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【短編】「囚人」_Simplicity of the world, Complexity of the life. 065

囚人たちがいた。

囚人たちは二つの自由を奪われていた。

ひとつ。質量に伴う力で強力に縛りつけられていた。

ひとつ。同時に時間の移動を固く禁じられていた。

可哀想だと思うだろう。

だが囚人たちは星を眺めることができたしお互いを愛し合うことができた。

それゆえに囚人たちは己が囚人であることを忘れていた。

忘れるのに時間はかからなかった。そういうものだ。

信じられないかもしれないが、2,3週間もすれば忘れてしまった。

囚人たちの惑星系でいえばわずか10万かそこらの公転周期である。

囚人たちは厳重にひとつの惑星に隔離されていた。

囚人たちは現時点で70億人に増えていて、増加傾向にある。

その惑星ってどこにあるの?と息子が聞いた。

「近所だよ。ここから20光年くらいかな」と父が答えた。

「こわいよ」

「大丈夫だよ。彼らは私たちに気づかない。次元を奪われているからね」

「襲ってこない?」

「たぶんね」

「たぶん?」

「お互いがお互いを殺し合ったりはしているけどね」

「こわいよ」

「大丈夫だよ」

「大丈夫かなあ」

「大丈夫だよ。近くを通るよ。ほら、あの惑星さ」

「パパ、近づき過ぎだよ」

「大丈夫だよ」

「襲ってこない?」

「襲ってこないよ」

「たぶん?」

「たぶんね」


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