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【ネタバレあり考察】タコピーのお話をしよう【タコピーの原罪 最終話記念】

※最終話までのネタバレあり。原作未読の方は先に読んでください。

※オタクくんの勝手な解釈であり、作者様の意図とは異なる場合があります。

偉大なる原作

↓  ネタバレ回避下送り

以下よりネタバレ開始


1. 仲直りの秘訣はちゃんとお話することだっピよ

タコピー 第二話 p.12

……でもこいつら全然「お話」しねぇなぁ

『タコピーの原罪』とてもいい作品でしたね。
Twitterで話題沸騰、多くの方々がタコピーの動向を気にしていたのではないでしょうか。そして、3/25に最終回を迎え、ようやく腰を据えて考察できるようになりました。

さて、タコピーの原罪で一番重要なキーワードはなんでしょうか。
まあ皆さん分かりますよね。『お話』です。
ちゃんとお話をしましょうねっていうのが、タコピーの原罪が全体を通して伝えたいテーマと思われます。

見出しのように、第二話からタコピーが言っていますし、それ以降もちょくちょく出てきます。
最終話でも、大ゴマで強調されています。

おはなしが ハッピーをうむんだっピ

第16話 p.14

だからこそなのか、この作品のキャラクター達は、お話をほとんどしません

しずかちゃんはまりなちゃんにいじめられても、ほとんどなにも喋りません。東くんに大丈夫?と声をかけられても拒否ります。第3話の保健所では母親に対して返事をしていません

まりなちゃんは、しずかちゃんに対して一方的に暴言を吐き、しずかちゃんに扮したタコピーが話しかけても遮って暴力を振るいます
また、取り巻きがいるものの、おそらく家庭内の事情について相談していないと思われます(取り巻きがいる時はしずかちゃんに対し貧乏弄り、母親が風俗業弄りしかしておりません。まりなちゃんの父親としずかちゃんの母親について言及する時は、いつも一対一になってからです)

東くんは、お兄ちゃんに話しかけられても、自分の気持ちを声に出していません。しずかちゃんへは話しかけているが、学級会の議題にしようか?先生に相談しようか?なにかできることある?と具体的な行動の提案に終始し、しずかちゃんが何を思っているのかを聞いていません。これはこの作品の本題とは微妙にずれています(これに関しては後述)
なお、母親に対しては何回か話しかけようとしているものの、母親に遮られているので……

で、親たちは自分の主張を述べるだけで、子供たちの話は聞かないんですが……。まあこの作品のメインは子供たちなので。

唯一、お話しようとしているのは東くんのお兄ちゃんですね。
東くんが色々と抱え込んでいるのを察しているのか、第8話では東くんに対して声がけをしています。

あの事件大丈夫か?
同じクラスの子なんだろ?
友達とか落ち込んでるか?
なんかあったら相談乗るから
けーさつの人怖くないか?
クラスの雰囲気どう?
お前も気を付けろよ
ていうかあの子ってさ お前が一緒に遊んでいた……

東潤也 第八話 p.12 

この時は、黒吹き出しで怖い感じに演出されていますが、それは事件に関わっている東くんの心情がそう見せているだけです。よく言葉を見てみると、東くんが一体なにを考え、どう思っているのか聞き出そうとしています
とはいえ東くんがトイレに逃げたせいで上手くいっていませんが……。

実は「相手の気持ちをちゃんと聞く」ってことが、最初からちゃんとできているのは、この作品では東兄とタコピーしかいません。み~んな会話しているように見えて、実は一方的な意見の押し付けなんですよね。


2. もっとしずかちゃんのことを知らなきゃならないっピ!

タコピー 第一話 p.47

タコピー、お前もお話できていないじゃん

じゃあタコピーはどうなのか、という話になりますよね。
実はタコピーもお話しているように見えて、ちょくちょくお話できていません

分かりやすいシーンが、二つあります。

まず、第一話28ページからの、チャッピーを保健所に連れ去られたしずかちゃんに仲直りリボンを貸すシーン。この時の流れを要約すると、

しずかちゃん「友達とケンカした」
タコピー「じゃあ仲直りだっピ!仲直りリボン!」
しずかちゃん「それ貸して」
タコピー「(本当はダメだけど)貸すっピ!仲直りできるといいっピね!」
しずかちゃん「ばいばい」

  タコピー, 久世しずか 第一話 p.28-33

この時のタコピーはケンカしたしずかちゃんがなにを思っていてどうしたいのか聞くことなく、仲直りすべきと決めつけ、リボンをどう使うか聞きもせずに貸しています。はい、お話をしていませんね

その結果、しずかちゃんは自殺をします。
とはいえ、これに関してはタコピーが悪いわけではなく、タコピーのいない時間軸でもしずかちゃんは自殺を試みます(第十二話 p.17-18)(まあタコピーが丈夫なリボンを貸さなければ、ロープが切れて未遂で済んだのですが……)

仮定の話になりますが、もしこの時タコピーがしずかちゃんと「お話」をしていたらどうなったでしょうか。
なぜケンカをしたのか、これからどうしたいのか、今何を考えているか、辛いことはないのか、このリボンで何をしたいのか。
少なくとも、この日に自殺をすることは無かったのではないでしょうか。

そしてもう一つのシーン。第十三話8ページのまりなちゃんが自分を守るためにお母さんを返り討ちにして殺してしまったシーンです。こっちはとても分かりやすく、まりなちゃんが伸ばしてきた手を無視します

まりなちゃん「こんなことなら名前くらいつけとけばよかった。ねえ……
タコピー「わかったっピ。殺せばいいんだっピね!」

 タコピー, 雲母坂まりな 第十三話 p.9-10

この時のタコピーは直前のまりなちゃんの独白である「小4の時ちゃんと殺さなきゃだった 久世しずかを……」という言葉を勝手に聞き取り、それこそがまりなちゃんの求めていることだと解釈しました。そしてまりなちゃんを見捨て、ハッピー星に帰っていきました。
まりなちゃんの方は明確に、タコピーを「お話」の相手として求めていたのにも関わらず……。

そして一人になってしまったまりなちゃんは自殺をします。(亡くなったのか、一命をとりとめたのか、未遂に終わったのか、描写こそありませんが)

この件に関してはタコピーのいない世界線は描写がないので、まりなちゃんの自殺がタコピーのせいかどうかは分かりませんが、タコピーがこの時お話をしていればまりなちゃんは自殺しなかったでしょう。

つまりタコピーはお話をしなかったせいで、ヒロイン二人を自殺から救う機会を逃しているのです

そして、このシーン以外でもお話をしていない箇所があり、第二話、第三話のタイムリープ中は、ずっとタコピーのモノローグ中心に話が展開していきます。
宿題の答えを教えれば、給食を食べれば、ノートを取り返せば、しずかちゃんはハッピーになって死なないんだっピね!と勝手に想像して行動しています。その結果はまりなちゃんを逆撫でしただけで、状況は好転しませんでした。

そして、決定的な第四話。

今度こそ ぼくが 助けるっピ――!!

タコピー 第四話 p.14

しずかちゃんを暴力から助けるために、まりなちゃんを撲殺します。

まあ、あのシーンでは咄嗟に行動してしまうのも仕方ないかもしれませんが……。

でもタコピーは101回もループしているのに、まりなちゃんとタコピーが話したのはへんしんパレットでしずかちゃんに変身した状態のみで、タコピーとしてまりなちゃんとお話をすることはありませんでしたね。お話が大事と言っているのに……。(ボコボコにされてトラウマになっていたのでしょうか)

結局、タコピーはお話をせずに、自分の勝手な想像で対処療法ばかりしています。助けたいという善意は素晴らしいものですが、結局一人よがりの行動でした。

お話が大事と言っているのにも関わらず、お話をしていないんだよ!!

(ここは東くんとの共通点があります。東くんの場合は、行動はせずに、あれをしようか?これをしようか?という提案でしたが、タコピーと同じく、しずかちゃんが何をしたいのかは聞いていませんね。)

とはいえ、タコピーが全くお話できていない役立たずなクソクソなのかというと、それは絶対に違います

タコピーはヒロイン二人の周りをうろちょろし、ずーっと話しかける。それだけで二人を途中まで救えていたのです。

でも 最近はちょっと悪くないんだ

久世しずか 第二話 p.31

最近はちょっと悪くないよ

雲母坂まりな 第十二話 p.16

タコピーはこのまま、お話を続けるだけで良かったのに……。

「おはなしがハッピーをうむんだっピ」
そうそうそれが
いちばん大切なこと
ぼくが忘れてしまっていた
いちばん大切なやくそく

タコピー 第十六話 p.14-15

タコピーは「お話」と散々口にしていたのに、その本質を忘れてしまっていたんですね


3. ぼくがぜったい… きみを助けるっピ

タコピー 第三話 p.18

その気持ちはとても嬉しい

では、助けようと行動するのは悪いことなのか
これは難しい問題です。

前述の通り、タコピーは助けようと色々な行動をとりましたが、ほとんど空回りに終わり、状況を好転させてはいません。むしろ、助けようとした結果、事態を悪化させているケースもあります。

それはなぜなのか。

「一体どうすればよかったって お前言ってんだよ」
「わかんないっピ…」

久世しずか, タコピー 第十五話 p.7-8

結局、最後の最後になってもタコピーは自分がどう行動すれば事態が好転するのか、理解していなかったからです。

といっても、これはタコピーが悪いわけではなく、タコピーのような宇宙人にできることはほぼ無いです。

戸籍もない、社会的地位基盤もない、経済力や生活力もない、カウンセリングの知識資格もない、児童福祉についても知らない、さらに地球の日本における文化風習社会も知らず、人間の心理状態についても知らない。
そんな宇宙人が、ネグレクト状態で、クラスメイトにいじめられ、親の不倫でその子供に責められ、クラスの担任には見て見ぬふりをされ、そんな状態の子供に対して、一体どんな行動をすれば救えるというのでしょうか。

私には正解は思いつきません。然るべき公的機関に通報するぐらいでしょうか

その状態でタコピーはなんとか助けようと、短絡的な思考、独りよがりな思い込みのもと足掻きますが、これが良くなかった。

殺人や暴力という概念すら存在しないハッピー星人の価値基準で考えられても、地球人を助けることなどできはしないです。

タコピー(ハッピー星人)があたまぽわぽわで優しい思考だから、思い込みで行動してもなんとかなっていますが、もしタコピーが戦闘民族で、「いじめられたなら、相手をぶち殺せばいいっピ!」のような修羅な思考をしていたら、クラスメイトが数名死亡し、事態は悪化の一途でしたでしょうね。

「いやいやそんなことは無いだろうって?」
危機回避のために、タコピーはまりなちゃんを撲殺しているので……。そんなことをしても事態は悪化するだけなのに……。

そもそもの話、ハッピー星人がガチで物事を解決しようとすれば、色んなことが上手くいくのではないでしょうか。

  • タイムリープ(大ハッピー時計、ハッピーカメラ)

  • 身体構造の変化(へんしんパレット)

  • 小型の浮遊装置(パタパタつばさ)

  • 認識阻害(お花ピン)

  • 小型の宇宙船(第十三話でタコピーが乗るロケット)

  • 土星ウサギの声が出るボールペン(にゃーん)

これだけの技術力を持つ(科学?魔法?)ハッピー星人ならば、それこそ国家間の問題なども解決できるのではないでしょうか
(タコピー 石油や食料がジャブジャブ湧き出る道具 出して)

それにも関わらず、ハッピー星人は具体的な解決を図らず、『お話』を重視しています

これは、現地の慣習や生態などを知らないハッピー星人が、勝手に手を出したところで事態は悪化するという前提のもと生み出された考えなのではないでしょうか。(ハッピーママもあたまぽわぽわしているので、そこまでの考えが持てるのかちょっと疑問ですが)

だから、タコピーは助けようと自ら介入するのでは無く、お話をしていくのが大事だったわけなのです。

一応、タコピーを擁護すると、タコピーが助けようと足掻いた結果、わずかにしずかちゃんは救われています

タコピーが助けてくれたんでしょ
(略)
でも…他にもさ
いろいろやってくれてるでしょ
宿題の答え知ってたり
給食とか
失くしたノートも出てきたし

久世しずか 第二話 p.29-30

これはタコピーの行動が助けたというより、タコピーがしずかちゃんを助けるために頑張っていた姿、その気持ちがしずかちゃんを助けたのではないでしょうか。
ネグレクト状態でひとりぼっちだったしずかちゃんにとって、自分のために何かしてくれようとしている他人の存在はとてもありがたい、救いになるものだったのではないでしょうか。


4. なんでハッピー道具ってそんなしょーもないんだよ

東直樹 第七話 p.2

まさに”ハッピー”道具なんだね

ハッピー星人は異星人への介入に慎重であるという仮定をしました。
となると疑問になるのが、ハッピー道具の存在価値です。

お話が一番大事なのであれば、ハッピー道具なんてものは要らないはずです。むしろ異星人の手によって悪用される危険性を考えると、持ってこない方がいいです。せめて土星ウサギの声が出るボールペンとか、土星イヌのジオラマとか、そういう害のないものを選別するべきではないでしょうか。

ハッピー道具の”掟”――
道具を使うときは必ずハッピー星人の目の届く範囲で使うのです
決して 異星人の手に道具を委ねてはなりません

第一話 p.32

こんな掟が作られるくらいなんですから、過去に道具を悪用されたことがあるか、悪用の危険性を考えられる程度の頭脳があるハッピー星人がいたはずです。

では、なぜタコピーはリスク負ってまで、ハッピー道具を持ち歩いているのでしょうか。

(作者が「陰湿なドラえもん」をやりたいと思いついたから)

それは、お話をするのが大変だからと思います。

散々、お話が大事だって偉そうに書いてきましたが、それって簡単そうに見えてめちゃくちゃ大変なんです。

お話とは双方向のコミュニケーションなので、こちらからお話をしたい!と言っても、相手がお話してもいいよと受け入れてくれないと成り立ちません

本作品でも、お話を試みて幾度も失敗をしています。

  • タコピーが話しかけても、しずかちゃんもまりなちゃんも最初はまともに返事してくれませんでした(第一話、第十二話)

  • しずかちゃんに扮したタコピーがまりなちゃんに話しかけても、まりなちゃんは受け入れずに暴力を続けました。(第二話)

  • 東くんのお兄ちゃんが東くんに話しかけても、東くんは逃げました。(第八話)

  • 東くんがお母さんに話しかけようとしても、お母さんは話を遮りました。(第八話)

なので、なんとかして相手が話を聞いてくれる体勢にしないといけないわけです。

それをするにはいくつか方法があります。

そのうちの一つが、根気よく時間をかけて、話しかけ続けることです。タコピーと東くんのお兄ちゃんが作中で行っていましたね。そうすれば段々と心が開いていきます。
ただ、これには欠点がありまして、非常に時間がかかります

事態が膠着状態にあれば、ゆっくりと声をかけていればいいですが、タイムリミットがある場合や、決壊寸前の危うい状態にあると、致命的に間に合わないことがあります。チャッピーが保健所に連れていかれ、東くんが死体遺棄に関わり、まりなちゃんが母親を殺し……。

この作品では間に合わないことがちょくちょく起こっています。
(とはいえ、この状態でも生きている限り、話しかけ続ければ、まだまだ救われますが)

タコピ~~!!やり直せる道具を出して~~!!

テレレレッテレ~

ハッピーカメラ~!!

ということで、やり直すことができれば、根気よく話続けていて間に合わなかった場合でもなんとかなります。

他に、相手とお話をするための方法としては、以下のようなことがあげられるでしょうか。

  • 気分転換をさせてリラックスをさせる(パタパタつばさで空を飛ぶ、へんしんパレットでいもむしに変身、土星ウサギの声が出るボールペン)

  • 相手の知らない情報、見ていない一面を伝える(東くんのお母さんが努力の人だと見せるためにお花ピンでスニーク)

そう、ハッピー道具というのは、事態を解決するための道具ではなく、相手とお話をするための、おはなしでハッピーをうむための道具であるのだと思われます。

だから、解決するための道具として見ていた東くんにとって、しょーもない道具に見えたんでしょうね。


5. きみを ものすごい笑顔にしてみせるっピ

タコピー 第十五話 p.18

タコピーは一体なにを成し遂げたのか

さて、第十五話でその身を犠牲にしてハッピーカメラを起動させ、もう一度タイムリープを起こしたタコピーですが、彼は一体なにを成し遂げたのでしょうか

本作品の主要キャラのしずかちゃん、まりなちゃん、東くんはそれぞれ種類の違う虐待を受けているわけですが、これが果たして好転したのか
実は、客観的に見てしまうと子供たちの状況はあまり好転していません

最終話を見てみると、それが分かります。

「…だからさ
 うち今日ママやばそーだからケーキ買って帰る」
「まりなちゃんのママいっつもやばいじゃん…」
「誰のせいだと思ってんだよ
 お前んちよりはマシ」

雲母坂まりな, 久世しずか 第十六話 p.22-23

どうやら、高校生になってもまだ虐待は続いているようですね。

さらに言えば、ラストページの未来まりなちゃんの顔に傷があるので、しずかちゃんの自殺未遂を回避しても、まりなちゃんママはブチ切れてガラス片でまりなちゃんの顔に傷をつけたんでしょうね。

東くんに関しては高校生の描写がありませんが、「昨日兄ちゃんとケンカしてー…」と話しているシーン(p.6)で眼鏡の形が変わっており、買い替えたことが分かります。この眼鏡の形は、第十四話p.10で東くんのお兄ちゃんが買ってくれたものと同じです。
つまり、東くんはお母さんに眼鏡の度が合わないと言いだせておらず、お兄ちゃんに伝えて、バイト代で買ってもらったと推測できます。
(ケンカしたその日のうちに眼鏡を買ってくれるお兄ちゃんマジいい人)

要は、子供と親の関係はタコピーによって何も変わっていないということです。タコピーは親とは一切何も話していないので、親が変わらないのは、物語上当然ではあります。

じゃあタコピーのやったことが無意味だったのかというとそんなことは無いですよね。

しずかちゃんとまりなちゃんが、東くんとお兄ちゃんが、お話をするきっかけを作ってくれた。それがタコピーの一番の功績です。

たかが『お話をする』というのが、いかに大変なことなのかは前項で語りましたので割愛。もう一点伝えたいのが、子供たちは視野が狭くなっていたということ。

しずかちゃんはチャッピーとパパしか見えておらず、まりなちゃんはママとパパしか見えておらず、東くんはお母さんとお母さんの面影をもつしずかちゃんしか見えておりませんでした。

そのため、そばに共感できる人がいることに気が付けなかった

両親が不仲で愛情を受けられなかった同じ境遇の友達、同じ親からの不器用な愛を受けていた兄弟、そういう共感できる相手がいたのに、特定の人にしか目を向けていなかった。

だから求めている相手がいなくなったり、自分へ愛を向けてくれなかったり、それだけで自分の世界が終わったように感じてしまい、どうにかして取り戻そうと、躍起になって行動してしまったのではないでしょうか。(この年齢の子供が親から愛情を得られないというのは相当悲しいことですが)

命綱は一本だけだと、それが切れただけで落下してしまいますからね。片方が切れても大丈夫なように最低二本、できれば複数用意するのが安全対策の基本です。そしてヘルメットなどの別系統の対策もすべきです。

人生における命綱も複数用意して、何かあっても別の界隈に頼れるようにするのが大事なんですが、子供は家庭のみが自分の世界と思いがちですからね。

タコピーは他所に命綱を作るためのきっかけを作ってくれた。ほんの些細なことだけれど、なかなか大変なこと。

もちろん、そこから和解したり、仲良くなったり、頑張ったのは子供たちではありますが、タコピーがいない世界線であれば成し得なかったことであるので、タコピーはよく頑張ったんだ……。

本質的な問題の改善は、たかが小学生、たかが宇宙人には、非常に難しいでしょう。その中でも出来ることとなったら、これが良かったのではないでしょうか。

問題は解決しなくても、笑顔になれた。ハッピーにすることが出来た。


6. タコピーの「原罪」

原罪とは

さて、考察で触れたいのが、タイトルに入っている「原罪」とはなんなのか。色んな人が考察されているとは思いますが、私なりにも考察してみたいと思います。

まず、「タコピーの原罪」の作中には「原罪」という言葉は出てきません。タイトルと、第四話と第十五話の終わりにあおりとして出てきただけです。「罪」なら第十一話p.15に登場します。
そのため、この原罪に対する考察に正解はないと思います。という前提で考察していきます。
(作者がインタビューとかで正解を提示して欲しい気もしますし、作者は黙して読者の解釈に委ねて欲しい気もします)

タコピーはお話をせずに、自分の思い込みで行動をしたのが良くなかったとは本記事において散々語ってきました。では、これが原罪なのでしょうか。違うとまでは言いませんが、核心ではないのかなと思います。
それについて少しずつ考えていきます。

ハッピー星人の掟について。
本作において掟はいくつか登場しています。

まずは、道具を異星人の手に委ねてはならない(第一話)
そして第十三話にてもう一度掟という言葉が出てきます。

あなたは一人でここへ来た
ハッピー星の最も大切な掟を破ったのです
二度と星に戻ることは許されない…
だからこそ生まれ変わるのです
すべてを忘れて―――

ハッピーママ 第十三話 p.13

さて、ここの「最も大切な掟」とはなんでしょうか?
普通に考えれば、一人でハッピー星に来たことですが、それだけで星を追放されて、記憶を消されるほどの仕打ちを受けるのでしょうか。

原罪」「追放」この単語が並ぶと連想できることがありますね。

それは聖書の創世記です。
簡単に言うと、神に創生されたアダムとイヴが、神の禁を破って「禁断の果実」を食べ、エデンの園を追放された創世記第三章を「失楽園」。そしてその禁を破った罪が、人類に受け継がれているという思想を「原罪」といいます。
(とはいえ、宗派によって解釈が様々ですし、私も宗教学は素人なので深くは語りませんが)

ざっくり本考察に重要な点をピックアップすると以下のようになります。

  • 「禁断の果実」は「善悪の知識の木の実(知恵の実)」とも呼ばれており、人類はこの実を食べたことで善悪を判断できるようになりました。

  • 善悪の判断は神にのみ許されており、実を食べることで神に近づこうとしたということが人の罪であるとも言われています。

  • そして「禁断の果実」を食べるときっと死ぬであろうと神に言われています。

そして関連しそうな会話を東くんとしております。

そりゃいいとこも悪いとこもあるだろ
そんなこともわからないのかこのタコ
(略)
一人よがりで久世さんを助けようとして結局何もできなかった
きっと助けてあげようなんて思うのが違ったんだ

東直樹 第十四話 p.6-9

それを受けてタコピーは一生懸命長い間考えて(夏→秋→冬→春に舞台が変わっているので9か月程度?)、しずかちゃんにこう伝えます。

ごめんっピしずかちゃん
ぼくには難しくて…わかんないっピ
(略)
ごめんねしずかちゃん
何もしてあげられなくてごめんっピ
でもいっつも何かしようとしてごめんっピ
しずかちゃんのきもち
ぼく全然わかんなかったのに
ぼく…
いっつもおはなしきかなくてごめんっピ
何もわかろうとしなくてごめんっピ
しずかちゃん一人にしてごめんっピ

タコピー 第十五話 p.8-10

物事は複雑で、なにが善でなにが悪かなどわかりません

しずかちゃんからしてみれば、虐めてくるまりなちゃんはいなくなって欲しいほどの悪です。でも、まりなちゃんは歪んだ家庭によるストレスをしずかちゃんに責任転嫁することで自己を保っており、虐めとは不器用な悲鳴だったと考えることもでき、純粋悪ではないはずです。

まりなちゃんから見れば、父親と不倫している女の子供であり、未来では母親と仲良くなるきっかけの東くんを奪っていった悪女です。しかし、しずかちゃん自体は何も悪いことをしていません。

それなのに、異星人で地球人のことが分からないタコピーは、なにが善でなにが悪かを判断しようとした。

つまりタコピーは、善悪を勝手に判断したこと、自分なら事態を解決できると増長したこと(神に近づこうとしたこと)、そしてその結果まりなちゃんを死なせたこと。これらの点をひっくるめて原罪なのではないでしょうか。


7. まとめ

長くなりましたが、ここまでお付き合いいただきありがとうございました。(約1万文字)

本記事にて書かせていただきました、「タコピーの原罪」から読み取れる考察をまとめますと以下のようになります。

  • お話をしようね

  • 自分の想像で行動しちゃいけないよ

  • 事情を知らない異星人が介入しても良いことないよ

  • ハッピー道具は事態を解決するためのものじゃないよ

  • 事態を解決しなくても、ハッピーにはなれるよ

  • 善悪を判断し増長し、まりなちゃんを死なせたのが「原罪」ではないか

繰り返しますが、本記事はオタクくんの勝手な妄想解釈であるため、作者様の意図とは異なる場合があります。私もこの解釈が正解とは思っていません。

現実における人間関係も、誰が善で誰が悪か、どういう対処をすれば正解なのかは誰にも分かりません。
皆様も、自分だったらこう思う、自分だったらこうする、など考察してみてはいかがでしょうか。

またこれはあくまで作品であり、多少ご都合展開であることは否定できず、リアルでは「お話」すればハッピーになれるとは限りません。(この素晴らしい作品を否定する意図ではありませんが)
虐待やイジメにあっている方は、児童相談所や教育委員会など、然るべき公的機関に相談することを検討なさってください。


8. 小ネタ

「タコピーの原罪」には数々の伏線や細かい描写があります。それを見つけてキャッキャッしたいので、私が気が付いた点をつらつら書き連ねていきます。ちょっと無理やりな考察もあるので、より一層オタクくんの勝手な妄想に近づきます。

・親の顔がフレームアウト

基本的に本作品において、親の顔は隠れています。何回か描写されたシーンはありますが、意図的に描写しないような構図になっているコマが何回もあります。 
また、子供たちが親と対話し何かが変わるというシーンもありません。むしろ何かが悪化するという。
この作品において、親とはキャラというより舞台装置に近いのではないでしょうか。

・女の子なのに顔にキズがついたら……

第六話冒頭でまりなちゃんママが言ったセリフです。
この後、まりなちゃん(タコピーの変身姿)をビンタしまくり、ガラスで残る傷をつける人のセリフです。

・ぬいぐるみに囲まれたまりなちゃん

第十二話p.8、ベッドの上でぬいぐるみに囲まれるまりなちゃん。ずっとひとりぼっちだった孤独を慰めているのでしょうか

・東くんの眼鏡

第十三話p.1、お兄ちゃんとケンカできなかった世界線の東くんは高校生になっても、同じ眼鏡です。母親に買い替えてもらえず、同じ眼鏡を使い続けているのか、母親にもらったものと同じデザインのを新しく買ったのか

・しずかちゃんとまりなちゃんの対比

この二人には共通点があって、最終的に友達になれたように、似たような描写をされているところがあります。タコピーと遭遇シーンのセリフと見開きの顔(第一話と第十一話)、「最近はちょっと悪くないよ」のセリフ(第二話と第十二話)
(もしかしたら他にもある?)

・上巻、下巻の表紙

仲直りリボンで結ばれたしずかちゃんとまりなちゃん。尊い。


正直、まだまだあるのですが、キリがないのでこのくらいにしておきます。

素晴らしい原作様に感謝の念を込めて。

タコピーの原罪 下 4月4日(月)発売



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