![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/9191813/rectangle_large_type_2_61529c5085a4c16dd568945836e9ff1e.jpeg?width=800)
【短編】「邂逅」_Simplicity of the world, Complexity of the life. 024
男は目眩がするたびに世界のことが心配になるのだった。
世界で正常なのは自分だけで、ひょっとすると世界がぐるぐると回っていて、地球の重力もバラバラで、天と地が混沌に返ってゆくのじゃないかと不安になった。
彼の世界はいつもまるでメリーゴーラウンドから降りた後みたいに、ぐるぐる回っていた。
おかげで道をまっすぐ歩くことさえままならなかった。
友人に話せば、大変だね、と冷めた顔で言われ、もちろん脳神経外科では何度もCTを受けたが、脳に異常はなく、医者からはおそらくストレスでしょうお大事に、と言葉をもらった。男はいつもぐるぐる回っていた。
自分が絶対位置感覚の持ち主であることを知ったのは妻と出会ってからだった。そのことを教えてくれた妻も絶対位置感覚の持ち主だった。
普通の人が感じることのできない、宇宙の運動を感じる感覚だった。地球の自転公転、太陽系の運動、銀河の運動、宇宙の膨張。すべての運動をその身体が捉える感覚だった。
妻と出会えたのは、奇蹟に近かった。宇宙の塵のような二人がめまぐるしく変わる座標の中で交差する確率は文字通り天文学的確率だった。
二人は結ばれたにもかかわらず、お互いの世界が膨大な速度で流転するため、ほとんど顔を合わせることはなかった。
一瞬の邂逅で愛を伝え合ったが、次に二人が会えるのは悠久の時間の中でいつになるのか知る由もなかった。
人はそんな二人を織姫と彦星と名付け、空に祭った。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?