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夢幻星#21

「もうこんな時間!急がなきゃ」
盛り上がっている会話のせいですっかりと時間を確認するのを忘れていた。
美咲の終電が近づいてきたので私たちは店を出て駅へと急いだ。
「じゃあまたね」
そう言って手を振り、終電で溢れかえっている人混みの中へと美咲は消えていった。
「さて、どうする麦?2軒目いく?」
後からきた匠さんはまだ飲み足りないらしい。
「いや、今日はやめとくよ。帰ったら動画作らなくちゃいけないし」
「そうか。じゃあ今日はここで解散だな。また4人で飯でも行こう」
「おう。またな」
そう言って麦くんは私たちとは逆方向へと歩き始めた。どうやらこの状況から察するに、匠さんと私は家の方向が同じなようだ。
「じゃあ俺たちも帰りますか」
「そうですね」
そうして私たちは夜の街を歩いた。
終電が過ぎた街中は妙な静けさで包まれていて、まるで私たちの足音だけがこの街に存在しているようだ。
「でも麦のやつも冷たいよな〜。彼女さんを置いて動画作るためにさっさと家に帰るなんて」
足音しかなかった世界の中に匠さんの声が混じった。
「麦くんも多分必死なんだと思いますよ」
「ん?と言うと?」
さっきまでちょっと冗談まじりな話し方だった匠さんが、急に真剣な声になった。
「昔麦くんと約束したんです。自分の夢を追いかけるの諦めないって」
「なるほど、そんな約束してたのか」
「だから今必死なんだと思うんです」
私は麦くんと付き合った日の夜、流れ星に願った願い事を思い出していた。
「真珠ちゃんは麦の夢を応援する?」
「もちろんです」
「そのために2人の時間を犠牲にできる?」
さっきまで前だけを見て歩いていた匠さんが急に立ち止まって私の目を見て聞いてきた。
「どういうことですか?」
私がそう聞くと、匠さんは麦くんの過去を話し始めた。麦くんからは詳しくは聞いたことがなかった過去だ。
夢を追いかけ過ぎたあまりに彼女との時間を蔑ろにして別れた過去。
夢を追いかけて2人の時間を大切にしてなかったから、信用していた彼女に浮気された過去。
「麦のやつ、一つのことに集中すると周りが見えなくなるタイプだからさ。それでも麦の夢を応援する?」
匠さんからの問いかけに私の答えは最初から決まっていた。過去の話を聞いたところでその答えが変わることはない。
「麦くんの映像作品の1番のファンは私です。いつまでも応援します」

私は匠さんの目をまっすぐに見て答えた。
「そっか、なら安心」
匠さんは笑顔でそう言うと、また前を向いて歩き始めた。
「麦のやつ真珠ちゃんと出会ってから、なんか夢を追いかけることに迷いがなくなったんだよね」
隣から聞こえてくる匠さんの声は、4人でいる時の声に戻っていた。
「その理由が今日真珠ちゃんと会ってわかったわ。あいつの彼女って苦労しそうだけど真珠ちゃんなら大丈夫かも」
私はその言葉を聞いてとても嬉しかった。
「俺だったらぜってぇ麦の彼女なんて嫌だもん」
そう言って匠さんは1人で笑っている。彼女を目の前にして言うかそういうこと。って思ったけれどこういうタイプは美咲で慣れている。
それはそうと、今日麦くんに言うはずだった就職の話をすることができなかった。でもなんだかさっきの匠さんの話を聞いていたら、そんな心配することのほどでもないのかもしれない。きっと遠距離になっても私たちは変わらない。そう思った。


家に帰る途中コンビニに寄って水を一本買い、それを飲みながら帰宅した。
帰宅したら服を脱ぎ、とりあえずシャワーを浴びて目を覚ます。
真珠と一緒に買ったバングルは、つけたままお風呂とかに入っても大丈夫とのことなので外さないことにした。
普段はアクセサリーとかつけないタイプだけど、このバングルは着けていても違和感がない。おまけに少しスマートでかっこいい。
お風呂から上がり、一杯飲みたいところだったけどここで飲んだら眠ってしまう。
パソコンの前に座り、昨日作っていた動画の続きを作り始めた。
こうやって自分がやりたいこと、夢に向かって夢中に頑張れているのっていつぶりだろうか?
一度は夢を追いかけることが怖くなっていたけど、真珠と出会ってからその恐怖心も無くなってきた。
全くないといえば嘘だけど、ここで夢を諦めたらそれこそ真珠を手放してしまう気がする。というより、真珠の方から離れていきそうな気がする。
風呂に入ってシャワー浴びたら酔いもすっかり覚めた。よし!俺の映像作品を1人でも多くの人が見てくれるように頑張らねば。
俺はスマホの通知を切って動画作りに夢中になった。
頭の中に思い浮かんでいることを、パソコンの中で実際に映像として映し出していく。
あーここはこうじゃないな。もっとこういう表現ができないのか。ちょっとやり方を調べてみよう。なるほどこうやればいいのか。じゃああそこの場面もこの方法を使えば…

何時間経過しただろうか?
窓の外はすっかりと明るくなっている。
あー疲れた。ずっと同じ体制で作業してたから腰が痛い。
俺は大きく伸びをし、時計を確認しようとスマホを手にとった。
時刻は朝の8時。ぶっ続けで7時間作業したことになる。
流石に疲れたな。おまけにすごく眠い。
ちょっと休憩。
スマホの通知をオンにしたら、真珠から何通かラインが来ていた。
「無事に家着いた〜?」
「4人でご飯楽しかったねっ」
「動画作り順調?」
「もう眠いから寝るね。おやすみ。夢に向かって頑張って」
眠たい目を擦りながらラインに返信をする。
「ありがと。朝まで動画作ってた。今から寝るね」
そのまま俺は気絶するように眠りについた。

#22に続く








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