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夢幻星#20

「かんぱーい!!」
真珠の友達である美咲さんの甲高い声が店内に鳴り響いた。真珠から聞いてた通り明るい人だ。悪く言うと少しうるさいのかもしれない。まぁ悪く言う必要はないか。
俺と真珠は美咲さんの声に合わせてグラスをぶつけた。3人ともよほど喉が渇いていたのか、グラスはすぐにカラになった。
「すいませーん。同じやつ3つくださーい」
すぐさま2杯目が運ばれてくる。
「ごめんねー、うちら2人とも女の子らしくない飲み物飲んじゃって」
ビールが注がれたグラスを片手にケタケタと美咲さんが笑っている。
見た目は真反対の2人だけど内面はよく似ている2人。この2人が仲良くなったのも頷ける。
なんだか初対面の感じがしない。
俺は昔から、初対面の女の子の前では自分を取り繕ってしまうクセがあったけど、この美咲って人の前では普段通りの自分を見せられる。
そんな気がした。
次々と運ばれてくる料理を3人で食べながら、他愛のない話で盛り上がった。
注文した料理を一通り食べ終わって一息ついていると、ポケットにしまっているスマホが震えた。
俺はポケットからスマホを取り出し、液晶画面を確認してみると、匠からの着信だった。
「ちょっとごめん。知り合いから電話きたからちょっと席外すね」
そう言って俺は、スマホ画面を耳に当てながら店の外に出た。
外の空気を吸うと、ほんの少し酔いが覚めた。
「もしもし急にどうした?」
「急にどうした?じゃねーよ!今日飯行く約束したのお前だろーが!今どこいんだよ」
スマホから聞こえてくる匠の声に酔いが完全に覚めた。
あ、完全に忘れてた。そういえば今日は随分前から匠と飯に行く予定を入れてたんだった。
「まじごめん。完全に忘れてたわ」
「で、俺との約束をすっぽかして今お前は何やってんの?」
まぁここで嘘をついてもアレだから、正直に言おう。匠のことだから笑って許してくれるだろう。
「彼女と彼女の友達と飯行ってる」
「男友達の俺を置いてお前は女の子とイチャイチャしてんのかぁ〜」
「ごめんって」
「まぁ、彼女と上手くいってんなら別にいいけどさ。どこで飯食ってんの?行っていいか?」
「ダメとは言えんだろ!くるか?」
「奢りな」
「はいよっ」
俺は匠に店名を告げ、電話を切った。女の子2人には匠が来ることは言ってないけれど、まぁ大丈夫だろう。

「ちょっとごめん。知り合いから電話きたからちょっと席外すね」
そう言って麦くんは電話しながら外に出た。
ふぅ〜。結構酔ってきたかも。なんだかんだ美咲も麦くんも仲良くやってるから安心した。
好きな人同士が仲良くしてるのはめっちゃ嬉しい。
「真珠結構飲んだんじゃない?顔赤いよ?」
「大丈夫、大丈夫。今すっごく楽しいから〜」
「酔ってんなこりゃ。あんま飲みすぎないでよ」
そう言って美咲は人数分の水を注文してくれた。
美咲は見た目は派手だしいつも賑やかなので勘違いされやすいけど、こう見えて周りをちゃんと見てるし、気がきく。
「ところで真珠。就職のこととか考えてる?」
美咲の言葉で一気に現実に戻された。うちらももうそんなことを真剣に考えなくちゃいけない時期になってしまった。こうやって遊んでるのも今のうちなのかも。
「うーん、まぁなんとなくだけど、、美咲は?」
何も考えていないわけではないけど、なんとなく考えないようにしていた。いわゆる現実逃避ってやつ。
「うちはこのままアパレル続けるよ。服好きだしねっ!やっぱ好きなこと仕事にしたいじゃん」
なんとも美咲らしい回答だ。側から見ていても美咲にはアパレル業が向いていると思う。
それにしても、好きなことを仕事にかぁ、、私が好きなことって。。
「真珠は動画が好きなんだから、それ関係の仕事とかどうなの?彼氏さんも動画作ってるんでしょ?ピッタリじゃない?」
届いた水を一口飲んだ。
「薄々自分でも気づいてたし、こっそりそういう仕事先調べてたけど、就職するってなると広島離れちゃうんだよね」
考えないようにしてたはずなのになぁ。。
「そうなんだ。そのことって彼氏さんには話したの?」
「ううん。まだそこに就職するって決まったわけじゃないし、話してないよ」
「まぁでもそういうのって早めに話しといたほうがいいんじゃない?」
「そうだよね〜」
すっかり酔いが覚めてしまったので、空になったグラスにお酒を注いでそれをグイッと飲んだ。
「彼氏さんが電話から帰ってきたらそのこと話しちゃおうよ。ちょうどいいタイミングだし!」
「そうだね〜」
さっきのお酒のせいで少し頭がクラッとした。
美咲なら絶対そういうと思った。でも確かに美咲の言う通りタイミング的には今がベストなのかもしれない。いつか話さないといけないと思ってたからいつも背中を押してくれる美咲には感謝だ。
「あ、帰ってきた」
そう言った美咲の視線の先を辿ると、入口のドアを開けて入ってくる麦くんの姿が見えた。ん?誰かと一緒にいる?
店に戻っていた麦くんは見知らぬ男性と話してる。見た感じ年上っぽいけれど知り合いにでも会ったのかな?
麦くんとその見知らぬ男性は話しながら近づいてきて、ついには私たちの席まで来てしまった。
「どうも、麦の知り合いの匠です。真珠さんってどっちかな?」
たくみと名乗るその男性は、なぜだか私を探しているらしい。
「あ、私です」
恐る恐る手を上げてみた。誰なんだろうこの人。
「初めまして真珠さん。麦からいつも話聞いてるから一回会ってみたかったんですよ」
「あ、麦くんの知り合いなんですね」
なんだろうこのぐいぐいくる感じ、誰かさんに似ているような気がする。そっと横目で美咲を見てみた。
「ごめんごめん。本当は今日匠と飯の約束してたんだけど俺がすっかり忘れてて、、」
麦くんが申し訳なさそうに言いながら席に座った。
「彼氏さんサイテー」
そう言って美咲が笑うと
「ほんと最低だよねー」
と、たくみさんがその発言に乗っかる。あぁやっぱりだこの2人似てる。
「まぁ確かに最低だな俺。でもまぁ結果的に今日集まれてよかったんじゃない?」
「まぁね、出会いに感謝だな。かんぱーい!!」
匠さんの掛け声で今日2度目の乾杯をした。

今夜が4人が初めて揃った記念すべき夜だ。

#夢幻星21に続く







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