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【短編】「海牛」_Simplicity of the world, Complexity of the life. 041

 海牛は海岸に取り残されモウと鳴いた。

 悲しみは詩となり貝殻に響いた。

 砂浜に牧草は一本も残っていなかった。

 ただ五月の雨が音もなく白砂に消えた。

 海牛は垂直方向にモウと鳴き続けた。

 海猫は羽を失い大地に寝転びニャアオと鳴いた。

 足音へと変化した鳴き声は水平方向に続いた。

 海牛は海猫が猫ではないことを知っていた。

 海猫は海牛が牛ではないことを知っていた。

 鉛のような海だけが両者を慰めた。

 海豚は両者の悲しみを子守唄に眠った。

 どこに居るかも分からない夢を観た。

 夢の中で海牛は牛になり海猫は猫になった。

 海が悲しみを飲み込み雨が苦しみを洗った。

 海を失った猫は世界のどこにいるか分からず、ただただ鳴いた。


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