【短編】「まどろみ」_Simplicity of the world, Complexity of the life. 017
まどろみの中で会える彼女の名前を聞いたことはなかった。
幼い頃からいつも彼女はまどろみの中に現れてはいろんな会話をし、一緒に遊んだ。
授業中うとうとしていた時は真面目な面持ちで叱られ、おじいちゃんの通夜の夜には、泣きはらした僕のそばにずっといてくれた。
僕が大きくなるにつれて彼女も大きくなり、まどろみの中で僕たちは体を重ねた。
現実世界で僕は結婚した。
妻に言えないことや、夫婦関係のことをまどろみの中で相談した。そのたびに彼女は微笑んで僕の話に応えてくれた。
子どもが生まれ、その子どもも大きくなり、僕は天寿を全うする時を迎えた。
まどろみの中、悲しそうな表情をする彼女は、慰めるように微笑んだ。
これからずっと一緒にいられますね、と。
そうだね。名前を聞いてもいいかな?僕も微笑み、最期にそう言った。
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