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【短編】「お菓子」_Simplicity of the world, Complexity of the life. 067

 スーパーのお菓子売り場で、パパ、このお菓子見て、と息子が言った。

 息子が手にしているのは近頃流行している健康食品だった。球体の形をしている。

 どうした?と私は妻から頼まれた食材の乗ったカートを押して息子のしゃがむ場所まで移動した。

「これなに?」

 息子が手にしたのは惑星だった。青く透き通っている。

「綺麗な飴だね」

「なんて書いてあるの?」

 息子が指差した場所には、「ニンゲン成分がおよそ70億個含まれています。」と細いゴシック体で書いてあった。


「これは目に見えないくらい小さな生き物がこの飴の中に含まれているから、カラダにいいですよ、ということが書かれているんだよ」

「ニンゲンって何?」

「私たちのカラダにいいとされている生き物だよ」

「生きてるの?」

「生きたまま腸に届く、と書いてあるから、生きてるんだろうね」

「欲しい」

「ダメだよ、昨日似たような氷の惑星を食べて、ご飯が食べられなくなってお母さんに怒られたじゃないか」

「ご飯食べるから」

 息子が駄々をこね出した。私はなるべく急いで夕飯の支度をしなければならないため、買ってしまおうかと思ったが、教育上良くないと思い直した。

 お勉強を頑張ったら買ってあげるよ、と言うと、息子は、ええ、と、うなだれ、そのまま私たちはスーパーを出た。

 近頃はいろいろな惑星が開発されているものだ。


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