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アラフィフ育児 ケース9−2 「うまく喋れない」 〜幼児の言葉に翻訳する過程で頭が追いつかず、あうあうしか言えない悲しい現実〜

45歳で第一子を授かった。47歳で第二子が誕生した。
そして今、池田テツヒロ、53歳。
目がかすみ、耳が遠くなり、人の名前がすぐに出なくなり、夜中にトイレに起きるし、お酒を飲むと疲れる始末……。
上のムスメは8歳になり。下の娘は6歳。
ムスメが成長すると、私が老いる。当然も当然の話なのだけど、出来る事なら、もう少し体力が欲しい。俊敏な筋肉が欲しい。よく回る頭が欲しい。
たかいたかいは五十肩で満足にできないし、ジャングルジムへは身体が硬くて入れないし、ゲームの文字は小さくて読めないのだ。
だからムスメ達よ、こんな父を尊敬しろとは言わない。少しだけ、優しい目で見てくれまいか!

前回の投稿から↓ かなり日が経ってしまいました。申し訳ございません。

今回はこちらの続きでございます。
ケース9−1を要約しますと、吃音で悩んでいた私が、俳優業を続けることで、どうにかこうにか、だいぶ喋れるようになってきた……と、そんな内容でございます。

そうなんです。
舞台上でも噛んだり滑ったりすることが、かなり減りました。
それは鍛えられたメンタルと、私が編み出した『噛まないテクニック』の成果でして、舞台上で「シャシャシャシャシャー!」と滑りまくっていた私の舌も、今ではなんとアニメの声優をやらせていただけるまでに成長し、威風堂々とした貫禄(個人の感想です)まで身につけるようになったのです。

しかし……ここに来て、老いと育児の疲れで、またもや喋れなくなってきたのです! 恐怖、アラフィフ育児!

それでは、ケース9−2をお楽しみください。

×  ×  ×

とにかく毎日眠い。
ムスメたちを寝かしつける為、我々家族は21時に寝室に移動するのだけど、そこからが忙しい。

ムスメたちは、ベッドで飛び跳ねたり、『こびと図鑑』のダンスを踊ったり、でんぐり返ったり、メルちゃんとぬいぐるみたちのお茶会を主催したり、影絵を楽しんだり、変ななぞなぞを出してきたり……。

まあー寝ない。

リビングでたっぷり立食パーティーをしていたのに(ムスメ達はひとくち食べては椅子から降りて人形を持ってきたり、窓から外を覗いたりと、じっと座って食べられないのだ。言わずもがな、由々しき問題である!)
なのにムスメ達は、
「場所を変えて仕切り直しよ!」
とばかりに、寝室でも二時間はパジャマパーティーを繰り広げるのだ。
パリスヒルトン並にパーティーピーポーだなっ!(カミナリさん風で)

だけど我々夫婦はそれに付き合ってはいられない。
部屋の片付けは終わってないし、食器もまだ洗っていない。彼女たちの宴の後始末が、山積みなのである。

それに私の執筆の仕事があるし、明日の撮影のセリフだってまだうろ覚えなのだ(超怖い!)。

早く寝ていただかないと、おまんまの食い上げだ。

なので我々は、絵本を読み聞かせたり、足や手をマッサージしたり、子守唄を歌ったり、ひつじを数えたり、寝物語を語ったり(なぜかリクエストは毎日赤ずきんちゃん)。ありとあらゆる事を試みるが……全然寝てくれない!

「寝るサプリを盛ったろか!」 なんて考えた事もあるが、まあ、それはさすがにやめておいた。

そう、大山倍達氏も言うように、ねかしつけに、近道なんてないのである。
(けだし名言だが、大山氏は言っていないと思われる)

毎日手を替え品を替え、なんとか寝かしつけたらもう、23時。
睡魔が容赦なく襲いかかり、それに抗い、なんとか寝かしつけた約二時間、その激闘の爪痕が、容赦なく五十代の体力を奪うのだ!

さて、自分の仕事を終えて、ようやく寝れる。
「おやすみー」と戦友である妻に、ねぎらいの言葉をかけて、布団に潜り込んだ夜中の二時、丑三つ時に起こされる。

幼児って、夜中によく、動くし、起きるし、時には号泣するのである。
怖い夢を見たのか、寝ぼけながら号泣しているので、「なにがあったの?」「どんな夢を見たの?」と聞いても答えないし、多分寝ぼけていて聞こえていない。

つまり純粋にただただ号泣するのだ。こんな場合、時が過ぎるのを待つしかない。なだめたり、なでたり、抱きしめたりして、ようやく三十分後に静かになり、なんとか二度目の寝かしつけを経て、自分の布団に潜り込んだはいいものの……ああ……まただ……。

そう、目が冴えてしまうのだ。

夜中に起こされて、そこからうんともすんともニントモカントモ(忍者ハットリくん)眠れなくなっちゃうのである。

しばらくは布団の中で、もぞもぞと寝相を変えてみるのだが、無駄な抵抗。
YouTubeで「即寝落ち!」なんて書いてあるヒーリングミュージックをかけたりもしたけれど、幻想的なあの音楽は、ネガティブにも効果てきめんで、♫将来の不安が不安がふあんがフアンがフアンが……と、鐘の音色が不安をかき立てるので、余計に眠れなかったりする。

で、一時間ほど、無駄な努力を繰り返し、どうにかこうにか眠りについた一時間後、ドラマ『二月の勝者』撮影の為に早朝六時に起きるといった毎日で、日に日に目の下の隈が色濃くなっていくのだ……。

「橘先生(役名)お疲れですか?」
違います。池田鉄洋が疲れているんです。って、ダメだろ!

しかもだ。身体が疲れると、舌も元気がない。寝不足だと、余計だ。

寝て起こされてまた寝ての、合計五時間の睡眠で、完璧に寝ぼけて日本テレビのスタジオに着いて、受付の方に深々と礼をしてからの第一声。
「おはようございまふ! しゅしゅえんしゃ(出演者)の、ほりふろ(ホリプロ)の、いへだへふひろ(池田鉄洋)でふ!」

いや、言えてないにも程がある!!!

「自分の名前さえ言えないのに、セリフが言えるんですか?」 
そう受付の方にツッコまれても仕方がない、ていたらく。そのまま踵を返して、家に帰りたい気分だ……。

×  ×  ×

舌のもつれに追い打ちをかけるように、頭のもつれも深刻だ。

寝かしつける際に、桃太郎の話をしだすとする。
「おじいさんは山へ芝刈りに」
「シバカリってなに?」「なーに?」と姉妹が聞いてくる。

ああ、芝刈りってわからないよね。ええっと、
「落ちている木の枝を拾ってくることだよ」
「なんでひろってくるの?」「なんで?」
「それはね、えーっと多分ね……ご飯を作る時とかに、かまどに火をつけるのに必要でね」
「かまどってなに?」「なに?」
「かまどってのは、昔の炊事場……あ、つまりキッチン? にはガスがとおってなくて、簡単に料理ができなかったのね。で、最初に新聞紙、じゃなくて、木の皮を乾燥させたヤツを置いて、そこに火を点けて」
「ライターで?」「?」
「ああ、違うね。火打ち石だね」
「なにそれ?」「なにそれ?」
「火打ち石ってのはね……確か石英と……いや、不思議な石? と鉄? をぶつけると火花が……わからないか……小さな火の赤ちゃんみたいなのがね、爆ぜる、いや、産まれるからね、それを乾燥した木っ端や樹皮、じゃなくて、カラッカラに乾いた木の皮にね、飛ばして、それを大事にこう、持って、ふーふーって空気を送り込むんだけど」
「なんで?」「なんで?」
「火が燃え続ける為には……いや、火の赤ちゃんのご飯は、空気なんだよ」
「へー」「へー」
「つまり、おじいさんは、ご飯を作る為に必要な小さな木の枝を集めに行ってるのさ!」
「ふうん」「へー」

ここまで喋って、おばあさん、まだ川に洗濯に行けてないんだけど!

子どもに分かりやすく説明するのって、頭冴えてないと無理。
寝不足の51歳の私には荷が重いわ!

「えーっとおばあさんは川へ洗濯に」
「かわ?」「なんで?」
「昔は洗濯機がなくてね、木をボコボコに……その山に……谷に……ギザギザに……あう……あうあう……」

お願いだ! 早く寝てくれ!
パパは、眠いんだ……ムスメ達よ、パパは今、ただ、ぐっすりと眠りたいだけなんだ………………よ……

×  ×  ×

ちなみに会議で「シームレス」とか「シュリンク」とか「ローンチ」とか、使われると「ボク、お子ちゃまだから、ボクでも分かる言葉でいってほしいナー!」って思っちゃうよね。


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