見出し画像

【漫画小説】生き方を見つけるために自殺しました(前編)

自分の存在価値って何だろう


【1】

おれの名前は佐藤太郎、中学1年。
今、切り立った崖から
海を見下ろしながら
自分の存在価値を考えている。

地味な名前に地味な顔。
勿論性格も地味。
生まれつきの三白眼で
目つきが悪いと絡まれ、
学校ではいじめのターゲット。

勉強も運動も大してできないけど
オヤジは有名大卒のエリートだから
俺の成績が悪いことが許せない。
試験のたびに長々と説教されている。

学校にも、家にも。
気の休まる場所なんてない。

彼女でもいれば楽しい生活を
送れるんじゃないかと思ってさ。
好きな女の子に
思い切って告白もした。

でも
「あなたに告白されたなんて
恥ずかしいから誰にも言わないで」
だって。

わざわざそんな言い方しないでさ、
フツーに断れば良くない?

こんな俺が生きてる意味って何なんだろ。
出来る事もない、
出来ない事は否定される。
好意を伝えても拒まれる。

自分が生きてる価値なんて、
正直無いと思ってる。
だからここに来た。

崖から見える海の波は荒れ狂っていた。
覗き込んだら正直怖くなったけど
この先の人生を生きるよりは怖くない。

「さよなら。世界」

最後だと思って思わず
そんな言葉をつぶやいた。

そして、崖の上から自分の身体を
海に向けて放り出したんだ。

【2】


そのまま人生終わるはずだった。
でも、気が付いたらどこかの浜に
自分が流れ着いている事に気が付いた。

「…生きてる…」

意を決してあんな高いところから
飛び降りたのに何で死んでないんだ。
ちゃっかり生き延びてしまった。

最後だと思って
「さよなら。世界」とか
呟いた事が強烈に恥ずかしい。
何やってんだよおれ。

身体のあちこちは痛いけど、
奇跡的に殆どケガもしていない。
いいことのない人生だったから
とっておきの幸運がこんなところで
使われたのかもしれない。

人生終わらせることを望んでも
死ぬすら出来ないなんて、結局
俺にとっては幸運でもなんでもない。

島の周りをぐるりと歩いてみる。
そんなに大きな島じゃないみたいで
あっという間に一周した。

人の気配はない。
人工物も見当たらない。

「無人島…かぁ」

【3】


別に生きる事に執着はない。
このままここで野垂れ死んでも
それはそれだと思った。

でも、ふと思ったんだ。
おれが”生きていたくない”って
思った理由。

学校に行けばいじめられ
家に帰れば罵倒される。
スキだと伝えても拒まれる。

自分を受け入れてくれる場所なんて
無いと思った。
日々、否定されることしかないし
誰にも受け入れてもらえないから
生きている必要も無いと思った。

でもここは無人島だ。
学校も家もない。
拒む相手もいない。

おれを受け入れる世界も
ないかもしれないけど
おれを拒む世界もない。

おれが欲しかったものも
無いかもしれないけど
そもそも欲しがる必要がない。

だってここにいるのは
おれ一人。

そう思っていたら何だか急に
生きたい気がしてきたんだ。

不思議なものだ。
死にたいと思って
海に飛び込んだのに
今、多分今までで一番
「生きよう」って思ってる。

やってやるよ、無人島生活。
誰にも必要とされずに
生きてやろうじゃん。



生きるために必要なもの


【4】

生きるために水や食べ物も必須だが
まずは火を起こそう。
夜になったらきっと真っ暗になるし
暗くなってから慌てて
火を起こすんじゃ遅い。

小学校のとき、生活科の授業で
「火起こし体験」なんてのを
やった事を思い出す。

乾いた木の板と棒、そしてわら。
それがあれば火が起こせる。

木の棒を板の上で
ぐりぐりすることで
火が起きるのが面白くて
おれには珍しく
楽しい授業だったから
やり方もしっかり覚えていた。

火が点いて炎が燃え上がったとき
スゴイ達成感を感じた。
何だかんだ、1時間ぐらいは
かかったかもしれない。
時計がないからわかんないけど。

「やれば出来るじゃん、おれ」
たき火の前でおれはつぶやく。

やれば出来る、かぁ。

おれには何もないって全部諦めて
生きる事を辞めようとしたけど…
やってみようと思った事って
どれぐらいあったんだろうな。

【5】


火が無事起こせたところで
次に考えたのは
食べ物のことだった。

水と食べ物を探さないと。
でも、改めて探そうと思うと
食べ物がどこにどういう状態で
存在しているのか知らない。

肉も魚も切り身で売ってるし
野菜もスーパーの野菜売り場に
あるってことしか知らない。

肉はどうやってあの肉になるのか
魚もどうやって切り身になるのか
野菜はどこにどうなってるのか

おれは何一つ知らない。

あ、でも小さい頃に
芋ほり体験はやった。
ジャガイモが土の中に
あるのは知ってる。

でもどんな葉っぱだったかも
どんな花だったかも
覚えていない。

どの葉っぱを引っこ抜けば
イモが出てくるかなんて
おれにはわからない。

大好きなゲームで
無人島生活を
するものがあった。

木をゆすったら
ゲームではリンゴが
ぽろぽろ落ちて来る。
主人公はその実を
美味しそうに食べるんだ。

たまにハチの巣とか
お金が落ちて来る木もあったな。

よし、と、とりあえず手近な木を
揺すってみた。
けど、そもそもそんな簡単に
木って揺らせないもんだことも
この時初めて知った。

そして気合入れて揺すっても
全然リンゴなんて落ちてこない。

…おいおい、食べ物って
どうやって手に入れるんだよ?

つりざおを売ってくれるタヌキも
この島にはいないだろ?

【6】


肉のイメージはよくわからない。
でも、豚の丸焼きとかあるぐらいだし
ケモノを掴まえてそのまま火で炙れば
きっと食べられるんじゃないのかな。

そんなことをぼんやり考えていたら
目の前に変なウサギみたいなやつが
出てきた。

「もげ、もげ」と不思議な声で
鳴きながら近寄って来る。

ウサギの肉は美味しいらしいと
何かで読んだ事がある。

ウサギを「一羽、二羽」と
数える理由は
鶏肉しか食べてはいけない僧が
「これは鳥です」って
嘘をつくため…
なんて話を聞いたことがある。
鶏肉みたいな味なんだろきっと。

全然警戒心もない様子で
のそのそ出てきたそのウサギを
おれは素手でガッシと掴んだ。

そいつは逃げようとする様子もなく
アッサリと掴まえる事が出来た。
何てのんびりしたやつだ。

「こいつをこの火で焼けばいいんだな」

おれがそう言ってウサギを見ると
ウサギはぶるぶる震えながら
こっちを見ていた。


…殺すなんて、出来る訳ねーじゃん…


おれはそいつから手を離した。
肉を食べるって…
誰かを殺してるってことなんだ。

肉売り場でそんな事、
考えた事無かったよ。

「もう!お前あっち行けよ!
食わないから!」

何も食べ物を手に入れられそうにない。
おれは八つ当たりのように
思わずウサギに怒鳴ってしまった。

ウサギは慌てて草むらに逃げて行った。
どうすんだよ。
やっぱり何も食うものがない。

結局何も食えずに飢えて死ぬのかな。
せっかく…生きたいって思ったのになぁ。

【7】


その辺の草をかじってみた。
苦くて食べられなかった。

キノコも見つけたけど
怖くて食べられなかった。

おれは火の前に座り込んで
ただぼんやりと明るい火を見ていた。

「…なんだ。結局死ぬんだ」

中途半端に生かしやがって。
なんで飛び降りたときに
死なせてくれなかったんだよ。

涙がにじんできた。
飢えて死ぬって辛そうだなぁ。

ガサガサと裏の茂みから物音がした。

…また、あのウサギだ。
何でまた出てきたんだろう?

ウサギは、もげもげ言いながら
おれの前にそっと
リンゴをひとつ、置いた。


一瞬、何が起こったのかわからなかった。
ウサギが、おれに、リンゴを持ってきた。

食べ物だ。

でも、なんで?

滲んでいただけの涙が
思わずボロボロこぼれた。

あまりに嬉しくて、思わず
そのウサギをまたつかまえた。

今度は食べるためじゃないよ。
抱きしめるためだ。

「なぁ。おまえのこと
今度からモゲマルって呼んでいい?」

リンゴを食べながら
おれはウサギに話しかけた。

ウサギはただ

「もげ?」と首をかしげた。

おれはこの島で
ひとりぼっちじゃ、なくなった。


モゲマルと過ごす100日


【8】


島に着いた日から毎日つけた目印が
ついに100個めになった。

「今日で100日かぁ」

モゲマルはこの島に沢山住んでいた。

他の動物…虫とかトカゲはいたけど
哺乳類はあまり見かけない。

多分天敵がいないから
こいつはこんなに
のんびりしているんだろう。

最初の一匹と仲良くなったら
モゲマルは次々と現れて
いつもリンゴを持ってきてくれた。
きれいな水のあるところも
教えてくれた。

何とかそれで生きることができた。
そこらの木の枝や葉っぱを組み合わせて
雨をしのぐ家のようなものも作ってみる。

そしたらその中にモゲマルが住み着いて
なんと、子どもを産んでしまった。

子どもを産んだとこに
同居するのも何なので
そのたびに新しい家を作った。

でも、作るたびにそこはモゲマルの巣に
なってしまうのだった。

住み着いたモゲマルが
何だか嬉しそうにしている気がして
案外まんざらでもなかった。

ちょっと寒さを感じたときには
モゲマルをぎゅっと抱きしめているだけで
十分暖かかった。

100日ここで過ごしたけど…
モゲマルがいてくれるから
案外楽しくやれている。

【9】

ただ、100日過ごす中で
ふとよぎる記憶がおれにはあった。

*

国語の授業の中で書いた童話を
学校側で、学生創作物語の公募に
応募したらしい。

それで、おれの童話が
入選したんだって。

その話を先生が言ったとき
クラスがどっと沸いた。

沸いたその空気は
「すごーい」っていう
賛美の空気じゃなかった。

「佐藤の作品が入選?」

「現実世界じゃ
上手くいかないから
妄想世界が立派なんだろ」

笑い声と一緒に
ひそひそそんな声が聴こえた。

わかってるよ、おれなんて
所詮そんな存在だ。

本当にそうだ。
現実がうまくいかないから
妄想の世界が立派なんだ。

恥ずかしくてその場から
逃げたくなったそのとき

先生がよく通る声で
ひそひそ話を遮った。

「先生は、佐藤が作った物語
凄く好きだったよ」

「おめでとう」

その言葉を聞いたとき
自分の中に、今まで感じた事がない
何とも言えない感情が沸いたんだ。

*

だから何ってわけじゃない。
ただ、そのときのことが

この無人島で100日過ごす間に

何度も何度も
思い出されたんだ。

『忘れちゃいけないよ』って
自分の中から
話しかけられてるみたいに。


【10】


おれは、100日自分の力で生きた。
いや、モゲマルがリンゴを持ってきて
くれなかったら死んでたと思うけど

でも、何だかんだ必死で
自力で生きたと思う。

ここはモゲマルと同じで
おれにとっても
”天敵のいない世界”

とても平和だったけど
何かが足りない気がする。

そして何度も思い出す
あの場面が
今、足りないもののような
そんな気がしていた。

「なぁ。モゲマル」

「もげ?」

「おれ、帰り方を
考えてみようと思う」

「もげ」

「1人で100日生きられたから
戻ってもきっと大丈夫だよ」

「…もげ」

何を言っても「もげ」しか
返してこないモゲマルに
おれはいつも話しかけていた。

言葉が通じなくても
モゲマルはちゃんと
気持ちを受け取ってくれる
気がしていたんだ。

…さぁ、どうやって
天敵のいる世界に帰ろうか。


人間が島にやってきた

【11】


帰り方を考えようと思った翌朝。
おれはほっぺを強烈につねられて
目を覚ました。

ハッと気が付いたら
目の前に険しい顔をした女の人と
小学生ぐらいの女の子が
立っていた。

「あなたは誰?どこから来たの?
何が目的なの?いつまでここに
いるつもりなの?」

寝起きで何が何だかわからずに
茫然としているおれに
その女の人は怒涛の勢いで
話しかけてきた。

おれはとにかく
今何が起こっているのか
全然わからなくて
しばらく何も言葉に出来なかった。

【12】


「…自殺しようと海に飛び込んだら
偶然ここに流れ着いたって?」

ちょっと呆れたように
女の人は言う。


「私たちは浜辺から
煙が上がっていたから
様子を見にきたのよ」

「島の様子、見たわ」

女の人は険しい顔のまま
淡々と話し始めた。

おれが作った「家」に
モゲマルが住み着いているところと

おれの近くに山ほど積んである
リンゴとその芯の数の話をされた。

「この状況を見る限り、あなたは
この子たちの敵ではないようね」

リンゴと葉っぱの家で、
何がわかるんだろう。

口を挟みたかったが
最初の勢いがちょっと怖かったので
まずは黙って話を聞く事にした。

【13】


「あなたが「モゲマル」と
呼んでいるこの子たちは

『ネコウサギ』っていう
ウサギの仲間なの。

ここに山ほどあるリンゴと
寝ているあなたにくっついている
この子たちを見たら…
あなたはこの子たちに
「認められた」
ってことがわかるのよ」

…認められた?
一体どういう事だろう。

「ネコウサギ最大の特徴は
個体によって出来る事が
大きく違う事にある。

ネコのように
木登りが得意な子もいれば
ウサギのように
穴掘りが得意な子もいる。

あとは、木登りも穴掘りも
全然出来ない代わりに
沢山子どもを産める子とか。

出来ることは、色々よ。

そして、このネコウサギは
お互いで出来る事を
出来ない仲間に与える習性を
持っているの。

木登りが得意な子は
木の上の木の実を取って来れる。
でも巣を自分で作る事は出来ない。

だから穴を掘れる子が
穴を掘って巣を作り
木登りが得意な子に巣を渡す。

穴を掘れる子は
木の実を取ってこれないから

巣をもらった子が
穴掘りが得意な子に木の実を渡す。

…ここまで話したら
今のあなたの状況が
何となくわかった?」

モゲマルの習性


【14】


おれが家を作ったとき
モゲマルがその中に入ってきて
子どもを産んじゃったから
おれはそこに住む事を
諦めて新しい家を作った。

それが、モゲマルにとって
「巣を作ってもらえた」
って思われた…ってことだろうか。


「ケモノは基本火を怖がるなんて
いうけれど、この子たちは火を
怖がらない。

むしろ暗闇がすごく苦手で
夜は活動せず小さくなっているの。

最初に火を起こして
夜の闇を照らした時点で…

仮に家を作らなかったとしても
あなたはきっと島の神様みたいな
存在だったでしょうね」

モゲマルは、おれにたくさんの
リンゴを持って来た。

まるでそこに地蔵があるみたいに、
お供え物みたいに。
山ほどおれの前にリンゴが並んだ。

食べきれずに残していたとしても
モゲマルは毎日リンゴを持って来た。

きっとお礼をする手段が
そいつにはリンゴしかなかったんだ。

でも、リンゴを取れないやつは…?

「あなたが寝ているところに
ネコウサギが集まっていた。

くっついていた子たちは多分
木の実を取れない子。

せめて自分たちが一緒に眠って
寒さから守ってあげようって
そう思ったんじゃない?

あなたはすごく寝苦しそうだったけど
ネコウサギにとってみれば
自分からあなたに出来る事が
それしか無くて必死だったんだと思う。

神様みたいな存在に出来る事が
見つからなかったから」


【15】


「月にどうしてウサギがいるって
なっているか、知ってる?

インドの神話に出て来るお話。

神様が老人の姿になって
”食べ物がないから
何か探してきてくれ”と
動物たちに話しかけるの。

食べ物を探すのが上手な子は
次々と老人に
食べ物を運ぶのだけど
ウサギだけは食べ物を
見つけられなかった。

だからウサギは自ら
たき火の中に身を投げて
「私を食べて下さい」と
言ったのよ。

神様はそのウサギの想いを
みんなに見せたくて
ウサギを月に登らせた。

…そんなお話。

火を怖がることなく
自己犠牲でも他者を
救おうとする習性。

このお話に出てくるウサギって
ネコウサギだったんじゃないか…
私はそう思ってる。

あなたがもし、お肉を食べたいと
望むことがあったら…

この子たちは焚火に
自分から飛び込んだかも」

女の人がちょっと真剣な顔で
おれを見た。

ちょっと、ぞっとした。

肉を望まなくて本当に良かった。
目の前で火の中に飛び込まれたら
トラウマものだったよ。


前編・終了


こちらの小説はもともと漫画で描いていたものを、漫画だと作成時間がかかりすぎるという理由で小説化しラストまで進めようとしているものです。


(漫画で1か月ぐらいかかってた話が、3時間ぐらいで小説になっちゃったよ…!)

漫画原稿があるのはここまで。
後編は漫画原稿挿入なし文章のみのものとなります。
本当はラストシーンの絵を描きたかったけど…
年末進行余裕が無いので文のみです!!

後編はこちらになります。
生き方を見つけた太郎君のお話。
最後まで読んで感想頂けると嬉しいです。


サポートいただけたらそれも創作に活かしていきますので、活動の応援としてぽちりとお気軽にサポート頂けたら嬉しいです。