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【短編】「ナンキヨク」_Simplicity of the world, Complexity of the life. 012

  ぼくは、ずっとそれが氷だと思ってた。

  毎日、僕が歩いている道。

  水色が、ところどころ禿げているこの大地。

  氷だと思ってた。

  お魚は、バケツにはいっているモノ。

  夏はあついし、冬はさむい。

  それが、世界。

  ぼくは、この世界がずっと、世界だと思ってたんだ。

  お母さんも、お父さんも、この世界で生まれた。

  だからぼくも、ここで生まれて、ここで死ぬ。それが、当たり前のことだと思ってた。

  だけど、この世界のどこかに、ナンキヨクっていう場所があって、

  ぼくたちがほんとうに暮らす世界はナンキヨクっていう場所だっていうの。

  そこは、いつも、すごく寒くて。

  夏なんか、ないんだって。

  そこでは、魚って、自分で動くんだって。

  そんな世界、信じられる?

  ほんとうだよ。今日、ぼくたちを見に来ていた、子どもたちが言ってたんだ。

  ぼくたちが暮らすこの世界は、ほんとうは僕たちの住む世界じゃないんだって。

  ぼくは、聞いてしまった。

  毎朝、魚をくれるゴトウさんも、ノゾエさんも、ナンキヨクにはいないんだって。

  お父さんやお母さんに言ったよ。でも、信じてもらえなかった。

  でもぼく、なんとなく、分かっちゃったんだ。

  いま立っている、この水色の大地は、氷じゃないんだって。

  氷は、ほんとうは水色じゃなくて、こんなに禿げたりしない。

  僕、分かっちゃったんだ。  

  ここは、僕たちの暮らす、本当の世界じゃないって。
  
  分かっちゃったんだよ。

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