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私立学校法の一部を改正する法律案についての調査(政治家女子48党浜田聡参議院議員のお手伝い)

文部科学省から今国会に提出された私立学校法の一部を改正する法律案について、調べた限りから所感を述べていきたいと思います。
 
今回の改正案の目的は法律案概要にもあるように私立学校のガバナンス強化を目的としたものになります。今回の改正案に至る経緯等も含めて私立学校への期待と課題について考察していきます。

①私立学校のガバナンス強化とは??

 今回の法改正に至った経緯は私立学校の相次ぐ不祥事が背景にあります。学校名は伏せますが、某有名私立大学では不祥事が連続し、学校法人改革に期待されていた理事長が資金流用疑惑で辞任という出来事は記憶に新しいと思います。また、関西の学校法人では校舎移設をめぐる横領事件により、逮捕者がでる事態に至りました。このような背景から、今回の法改正の趣旨には次のようにあります。
 
“幅広い関係者の意見の反映、逸脱した業務執行の防止を図るため、理事、監事、評議員及び会計 監査人の資格、選任及び解任の手続等並びに理事会及び評議員会の職務及び運営等の学校法人 の管理運営制度に関する規定や、理事等の特別背任罪等の罰則について定める。”
 
とあるように私立学校の不正防止を主眼としたガバナンス強化を目的とした法改正案の提出に至ったものになります。特に日本の大学組織は厳しい世論もあります。私立学校は学校法人ということで様々な税制優遇や助成金補助を受けており、我々国民の税金が使われています。公立ではないにせよ、現在の助成制度や法人優遇制度の状況を踏まえると、監視の目が向くのは当然であります。例えばこのような記事が出るほど私立学校の不祥事は世間の注目の的になっていることは特筆すべきでしょう。

また文科省はこの法改正にはかなり注力している様子がうかがえます。

この内容から「規制をかけないと不祥事はなくならない。絶対必要だ」という意思が伝わってきます。

②これまでに行われてきたガバナンス改革

 これまでも私立学校のガバナンス強化についてはこれまでも対策がなされてきました。平成31年1月の学校法人制度改善検討小委員会では「学校法人制度の改善方法について」で今回同様様々な方策を発表しましたが、打開策とは至っていません。


文部科学省 HPより

今回の法改正では理事会と評議員会の役割について明文化されている点が着目点かと思います。趣旨に則った制度確立のために“理事・理事会、監事及び評議員・評議 員会の権限分配を整理し、私立学校の特性に応じた形で「建設的な協働と相互けん制」を確立”するためのガバナンス改革になります。
これまでも文科省は学校法人改革特別委員会を設置し、私立学校のガバナンス強化に向けて議論を重ねてきています。

今回の法改正の骨子になっているものになります。
詳細はかなり細かいので要点だけまとめると以下の通りになります。
(1)理事会のガバナンス強化
• 理事会による理事長の選定・解職を法定。
• 重要事項の決定につき、個別の理事への委任を禁止。
• 理事に対し理事会への職務報告を義務付けるとともに、理事会の構成や活動状況等の情報について、事業報告書における情報開示を促進。
• 大臣所轄学校法人においては、外部理事の数を現行の最低1人から引き上げ。
 
(2) 評議員会のチェック機能によるガバナンス強化
• 理事の選任については、評議員会その他の機関を選任機関として寄附行為上で明確化。評議員会以外の機関による選任の場合は、評議員会からの意見聴取を義務付け。
• 理事の客観的な解任事由(法令違反、職務義務違反、心身の故障等)を法定。
• 評議員会に、理事選任機関が機能しない場合の解任請求、監事が機能しない場合の差止請求・責任追及の請求等を認める。大臣所轄学校法人の評議員会の招集要件を緩和。
• 校長理事制度は、解任事由がある場合に理事としての解任がなされることを前提に維持。
• 理事の任期は4年を上限とし(再任は可)、監事・評議員の任期を超えない範囲で寄附行為で定める。
• 監事の不正報告、所轄庁の解任勧告の対象に評議員を含める。
 
要するに評議員会の地位向上により理事会の専横を防ぎ、ガバナンスを強化するという事になります。これまでは評議員会は「理事会の諮問機関」という位置づけであったため、理事会は評議員会を押し切って議案承認が可能でした。今回の法改正では「理事会の承認している内容であっても、評議員会の承認がなければ議案の執行はできない」ものになります。
 
また、監査体制の強化についても具体的な提議がなされているのでこちらも要点のみ紹介します。

(3) 監査体制の充実
・ 監事の地位の独立性と職務の公正性の確保
• 監事は評議員会が選任するとともに、役員近親者の監事就任を禁止。
• 理事と同様、監事の客観的な解任事由を法定。
• 監事の任期は理事の任期と同等以上となるよう寄附行為で定める。
• 大規模大臣所轄学校法人については、監事の一部を常勤化することとする。
• 評議員会と協働し、的確な判断をするため、監事が評議員会に出席し、意見を述べる責務を明確化。
 
この点を見ても評議員会による監視を権限拡大がみることができます。
 
(4)重層的な監査体制の構築
・ 監事の地位の独立性と職務の公正性の確保
• 監事は評議員会が選任するとともに、役員近親者の監事就任を禁止。
• 理事と同様、監事の客観的な解任事由を法定。
• 監事の任期は理事の任期と同等以上となるよう寄附行為で定める。
• 大規模大臣所轄学校法人については、監事の一部を常勤化することとする。
• 評議員会と協働し、的確な判断をするため、監事が評議員会に出席し、意見を述べる責務を明確化。
 
その他にも目的外の投機取引や贈収賄は刑事罰が設けられることになっています。
 
正直な感想として、ここまで規制を強化してガバナンスが強化されるかは個人的には疑問に残るところですが、少なくとも理事会と評議員会の地位は対等になるので組織としての監査体制は形として構築されたという認識でも構わないと思います。しかし、裏を返せば理事会と評議員会のパワーバランスを整えただけにすぎないので、このパワーバランスを維持できる人事が重要になるのはどの組織も同様だと思います。

文部科学省 HP 私立学校の状況について 参考資料より

③ガバナンス強化の行方は果たして

私立学校の経営は基本的には公立学校とは異なり、生徒の学費納入金が大部分を占めていますが、実態は補助金による収入が多いのが現実です。特に私立高校は就学支援金による間接的な税金が入ってきます。また、私学助成金がある上、法人扱いなので法人税や固定資産税は非課税となっています。

文部科学省 HP 私立学校の状況について 参考資料より

相当な税的優遇を受けている中で、経営が成り立たない学校が地方には多く存在しており、経営難は不祥事の原因の一つになりえることは、今回の法改正に本腰を入れる初端となった事件からも明らかです。た文科省の令和2年度のデータを用い調べでは地方の中小私立大学の約4割が赤字傾向にあり、中小私立短大の役7割が赤字傾向にあります。このような状況の中でガバナンスの強化がされる事について影響を考えるべきかと思います。
 今回の法改正でどの程度学校に影響があるかといえば、組織の改編等の動きはあるかと思いますが、不祥事の撲滅がなされるかは疑問に感じます。理事会と評議員会の相互的なガバナンス強化が今回の法改正による構築内容になるので、そうなると学校自体が不祥事を隠すことも場合によっては可能になります。学校法人全体として、どのようなパワーバランスかによって情報の秘匿度合や漏洩度合も変わるのではと思うところがあります。

④補助金漬けで苦しい私立学校のガバナンス強化で起きる事?

 筆者は私立学校に勤務する個人であるため、この法改正は良い方向に向かうのか悪い方向に向かうのかは予測がつかないというのが所感ですが、文科省のいうように「規制しないと不祥事は撲滅できない」は大げさだと思います。どんな規制があろうとも不祥事は法の穴から発生するものです。また法は万能ではないという前提を忘れてはいけません。このような観点から見れば規制することで不祥事は決して撲滅できないでしょう。管理運営不適切等により私立大学とう経常費補助金が減額・不交付になった文科相所管の学校法人は平成15年度から統計しても0校だった年は2年しかありません。
果たして今回の法改正で私立学校が変わるようには感じないため、むしろ寄附制度の規制緩和における活性化について議論が弾むことを期待します。(寄附行為については改正案とは別件になるため省略させていただきます。記事だけは張っておきます。)

ご拝読ありがとうございました。

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