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海芝浦から見える紺色の東京湾と入道雲というか積乱雲と気温34度

暑いからエアコンの効いた自宅に引きこもる。
すると、喉や鼻の奥が痛む。
だけど、外に出ると容赦なく30度以上の熱波が自分に襲いかかってくる。
だから、部屋に引きこもる。そして、繰り返す。

どこか罪悪感を感じながら、こんな毎日を送る。
ネットの海を泳いでいると綺麗な画像が目に飛び込んできて、光る板から思わず目を逸らす。しかし、目を逸らせば灰色に染まった自室にいることに気付いてしまう。
そうすれば、罪悪感は増幅する。

どこか非日常感が欲しい。
罪悪感という厚手の布地に包まれた僕に色が欲しい。

どうやら世間では夏とか酷暑と呼ばれる季節にあるらしい。
夏の季語といえば、青春18きっぷであることを思い出す。
じゃあ、長らく行ってみたいなぁと思っていた「海芝浦駅」へ行こうじゃないか。

そこなら、僕の人生に一線の青を引いてくれるはずだから。

鶴見駅へ行って鶴見線にビビる

自分が行きたい海芝浦駅は鶴見線の駅である。
横浜市に位置する駅である。

ただ、それだけなんだ。

海芝浦駅は東芝の子会社・東芝エネルギーシステムズの京浜事業所とほぼ直結という駅で、一般人は改札を出ることはできるが、駅の敷地外に出ることは事実上不可能という場所だ。

場所柄、東京湾の真横に駅があるのでホームから海が見えるという辺鄙な場所感がまた人々の気持ちをくすぐってくすぐって。という罪深い場所である。

ちょいと特殊な駅なため、度々インフルエンサーが取り上げて万という単位でいいねやハートマークを貰っているのを観測できる。

皆が、最高だよ!というから、いつかはそこに行きたいなぁと思っていたのだ。

そして、とうとう行こうと決心したのだ。
あまりにも自分の生活が単調で起伏が無いから。

鶴見駅へ

海芝浦駅へ向かうためには鶴見線に乗車する必要がある。

東京駅から京浜東北線で約30分程度で鶴見線の乗換駅である鶴見駅に到着する。
到着時刻は12時半頃。真夏もあって、34度を記録していた。

鶴見駅は西口・東口とあり、東口のロータリーを挟んで京急線の京急鶴見駅がある。羽田空港からだと京急線が便利だろう。

鶴見駅の東口。ユニクロと成城石井の宣伝ではない。
東口のロータリー。画面の中央には京急鶴見駅がある。

鶴見駅の3・4番線から鶴見線の列車が発車する。
京浜東北線のホーム階段を上がれば、すぐにホームへ直結という構造だ。
原則3番線から列車は発車する。

鶴見線の路線記号は「JI」。Tsurumiの「I」から。というか剣山の数が凄まじいな。

鶴見線は鶴見駅から扇町駅の7.1kmに加えて、大川駅までの大川支線、海芝浦駅までの海芝浦支線で成り立っている。

沿線には工場が立ち並んでいて、朝の時間帯となればそこに通勤する人々でいっぱいとなる。
そのため、鶴見線の平日朝7時と8時には4~8分間隔という過密ダイヤで運行されているのが特徴的だ。

海芝浦駅には青い線を辿っていく。

なら、平日の昼間も10分に1本程度走ってるんでしょ、JR東日本さん?と思っていると、平日の10時から15時の間はラッシュ時間に比べると運行本数は減少してしまう。

10時から15時は、10分、30分、50分の間隔で鶴見駅から発車する。
更に、今回の目的地である海芝浦駅に行く列車は格段に少なく、1時間に1本あれば良いという状態であり、海芝浦駅を秘境駅と呼ばれる要因を作り出している。

今回は12時半頃に鶴見駅に到着した。
12時台には海芝浦駅に向かう列車は無い。次に向かう列車は13時30分発。
折角だから、鶴見線の駅を見て回ろう。時間と余裕はたらふく備えているから。

浜川崎駅へ征こう

12時30分発の列車は浜川崎駅行だった。

浜川崎駅から先にも駅はあるが、平日の10時から16時の間では合計で3本しか走っていない。

列車はワンマン運転。線路の先では蜃気楼が起きていた。

途中の駅で普段から利用していそうな学生や主婦のような人たちが降りていった。
そして、気づけば34度という酷暑の中でもスーツを着こなしている人たちが大半となり、列車は一生懸命にレールの上を走っていた。

レールは工場群の間をすり抜けていく。工場の隙間から見えるのは高速道路の高架。スピードを上げて車は気持ちよく走り抜けていく。工場の天井には煙突が突き刺さっていて、先の長いところから煙が細く天に立ち上がっているものもある。

今回乗車していて、気付いた点は「外国人の乗車人員が多い」ということである。
鶴見駅のホームではかなりの人数が待っていたが、その中でも外国人の人数も多かった。工場での勤務や周辺地域に住居があるのだろうか。YouTubeやSNSでは見つけられなかったポイントだった。

列車は浜川崎駅に到着。そのまま列車は折り返さず、一度車庫に入るという放送が響いた。

浜川崎の先にも行きたかったが、まぁ難しい。
E131系。相模線・宇都宮線・日光線でも使用されている車両。
このまま列車は回送。ワンマンのため、運転手さんが車内を走り回ってチェックしていた。

浜川崎駅は無人駅。浜川崎駅のホームを上がれば、ICカードに対応した簡易改札機が設置されている。
青春18きっぷといったフリーパスを持っている旅客はそのままスルーとなる。
ちなみに、浜川崎駅は1993年ごろまで駅員さんが配置されていたようだ。

画面の奥に簡易改札機がある。
地面からのアングルだと格好良いと思ったが、点字ブロックが主役になってしまった。

浜川崎駅では南武線に乗り換えられる。しかし、当駅発の列車は尻手駅止まりだけで、南武線が乗り入れる川崎や武蔵小杉といった主要駅には直接アクセスすることは出来ない。

浜川崎駅の南武線ホーム
南武線側の時刻表。例外なく行先の全てが尻手行。
画面の奥に「尻手行」の列車がいる。

浜川崎駅のすぐ横には踏切がある。その横を大きな音を立てながら貨物列車が過ぎていく。
近くにはJR貨物の駅があるようだ。

貨物列車のだけでなく、近くには首都高速も走っている。なんやかんや人の少なさとは反比例的に騒がしさがある。

浜川崎駅周辺にはコンビニは無い。
その代わりに南武線側の改札近くには「浜川崎商店」がある。夕方の16時頃から営業される居酒屋のようだ。

Googleマップの評価は4以上と高い。

さあ、浜川崎駅から次は国道駅に行こう。
折り返しの列車が遠くの方で音を立てながらホームに滑り込んできた。

話題になりやすい国道駅に行こう

鶴見駅から鶴見線に乗って最初の駅、国道駅。
この駅もまた海芝浦と肩を並べる程にネット上では話題になりやすい。

レトロチックで且つ荒廃した雰囲気を楽しめるのがマニア心をくすぐるようだ。
ホームに降り立てば、変哲もないただの高架駅に見える。駅横の高層マンションに見下ろされながら階段へ向かう。

意外と乗車していく人がいた。逆に国道駅で降りていく自分を異端的な人だとして見られた。

階段を降りると強い日差しを受け付けない空間が飛び込んでくる。鬱蒼とした森の中のようで、階段を降りるのも憚れそう。
こんな駅が横浜市に存在するんだから不思議な話だ。

階段の幅はそれぞれ異なる。

こんな国道駅ではあるが、ちゃんとJR東日本が指定するピーク時間帯が掲示されていた。
平日の6時55分から8時25分にかけてがピーク時間帯とされ、それ以外の時間帯であれば割引された定期券であるオフピーク定期券が利用できる。

ちなみに、2022年まで券売機が設置されていたらしい。

国道駅の面白いところは、レトロチックな空気で充満する構内であるにも関わらず平日の朝のピーク時間帯となる7時と8時には鶴見方面が11本、扇町・大川・海芝浦方面は7時には12本、8時には11本の電車が発着する。

東京駅の山手線も12本というのだから、この駅というよりも鶴見線の需要が莫大にあり過ぎるというのがわかる。

国道駅構内についてはマニアな方々によって撮影された高画質な画像の方が見やすくて、検索すればゴロゴロと溢れ出てくる。ぜひ、そちらをご覧になってほしい。

ただ、少し印象的だった写真を。

薄暗く、歴史の層というのを肌で感じ取れる国道駅であるが、構内を元気よく飛び交う小さなツバメを見つけた。
そして、電線に止まったのだが、人間が通りかかっても一切逃げようとしない。

最初は模型かと思ったんです

ピタリと止まっているツバメがなんだか印象的だった。
写真には4羽しか写っていないが改札付近ではめちゃくちゃに飛び交っている。結構いるな!?というぐらいに飛び交っているので、興味があったらご覧になってほしい。

歩いて鶴見小野駅へ

国道駅から隣の駅である鶴見小野駅まで歩くことにした。
外は34度という高温多湿状態。道路の先は蜃気楼が発生して、道がうねっていた。どうして、こんな状況下で歩いて移動したのか正直なところ覚えていない。

ただ、そんな辛い状態ではあったが、国道駅を出て、鶴見川の上に架かる橋から入道雲というか積乱雲が見えた。東京湾方面は高い建物がなく開けている。それもあって青空と雲の輪郭がくっきりとしていた。

iPhoneで撮影してLightroomで綺麗にする。現代の技術に感謝。

国道駅から鶴見小野駅まで掛かった時間は約13分程度。距離はおよそ1kmと待っている間に移動するにはもってこいだ。

この駅の特徴として、鶴見方面と海芝浦・浜川崎方面とでは別々の改札となっている。近くにある踏切を渡ってホームに移動する。

2022年まで券売機が設置されていたようだ
昔から使われていた改札の前には簡易改札機が設置されている。ここもまた無人駅

駅周辺は学校と住宅街に囲まれていて物静か。自分の足音だけがホームに響く。それでも隣の駅に行けば巨大な工場群が待っている。
ここからいよいよ海芝浦駅直通の列車に乗り込む。

国鉄時代を彷彿とさせるのりば案内

海芝浦からの東京湾は眩しいだよ

飛び乗った海芝浦行の列車内は体を震わす程に冷房が効いていた。
それなのに、列車は混雑を極めていた。ロングシートを埋めるのは外国人の乗客とスーツを着た人ばかりで、これから秘境駅に向かう雰囲気とは言い難い。

ただ、途中の浅野駅でほとんどの乗客は降車。前から2両目に乗っている乗客は自分とスーツを着て束の間の睡眠の中にいる男性1人という状態となって秘境駅に向かう雰囲気に色がついた。

海芝浦駅の手前にある新芝浦駅に列車が滑り込むと車両の窓が青く塗られたかのように、大きく旭運河を写し出す。

降りる乗客も乗る乗客も無く、静かに列車は新芝浦駅のホームを抜けていく。そして、目的地である海芝浦駅に列車は静かに到着した。

いつもの扉が開くチャイムが鳴れば、東京湾が前に立つ

聞き慣れた扉が開くチャイムと共に東京湾が眼前に広がった。
空は青々しく、遠くには橋が見える。

遠くに見える橋は「鶴見つばさ橋」だそうで、首都高速湾岸線が通っている。
東京方面に行くと羽田空港、有明へ。横浜方面だと度々クルマ好きが集まることで有名な大黒パーキングエリアを通る。

自分が写真を撮っているとスーツを着た人たちは静かに改札へ向かっていく

改札に向かえば壁面に打ち付けられた駅名標が迎えてくれた。

海芝浦の下にある「浜」の文字。横浜市内であることを示している

海芝浦駅での精算

さて、写真右側にある「改札から出なくても精算が必要です」という文字。
ここ海芝浦駅は前述の通り、東芝の子会社・東芝エネルギーシステムズの京浜事業所とほぼ直結ということもあって関係者以外は駅を出ることができない。
そのため、普通の駅で行う改札機にICカードを触れたり、切符を投入するということをせずに戻ってきてしまう乗客がいるようだ。

遡って、鶴見駅でもそのような看板がホーム付近に掲示されている。

改札から出られないけど、運賃は往復かかるよという案内

海芝浦駅には簡易改札機が設置されている。
ICカードの場合は、まず出場側に一度タッチすることで乗車駅から海芝浦駅の精算が完了。
次いで海芝浦駅の入場側にタッチすることで入場の記録が付くという処理を乗客は行う必要がある。

切符でやってきた場合は、乗車駅からの切符を回収箱に入れる。帰りの切符は降車駅で精算するために、乗車証明書を発行機で入手する。
これをしないと、精算を担当する駅員さんが事情を聞く必要があったりと迷惑を掛けることになる。

これらをしないと、処理が正常に行われないし、不正乗車扱いになってしまうので注意が必要だ。

海芝公園

海芝浦駅の改札付近には公園があり、東芝が設置したそうだ。
公園内にはベンチが設置されているので、東京湾を眺めながら発車まで休憩することができる。

公園から見える風景まで案内されている。夕方になれば撮影する人たちで混むこともあるようだ
工場に囲まれた公園はどこか、暑さも相まって虚ろに感じる

儚げな駅

たかが東京湾の端っこにある駅。
夏の酷暑の中から見える青々しく光る空と静かな波を立てる東京湾が気持ちを揺さぶるのだろうか。

鶴見駅に到着して1時間近くも待ったというのに、海芝浦駅では折り返し10分程度で出てしまう。

あれだけ会いたかったのに、もう帰らないといけない。
遠い昔、こんな感情を抱いたような。そんな気がする。
そんな感情をまさか、工場に囲まれながら思うんだから不思議だ。

灰色だった自分の夏、一線の青が中心に引かれて困る。滲み出て消えない。






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