ファンレター 捨てられない言葉の数々
断捨離。
頑張った。だいぶ捨てた。かなり。思いきって。
大量の子ども時代の写真。母が亡くなった時に引き取った彼女の卒業アルバム、ビートルズやサラヴォーンのレコード。バイトのシフトが書かれた二十代の頃の手帳たち。読み返しても、なんにも使えるものが書かれていないアイデアノート。愛用していたベルボトムパンツ。前にも書いたけど、父親から「託す」と送られてきた8ミリフィルム。
かなり思い切って捨ててきた。だけど、物が増えるスピードの方が早くて、モノ対人類(私)の戦いは残念ながら、人類の劣勢なのである。
どうしても捨てられなかったもののなかに、ファンレターがある。
まったく無名の劇団員時代から、劇団を辞めるまでにいただいたファンレターの数々。私はそれを、手書きの脚本らと一緒に箱に詰めていて、引っ越しの度にクローゼットから取りだしてトラックに積み、またクローゼットの中へとしまっていた。
そして先日、引っ越しを機に私は、その聖域に手をつけることにした。
古い脚本はもう、絶対に上演することはないと判断し、破棄した。
さようなら、『SF番長俺は鉄板!』(1995年)
さようなら、『コパカバーナの男』(1996年)
しかし、だ。ファンレターに限っては、ポンと捨てるわけにはいかない。このお手紙と言葉の数々にどれだけ励まされてきたことか!
でも、かさばりますねん、この箱。
そしてぴたりと手が止まる。
「ま、とりあえず、中身確認してみる?」と、私はファンレターを久しぶりに読み返す事にしたのだ。
高校生Aさんからのファンレター
『はじめまして池田鉄洋さん、私は〇〇さん(アイドルの名前)のファンです。〇〇さん目的でドラマ、毎週見ております。池田さんは主役級という俳優さんではないでしょうが、スパイスのように効いていますね。お仕事頑張ってください。そして、〇〇さんをよろしくお願いいたします』
ん?
あれ? これ、ファンレターか?
看護師Bさんからのファンレター
『池田さん、この度は、〇〇さんの初座長公演の為に、脚本・演出をしてくださり、本当にありがとうございます。私は〇〇さんの事をずーーーっと応援してきました。『〇〇〇〇』というドラマで、脇役として出演していた〇〇さんを初めて見たとき、なんて綺麗な顔をした少年だろうと一目惚れして以来、ずっと彼の作品を追いかけ続けていました。だから今回のこの舞台を、とーってもとーっても楽しみにしていたんです。今、見終わって、この文章をロビーで書いています。すっごく面白かったです。ウンウン、〇〇さんって、そうなんですよね〜。凄く身体能力が高くて、アクションやらせたらきっと輝くだろうなあって、私も思っていました。それを見いだしちゃう池田さん、さすがです。ですが、最後の曲はちょっとどうかと思います。大滝詠一を使うなんて、この舞台を見るのは私たち世代だけではありません。『なんでこの曲?』って戸惑う若者が多いと思います。残りの公演、頑張ってください』
ん?
ダメだし?
私は久しぶりに読み返したファンレターに、唖然とした。
こ、これ、ファンレターじゃねえ! 私が関わったイケメン俳優やアイドルたちを「お願いしますね」という直訴、そしてダメだしだったわ!
す、捨ててもいいっすか? もう、これ、捨ててもいいっすよね?
私はそうしてファンレターの体をした『直訴状&ダメだし』とお別れした。
注)ここに書いたお手紙の内容は、私の記憶を頼りに、要約、脚色して掲載しております。
そして、断捨離はゆっくりとだが、着実に進んでいった。
そして私は、箱の中に一通の白い便せんを見つけた。
その便せんには見覚えがあった。
2014年6月、私は『バックステージ』という舞台を演出していた。
脚本も出演もするという、まあ、なかなかにハードな公演だったが、出演者に恵まれて、かなり面白い作品になっていた。
東京、シアタークリエ公演の前に、地方公演から始まるというスタイルで、私は、舞台美術、照明確認のため、出演者よりひとあし先に劇場入りしていた。
誰もいない楽屋に、私の名前が貼られた鏡があった。それを我々舞台人は『化粧前』とか『鏡前』と呼ぶ。つまりそこで化粧をし、弁当を食べ、台本を読み、くつろぐ。そんな、劇場で唯一のパーソナルスペースである。(とは言え、むっちゃ狭いけど)
その私の化粧前に置かれていたのが、その手紙。
大学生Cさん
中学の頃に生徒と教師からいじめを受け、高校の時、ついに笑うことが出来なくなり、高校も休む事になりました。カウンセリングに行ったりクスリに頼ったりもしましたが、一向によくならなかったんです。
そんな時、映画『行け! 男子高校演劇部』に出会いました。
夢中で笑い、お腹が痛くなるほどでした。今では大学で、笑って過ごせています。ーーうまく笑えているかはわかりませんがーー
池田さんのおかげです。本当に、ありがとうございました。
(要約しています)
「今後も池田さんのご活躍を祈っております。お体に気をつけてください」と締められるそのお手紙に、私は本当に救われた。
その映画は、今をときめく売れっ子監督、英勉監督がメガホンを取ってくださった劇場オリジナル作品で、私の友人、小笠原裕樹さんが企画し、監督と私そして小笠原さんの三人で、ああでもないこうでもないと話し合って「バカ」の頂きを目指して脚本を書き上げた、まあ、なかなかに変わったコメディ作品なのである。
正直、そこまでヒットはしなかったけど、熱狂的なファンがついた作品で、つまり、ほとんどの人には「ピン」と来なかった作品なのかもしれないけれど、ごく少数の人に「ビビビーン!」と来た作品なのである。
今でもたまに「あの作品、大好きなんです」とボソッと言われたり、敏腕プロデューサーからも「実は私も」なんてコソッと言われたりする。
いや、大きな声で言ってくださいよ! なんでコソッとボソッと言うんですか! と毎回思うのだが、きっと「万人受けするものじゃないからなあ」というご判断からだろう。
いや、ちょっと分かるんですけどね。私の作品、万人受けは、まだしていない。(だからまだ売れてないんだよね)
けどさ、いいじゃん、照明技師のおじいちゃんから「こんな作品があるから日本映画がだめになるんだ!」って言われたけどさ、この女性に笑顔を戻せたんだからさ、それでいいじゃん。最高じゃん。
これからも私はごく少数の方に「ビビビーン!」として貰う為に、作品を作り続けるのだ。それでいいじゃん。
そう思わせてくれた、そのファンレターを、私はそっと箱に戻した。
捨てられないよね、こんな素敵なファンレター。
ちなみに日本映画の未来を左右するほど、見て貰えてないと思うんです、この作品。あなたのジャッジ、お待ちしております! だからお願い! 見て見て見て見て〜っ!
↑ 見よ、この賛否両論を!
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