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【短編】「お月様」_Simplicity of the world, Complexity of the life. 033

 子どもと散歩をしていたら、4歳の娘が、漆黒の空に浮かぶ月を見て言った。

 ほら、見て、こっちに歩いても、ずーっとお月様、ついて来るよ。私のことが好きなのかなあ、と笑っている。

 こんなに走っても、ほら、走っても、ついて来る。

 どうしてかなあ。私のこと、好きなのかなあ。

 と、息を切らして笑うので、

 そうだね、きっと、大好きなんだと思うよ。

 でもパパの方がお月様よりも、みっちゃんのこと大好きだよ。

 と言ってみたけれど、娘はよく分からずに、えええ、なんて言っている。

 パパはずーっとついていくことは、きっとできないから、代わりに君に「美月」って名前をつけたんだ。

 パパがいなくなっても、お月様は、ずーっと、ついて来るからね。

 ずーっと、ずーっとね。

 だから、悲しいことがあったら、お月様を見上げてね。

 と言おうと思ったけれど、やめた。

 娘は、なんでずーっとついて来るのかなあ、と、月を眺めていたが、とつぜん振り向いて、パパもついて来てるっ、と、逃げたので、走ってつかまえたら喜んでゲラゲラ笑った。

 なんでついて来るのかなあ、なんでだろうね、ふしぎだね。

 そう言いながら、ふたりで手をつないで、家に帰った。
 

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