柏木陽介選手について思うこと

またその才能で、人を笑顔にしてほしい

浦和レッズは2月16日に、規律違反によりトレーニングへの参加を未定としていた柏木陽介選手について、双方合意の上で今後は移籍に向かっていくという方針を明らかにした。これについては、浦和のオフィシャルサイトにフットボール本部長の戸苅淳さんの記者会見による全文が掲載されているし、そもそもこの文章に興味を持ってくれる人は大雑把にこの事態がどのようなものによるのかを知っていると思うので、そこを詳しく説明するのは避けたいと思う。

もともと地元にできたクラブで思い入れもあったし、埼玉スタジアムで多くの試合を行うようになってからはシーズンチケットも持ち続けてきた僕がメディアの仕事として浦和に関わるようになったのは2013年シーズンの途中で、それこそミハイロ・ペトロヴィッチ監督が率いるチームが軌道に乗り始めた時期だった。だから、自然と彼はチームの中心選手であり取材対象になることも多かったけど、だからこそ毎日のように色々な記者が同じようなことを聞く状況も辛かったようで、「試合の2日前に喋るから」みたいな形で定例取材日のようになっていたのを覚えている。

割と早口だけど話す内容に情報量も多いし、繰り返しも少ない。そういう意味では記者泣かせで、テープ起こしをしようとしたら3回くらい同じ部分を行ったり来たりする必要もあった。だけど、特にゲームメークの部分で相手を見ながら駆け引きするところなんかは彼の言葉からサッカーについて多くのことを勉強させてもらったと思っているし、感謝の気持ちもたくさんある。

それに、メディアの前、テレビの画面を通した時なんかには照れ隠しのように付き合いの長い選手のことを悪く言う感じに聞こえたことがあるかもしれないけど、その実は相当な仲間想いで「●●にはこういう良いところがあるんだから」という感じで、批判を受けがちなチームメートについても必ず長所を僕らの前で話すタイプだから、根っこのところの優しさみたいなのにはすごく触れたし、伝わる人には伝わっていると思う。

比較的ものをハッキリと言うタイプだったので、時に軋轢を生んだこともあるし、本人の意図が伝わりにくい出方をしたことでメディアに嫌な思いを募らせているかなと感じたこともあるけど、試合後だとかそういうタイミングで取材拒否をするようなことはなかったし、少々その時間が長くなっても「長すぎやわー」「話しすぎたわー」なんて言いながら、最後まで丁寧に対応する。この感じがすごく彼っぽさだと思っていて、ちょっとネガティブなことを言って細目にストレスを発散してみたり、軽い憎まれ口を叩きつつも可愛がられるというような。だから、キャプテンをやった時に立場上「はー、練習しんど」なんていう言葉も出せなくなったのは相当なストレスだったんだと思う。本人もそれっぽいことを言っていたけど。

僕は島田荘司さんの小説の中で、迷っている女優さんに主人公が「あなたのその才能は、世界中の人に分け与えられるべき才能を少しずつかすめとって集まったものだから、それを使って人を笑顔にするべきだ」っていう趣旨の言葉を掛けている場面と考え方がとても好きで、基本的に人は何らかの自分の得意なことを生かしながら社会の中で役割を果たせばいいと思っているし、それを還元するのがいいと思っている。

だから、柏木選手ともう浦和の選手と主にそのクラブのことを伝える記者という関係で話すことがなくなりそうなのはとても残念なんだけど、ピッチ上で彼が見せる視野の広さだとか、そんなところが見えていたのかというパスセンスに、本当にそこにボールを通してしまう技術、「なんだかんだ言いながらも」ピッチに立てばチームのために最後まで走る姿とか、周囲が自分の回りを動いているように見せてしまうほどの引力みたいなものを、まだまだ発揮してほしいし、それを使って誰かを笑顔にしてほしいと思う。

柏木選手のようにボールを扱えるようになりたかった、パスを出せるようになりたかった、フリーキックを決められるようになりたかったなんて人は、プロになる夢を実現できなかった人たちだけじゃなくて、プロになれた選手の中にもたくさんいる。そんな才能を持ちたくても持てなかった人たちのためにも、自分からその才能を発揮できる舞台を降りるようなことは、二度としないでほしい。

会見の中にもあったように、「別々の道を歩む」っていう結論に達したことは仕方ないし、規律を重んじるのはプロのサッカークラブとしては正しい判断だと思うから、そこを批判する気は全くない。だから、次のクラブを何らかの形で見つけてもらって。

いつかまた、そのプレーを見せてください。



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