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「サードアイ・オープニング」第1話(#創作大賞2024 #ファンタジー小説部門) 

《あらすじ》
 仲間思いの喧嘩っ早い青年が路地裏で歯のない老人と出会う。そこから、青年の本質を捉える目、サードアイが覚醒した。
 ひょんなことから青年がたどり着いた星では、地球の次元上昇計画に則って、世界大戦中の下界を救うべく特殊部隊が暗躍していた。その部隊長からリーダーとしての資質を見込まれ、青年は心身ともに鍛えられて異才を放っていく。
 過去のトラウマや葛藤を抱えた登場人物たちが、青年の言動に刺激を受けて変容し、前進していく様を通して、人間の本質である「関わり合う愛」の形を描く、近未来SFファンタジー小説。             
 
 第一話:敵の声を聞け

 この世界は太古より今に至るまで、多くの国がそれぞれの利権から、手を組んだり争ったりを繰り返してきておる。人間、二人出会えば上だ下だと争い、三人よれば仲間外れがおこる。人は自身のエゴによって突き動かされちょるんで、どうしたって、ぶつかりあうんじゃて。       
 ここから少し離れたところに、そんな人間の理を静観している星があっての。その星の住人たちは、ここ、三次元世界をちょくちょく偵察にきておる。わしも昔はその一人じゃったが、訳あって、この世界にとどまることになったんじゃ。
 今、わしが目をつけちょる男がおっての。おそらくそいつは、共にこの世界を救う人物となるじゃろう。まずは、その男の物語から、はじめようか。

       *          *         *                            

 俺の額はいびつだ。眉毛から上に向かって丘のように盛り上がっている。何かでぶつけたとか、変な病気だとかではなく、生まれながらに歪だったそうだ。赤ん坊の俺の頭はそりゃあ重かったんだと母ちゃんがよく言っていた。だからなのか、子供の頃に、あまり抱きあげられた記憶がない。
 学校ではクラスの奴らにデコ、デコといじられてきた。ある日、頭にきて頭突きを喰らわせてやったらイチコロで、やつら、泣いて謝っていた。
「オレをあなどる奴は容赦しねぇぞ」
 それ以来、からかってくる奴はいなくなった。
 多くの仲間が慕ってくれて、後輩たちも何かあれば頼ってきた。時には、かなり厄介なこともあったが、こいつらを守れるんだったらと、多少の犠牲は厭わずに立ち向かった。
「オレの仲間をバカにする奴は、ぜってぇ許さねぇ」
 頭突けば頭突くほど、額の歪さが増していく。

 ある日、路地裏で血を流しながら頭を抱えていると、白いひらひらとした服と、いかつい杖が目に入った。ゆっくりとこっちに向かってくる。そいつは俺の前で立ち止まった。
「そろそろ、その額の意味に気づく頃合いじゃのう」
 見上げると、やせこけた老人が立っていた。
「はぁ?なんだ、じじい」
 老人は、にやつきながら俺の額を見ていた。白い髭の口元には歯がほとんど無い。もごもごと言葉を発する。
「敵の声を、素直に聴くんじゃな」
そう言うと、おもむろに俺の額に何かを貼り付けた。
「何しやがる」と言って、俺は立ち上がりかけたが、気力も体力も失せていて力が入らず、意識もぼんやりとしてきた。

 それから俺は家に帰って寝た。バカみたいに何時間も泥のように眠った。起き上がってすぐ用を足した。体中の水分が全部もっていかれたかのような長い小便だった。トイレから出てからも、何だかふらふらしたので、顔でも洗ってシャキッとするかと、昨夜、老人に貼られたままになっていた額のテープを剥がす。チクッとした痛みと出血があったが、気にせずにバシャバシャと洗った。
 しばらくしてから、老人とのやりとりを振り返ってみた。なにせ今まで、勉強なんてアホらしくてやってこなかったから、頭に中身などあろうはずもない。いや待てよ。奴は、頭の中身とは言ってなかったな。たしか、額の意味がどうのこうのと。意味ってなんだ。これになんの意味があるってんだ。

 額の傷のかさぶたがむず痒くなってきた頃、急に視力が良くなったかのように、何となく視界がひらけているのに気付いた。不思議なことに、額を触ってみると、視野が通常に戻る。それで、また手を離すとよく見えるのだ。これは、一体全体どうなってるんだ。
 あのジジィ、何か小細工をやりやがったか。敵の声を聴け、だと?ふざけるな!敵に出くわしたら、すぐさまブッ飛ばすまでだ。いっ、たたた。額の傷が疼くぜ。やっかいなことになったもんだ。まったく。

       *          *         *       

 ある日の休日。ボクはいつものように、左足から靴を履き、右足から玄関を出て公園まで歩いていく。玄関を出てからはマイルールを発動させない。外ではいろいろと邪魔が入ってしまい、ルールどおりに動けなくなるからだ。案の定、猛スピードで自転車が向かってきて、ボクは仕方なく道の端に避けた。やれやれ、今日が雨でなくてよかった。さてと、気を取り直して、右足から行くとするか。お次は左でと。
 どすっと、何か堅いものにぶつかった。
「おい、どこ見て歩いてるんだよ」
 しまった、まずいのに遭遇してしまったようだと、僕は慌てた。
「す、すみません」
 うつむいて目を合わさずにその場を去ろうとした。もう右だ左だなどと言っている場合ではない。
「おい、待てよ」
 やばい、どうしよう、走って逃げるか、でも、絶対につかまっちゃう、と頭をフル回転させていると、男が続けざまに、
「ちょっとその眼鏡、貸してくれねぇか」と言ってきた。
「め、めがね、ですか」
 たぶん、めがね狩りだ。ボクは今から、めがね狩りにあうんだ。安物だけど、お気に入りのたったひとつの眼鏡で、とりあげられたら困ってしまう。誰か、助けてと、震えながら心の中で祈る。
 男はひょいっとボクの眼鏡をつまみ上げた。
「最近、なんか目の調子がおかしくってよ。ちょっと貸りるぜ」と、ボクの眼鏡を自分にあてがって、周りをきょろきょろと見て回った。そして、首をかしげながら、
「視力の問題ではなさそうか」というと、身をかがめてボクに眼鏡をかけ直した。
「あ、ど、どうも」
 眼鏡を返してくれたし、案外、悪い人じゃないかもしれないと、うっかりと男の目を見つめてしまった。それは、ボクの知っているいじめっ子の目じゃなくて、何かと頼れる兄貴といったふうの、奥深い眼差しだった。
 ふと我に返る。いや、思いのほか優しいからといって惑わされてはいけない。現にこの人、身体じゅう傷痕だらけで、額にも生々しい傷があるじゃないか。
 そのかさぶたからはうっすらと血がにじみ出ていて、まるで何かの生き物みたいだった。しばらくの間、それを呆然と見つめていた。
「おい、どうした?何かオレの顔についてるか?」と男が顔を寄せてきた。「すみません、こっちに来てください」
 ボクは男の手を引っ張って、近くの公園へと連れ込んだ。

 公園のベンチまで男と連れ立ってきた。緊張からか、息があがってしまい、変な汗をかいていた。できるだけ平静を装って男に声をかける。
「とにかく、ここに座ってください」
 男は怪訝そうな顔をしながらも、ドスンと腰かけた。ボクが男を見おろす形となる。
「なんなんだよ、急にこんなところまで引っ張ってきやがって」
「すみません。ただ、ちょっと、そのおでこの傷が気になって」
「はぁ?でこの傷?」
「ええ、何だかちょっと不思議な感じがして。どうされたのかなって思って。す、すみません、いらないお世話ですよね」
 男は黙って、じっとボクの顔を見つめた。その目は相手を威嚇するものではなく、何かを見定めるような深い光を放っていた。男は組んでいた腕をほどき、わかったとばかりに手をひらひらっとさせて、話しはじめた。
「オレはよ、喧嘩して深手を負っても、案外、早く傷が治っちまうんだ。ただ、こいつに関しては、いつまでも、ぐちゅぐちゅと膿んでやがる」
 迷惑そうに言い放つと、額に手を当てて公園の木々を見まわした。そして、かざした手を放してから、また首をかしげる。
「なんだか、目もおかしくなっちまってよ。まぁ、たいがい、頭突きのしすぎだろうけどな」というと、こちらを見上げて弾けたように笑った。愛嬌のある小猿のような笑顔だ。思わずボクも微笑む。
 ボクは額の傷に関して、確かめたいことがあった。男の機嫌を損ないやしないかと、恐る恐る尋ねてみる。
「その傷、誰かが、触ったりなにかしましたか?」
 男は驚いたように目を見開いて言った。
「おう、そうなんだ。妙なじじいに会ってよ。そいつがこれに、シールみたいなものを貼っつけやがって。油断してたとはいえ、うかつだったぜ」
 やはり、そうか。
 ボクはカバンの中からごそごそとウエットティッシュを取り出した。男の目をみないように、傷だけを凝視する。
「ちょっと、血が出ているので、ふかせてください。すぐすみますから。あっ、動かないで」 
 ボクは静かに丁寧に傷の周りの血を拭った。間近に傷を見る。かなり炎症をおこしているようで、奥の方から脈動が感じられ、何かがうごめいているようにも見える。
 ボクは、そこにむかって、すっと人差し指を突っ込んだ。男の叫ぶ声が聞こえる。そのまま、男の頭を押さえながら、中指も入れた。血と膿がどくどくと流れるに任せて、ボクは静かに、指を傷の中にうずめていった。

(第2話に続く)

第2話:https://note.com/teteto2292/n/nbdb82cda5af7
第3話:https://note.com/teteto2292/n/nabc90d8d0ae4
第4話:https://note.com/teteto2292/n/n1b638b8225db
第5話:https://note.com/teteto2292/n/n6477e7b1a9d7
第6話:https://note.com/teteto2292/n/ned63bb04e5f9
第7話:https://note.com/teteto2292/n/n2ffbfb828a29
第8話:https://note.com/teteto2292/n/n09e780b8e076
第9話:https://note.com/teteto2292/n/n01daf9b2108d
第10話:https://note.com/teteto2292/n/ndb76bf66c23c
第11話:https://note.com/teteto2292/n/ned04677dd3f8
第12話:https://note.com/teteto2292/n/n4ff0fe3babfa


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