争いや地上波テレビありきのやり方が仇となり、旧K-1は崩壊した。

これを新生K-1は“国内の日本人にほぼ限定されるが”ヒエラルキーをしっかり構築し、未来のスター選手育成ができてるのだ。ピラミッド型の組織が機能したからこそ誕生したスターといえば、武居由樹と江川優生がその代表格と言って良いだろう。

KrushやAbemaTVの企画「格闘代理戦争」を見ていても、将来有望な10代~20代前半のキックボクサーは沢山生まれている。彼らが後に武尊や皇治、武居、木村から“稼ぎ頭”のバトンを受け継ぐ原石であり、彼らは現在のスター選手達を倒し、世代交代していくことで新生K-1の現在が未来へと繋がっていくわけだ。

そういった所では、現在新生K-1とライバル関係にあるRIZINやRISEと比べても新生K-1は未来のスター選手の育成と言う点は抜群に出来てる。旧K-1と比較しても全然出来てるのだ。

ここが新生K-1の一番素晴らしいポイントであり、正直それとは対照的にRIZINやRISEはほとんどそれが出来てないと言っていい。

Point.2 建設的な鎖国によるブランディング

新生K-1は今尚一貫して他団体と交流する気配はない。

しかし、新体制の「K-1」と言うブランドを拡大していく上で、これは正解なのだ。

例えば、旧K-1の話をまたここで持ち出そう。

石井和義氏が去ってしまった後、代表となった谷川貞治氏は「K-1 JAPANシリーズ」でMMAの試合を積極的に無駄に取り入れたり、総合格闘技団体「HERO’S」の前身となった旧K-1史上最悪の黒歴史とも言える伝説の単発イベント「ROMANEX」と言うMMAイベントを開催したり、または大晦日の格闘技イベント「Dymamite!!」で手持ちのK-1ファイター達を他団体のしかもMMAルールなどで積極的に参戦させたりした。

さあ、これがどうなったか?

旧K-1は手持ちのスター選手や未来のスター候補を潰したり、または潰しかけたり、そして外部の価値観を取り入れたことで一気にファン離れが進んだのだ。

具体的な例を上げれると、例えば2004年5月に開催されたK-1系MMAイベント「ROMANEX」
このイベントは後に誕生するMMA団体「HERO’S」の前身とも言えるMMAイベントで、“K-1vsプロレス”を軸にマッチメイクは構成された。それ以外にも後にUFCのスーパースターかつチャンピオンとなるBJペンやリョートマチダといった豪華なメンツも参戦。

当時、MMAは今のような競技として確率されておらず、PRIDEを中心に様々なジャンルの猛者が闘う“異種格闘技”の色が強く、立ち技に比べてルールの幅が広い分、オリンピック柔道家やレスラーなども参戦し、“基本なんでもあり”と言う過激なルールの中で幻想と幻想がぶつかり合う舞台として、90年代後半から社会現象を引き起こした立ち技K-1の人気を越える勢いだった。

ライバルPRIDEの人気拡大に対抗すべく、谷川氏はK-1の枠の中でMMAの試合も取り入れるようになった。そこで開催されたのが、ROMANEXだったと言うわけだ。

プロレスラーやMMAファイターとのMMAルールによる異種格闘技の中で谷川氏はK-1ファイターを勝たせて、K-1ファイターを幅広くプロモーションしようと考えたのだろう。2000年年代初頭にはミルコ・クロコップを中心にK-1ファイターがプロレスラーを相手に圧勝するなんて試合も沢山あった。そこで“プロレスラーを噛ませにK-1のイメージアップを謀ろう”と。

しかし、結果は皮肉にも真逆となった。
ボブ・サップは藤田和之に、K-1次世代のスター候補だったアレクセイ・イグナショフは中邑真輔に惨敗(しかも、イグナショフはなんと中邑戦前日にオランダでシュルトと試合していた。MMAルールの練習や調整など全くせずシュルト戦が終わってから休む間もなく来日し、すぐ試合と言う今では考えられない参戦だった)

当時K-1が売り出していたスター選手を他のジャンルの選手に潰されかけた上、「K-1」と言うブランドのイメージダウンに繋がる愚行をしてしまった。

谷川氏時代のK-1には、他のジャンルや価値観を取り入れた事が仇となった事が頻繁にあったのだ。

2004年大晦日Dynamite!! ボビー・オロゴンvsシリル・アビディ

2005年大晦日Dynamite!! ピーター・アーツvs大山峻護

2008年大晦日Dynamite!! エロール・ジマーマンvsミノワマン

......など、ちゃんと振り替えればもっとある。

これの逆パターンもあった。

2010年大晦日Dynamite!!であった青木真也vs長島“自演乙”雄一郎戦だ。“K-1vsDREAM”の異種格闘技戦としてMIXルールで行われた。結果はなんと2RのMMAルールでK-1長島がDREAM王者青木を秒殺するという奇跡的な珍事が起こった。これでMMAイベント「DREAM」はMMAファン達の怒りを買う形になってしまった。

これを新生K-1に置き換えてみよう。

上記に似た事が、新生K-1時代にも1つだけあった。

それは、2015年9月のRIZINで行われた木村ミノルvsチャールズ“クレイジーホース”ベネット戦だ。

結果は木村まさかの秒殺KO負け。新生K-1のスター選手木村ミノルを潰しかけたのだ。

これを機に新生K-1はRIZINや他団体との交流を避けるようになった。
これは「K-1」と言うブランドを守るためでもあるのだ。

Point.3 “K-1ファンの為の”マッチメイク

新生K-1はpoint.1で言ったピラミッド型のヒエラルキーを上手く活かすようマッチメイクされてる。

KHAOSやKrush、K-1甲子園で育成された叩き上げの若手達をふるいにかけ、その中でKrushのチャンピオンや好成績を残した選手、もしくはキャラクター性やタレント性の強い選手などの生き残った選手を新生K-1のリングにあげる。

そこで、オブラートに包まずドストレートに言っちゃうが、絶妙な噛ませ外国人を連れてきて売り出したい日本人を勝たせると言う。

新生K-1はそうして、新生K-1のファンたちを作ってきたわけだ。

新生K-1初期の頃、私はよく会場となった代々木第2体育館に足を運んでいた。新生K-1発足時は、当時後楽園ホール連続満員記録を作っていたKrushから流れてきたのであろうファンと選手の応援団の2つの客層に分かれていた。

新生K-1が客に求められたことは、「Krush上がりの日本人選手を勝たせること」だった。

当時は今以上に酷い忖度判定があったものだった。しかし、皮肉にもそうして新生K-1は大きくなっていったのだ。会場に来てくれるファンやスポンサーをしてくれる企業など、”最もお金を納めてくれるお客様“が求めているのは日本人のK-1王者を観ることなのだから。

こうやって人気を拡大していくことで、新生K-1は10代後半~20代前半のスマホ世代のファン達を獲得していくことに成功する。この世代をターゲットにAbemaTVによる生放送、Youtubeでのプロモーションなどスマホ世代に向けた的を射たプロモーション活動が功を奏し、所謂若い”にわかファン“達を獲得し、今やさいたまスーパーアリーナや横浜アリーナ、両国国技館といった1万人以上の大箱でもチケットが完売するほどのイベントに成長を遂げた。

ここまでは順風満帆だし、私も「今昔のK-1のような事をやったところで本末転倒なのは目に見えてるし、これはこれで正解かな」と着地させていた。

実際に新生K-1のやってることは正しいからこそ、大きく成長したのは事実だし、マッチメイクに関してもあからさまな噛ませではなく絶妙な噛ませ外国人を見つけては連れてくるところに、新生K-1はマッチメイクが上手だなと、感心していた。

しかし、しかしだ。

先日、Twitterで私が新生K-1ファンの方達約340人に(おそらく若い方が多いだろう)にアンケートを取ったところ、こんな興味深いデータが出たのだ↓

新生K-1はK-1グループの中でのヒエラルキーの中での日本人同士の潰しあい、そして、絶妙な噛ませ外国人選手に日本人を勝たせることで“にわかK-1ファン”達の心を掴んできた。

しかし、アンケートはこの結果だ。

明らかに飽きられてる。

彼らスマホ世代の若いファン達を舐めてはいけない。10年前とは違い今の時代スマホ一個でいくらでも情報を調べられる。SNSやYoutubeでいくらでも噛ませ外国人かどうか?選手の実力などいくらでも調べられるし、SNS上で他団体の選手、関係者、格闘技偏差値の高い格ヲタ、情報屋のような格ヲタなどと通じていくらでも調べられるし、4Gから5Gへと変わろうとしている今、各ジャンルに求められる変化やファン達の情報収集の力も急速に早くなっている。

今日まで正解だったもの、需要があったモノが、明日には不正解、需要のないモノに変化したりする時代なのだ。

10年前はスマホはそれほど普及していなくSNSなんて今ほど普及していなかった。当時のKヲタやPヲタは格闘技情報雑誌、格闘技サイトまたは2ちゃんねるを通して情報収集をしていた。しかし、SNSが普及した今、新生K-1やRIZIN、那須川天心や朝倉未来がきっかけで格闘技ファンになった“にわかファン”の方たちは、10年以上前の格ヲタと比べて、知識や情報を得るスピードが早く、凄い速さで目が肥えてきてる。

今までのようなマッチメイクでは、もう既にと言うか早くも通用するのが難しくなってきたのだ。

今までような噛ませ外国人を当てて、『K-1最強!最高!』などとファンに求めるようでは、新生K-1は今年から痛い目をみるし、緩やかにファンを失っていく懸念もある。

ファンを舐めたら、痛い目あうよ?

そこで新生K-1に求められるのが、次への展開と変化、アクションだ。

そこで次の章、「Step.2  RIZINと新生K-1の関係性 ~やっぱ“アレ”やった方が良いのかもね~」に繋がっていく。

今回はここまで。次回「2020年 日本格闘技界勝負の年が始まる。─後編─」へ続く。

by 不滅の鉄人

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