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【対談】Tor版Twitterと開示請求~表現の自由~

ゆっくりしていってね!

今回は銀星レンさんをお呼びして、対談企画記事をお送りするのだわ!

最近は法改正もあって頻発している開示請求周りと、レンさんが推奨するTor版Twitterの使用について、色々とお話を伺ってみるわ。

【注意】
今回の記事は対談形式でお伝えするため、「教える役=銀星レン」「教わる役(聞き手)=手嶋海嶺」と役割分担しています。したがって、「それは手嶋海嶺も元々知ってたんじゃ?」という内容も質問し、あえてレンさんに答えて頂いている部分もあります。

また、本記事のいかなる記述も違法・適法の判断、およびTorによる匿名化技術の安全性についての保証を与えておりません。法的に正確な表現とは異なる記述もありますが、「分かりやすさ」を優先しています。正確な法律知識が必要であったり、あるいは現に法律トラブルに遭われている場合は、しかるべき文献を調査されるか、専門家(弁護士等)にご相談ください。

じゃ、さっそく行ってみましょう!

Torってどんなもの?

てっしー(手嶋海嶺):
まずはこれよね~。そもそもTorって何? 私は化学系ゆっくりだから何ら詳しくない――っちゅうか、レンさんの記事を読んで初めて存在を知ったレベルなんだけど、改めて簡単にご説明願いたいのだわ。

レン(銀星レン):
はい。まず、TorはWEBブラウザの一種ですね。みなさんパソコンやスマホでネットを見る時はEdgeやChrome、Safariをお使いになっていると思うんですけど、そういったものの仲間です。

てっしー:
なるほどね。じゃあ、あえてそんなマニアックなブラウザを使う理由は何かしら?

レン:
Torは匿名性の高さが売りのブラウザなんです。細かい説明は後にしますが、IPアドレス(※IPアドレスは、あなたのパソコンやスマホの住所みたいなものです)を追跡しにくくします。

てっしー:
IPアドレスは普通のブラウザだと追跡しやすいのかしら?

レン:
追跡しやすいというか……。普通のブラウザを使っていると丸見えですね。こちらのサイトで提供されている「あなたのアクセス情報」を開いてみてください。

てっしー:
うお!? いきなり何か色々と出てきたのだわ!?

レン:
画面をさらに下にスクロールしてみてください。もっと色々と情報が出てますよ。

てっしー:
おおう……本当なのだわ……!!
も、もしやこれはハッキングサイト!? あなた、私に危ないリンクを踏ませたわね!?

レン:
ハッキングサイトじゃないですよ!? 
……このくらいの情報はWEBサイトの管理者側に渡るのは普通です。たかがIPアドレスだけで個人が特定されたりもしません。

てっしー:
そうなの? あなたが私の自宅に押しかけたり、もしくはパソコンを操作しようと企んでいるのではなくて?

レン:
IPアドレスだけもらっても、そんなこと不可能ですよ……。ただ、手嶋さんが契約しているネット回線の会社は分かります。そして、その会社は当然ながら手嶋さんの本名や住所を知っています。もし私が手嶋さんの本名や住所が知りたかったら、その会社に「お問い合せ」して答えてもらわないといけません。

てっしー:
じゃあお問い合わせする気ね!? そして私のクレカ情報を抜き取って、推しのVTuberにスパチャしまくる気でしょう!?

レン:
しねえし、出来ねえよ!! ……失礼。ただ問い合わせしても教えてくれません。個人情報ですから、簡単に教えたらネット回線の会社側が違法行為をしたことになってしまいます。教えてもらおうと思ったら、裁判所が出す「発信者情報開示命令」が必要です。IPアドレスがバレただけなら、別に焦ることは何も起きていません。

昨今問題となっている「SNSで誹謗中傷を受けた。相手を訴えたい。だから開示請求だ!」というのは、全体から見れば大体次のような流れの中にあります。

①自分への誹謗中傷投稿を見て、訴えたいと思う。
②でも、相手の本名・住所が分からないから訴えられない。(※本名・住所を知ることがすべての法的措置の出発点です)
②SNS運営会社、ネット接続会社から相手の本名・住所をゲットしたいな。
③でも、個人として各社に「教えてくださいよ」って言っても無理……。
④各社相手に裁判を起こして、裁判所から「投稿者の個人情報を開示しなさい!」という命令を出してもらおう。
⑤裁判で開示命令ゲット! 相手の本名・住所がわかったから、①の裁判をやっていくぞ!

したがって、匿名アカウントからのSNS誹謗中傷についての裁判は、④「Twitter社やネット接続会社に対して開示命令を出してもらえるか」⑤「名誉感情の侵害(民事)または名誉毀損罪・侮辱罪(刑事)が認められるか」で最低2回は発生します。(相手が実名アカウントで住所も明らかな場合は④は不要です。)

てっしー:
はいはい。少しふざけただけよ。で、Torを使うことと、今の話に何の関係があるのかしら?

レン:
順を追って説明しましょう。(※読み飛ばしてOK)
普通のブラウザを使っていると、アクセスしたサイト、まあTwitter社にしておきましょうか。そのTwitterの管理者には、IPアドレスが分かっています。しかし、特別に入力していない限り、Twitterは手嶋さんの氏名や住所までは知りません。IPアドレスは知っていますが、それを教えてくれと言っても先ほどと同様に個人情報の漏洩になるから教えてくれないのですが、ここで開示命令があれば、IPアドレスは提供してくれ――……。

てっしー:
長い。文字だらけで目が泳ぐし、分かりにくい。絵で説明して?

レン:
くっ……! こ、こんなもんですかね? すごく雑な図ですが。

レン:
手嶋さんはネット接続会社を通じて、Twitterにアクセスしていますよね。
しかし、先ほどの個人情報保護の観点から、ネット接続会社がTwitterに対して本名や住所などの情報を渡すことはありません。差し出すのはさっきの「あなたのアクセス情報」にあった内容だけです。IPアドレスその他ですね。

てっしー:
ふむふむ。何となく分かるのだわ!

レン:
裁判で開示請求が認められた場合、次の二段階を踏むことになります。
①Twitter社に手嶋さんのIPアドレスその他を開示してもらう。
②IPアドレスから分かったネット接続会社に、手嶋さんの本名や住所を開示してもらう。
(これが法改正で「ひとまとめ」になったりしましたが、割愛します)

てっしー:
あ、私は二段階認証のために、Twitterにスマホの電話番号を登録してるんだけど、それだとどうなるのかしら?

レン:
その場合は、Twitter社が開示する情報に電話番号が含まれる可能性があります。電話番号が分かったら、ネット接続会社ではなく、ドコモ・au・ソフトバンクなどの会社から本名・住所を教えてもらってもいいですね。まあ、手間としては同じなので、開示請求する側からすればどちらでもいいです。

てっしー:
……ひょっとして、私がTwitterに電話番号を登録しちゃったのって悪手だったの? 危ないことした?

レン:
別にそんなことはないです。Twitterに関しては、むしろアカウント乗っ取りなどのリスク回避のために、電話番号を登録して二段階認証を設定しておくのは良いことです。

ていうか、普通のブラウザで普通にアクセスした時点で、開示請求さえ通れば本名・住所に辿り着きますので、「電話番号のみ登録しない」は何の対策にもなっていません。無意味でしょう。

てっしー:
ふーむ。なるほどねぇ。……で、その状態って、Torを使うとどう変わるの? もしかして、ネット接続会社のデータから私の本名・住所を削除できるの?

レン:
どんな超能力!? 無理ですが!?……それがもし可能でも、ネットに繋がらなくなりますよ。

てっしー:
なら、どうなるの?

レン:
同じように絵で表すと、こうなります。

てっしー:
なんか間に気持ち悪いヤツが増えたのだわ?

レン:
本当は暗号化などもしていますから、もっと複雑なんですが……。ここでは話を単純にしましょう。ネット接続会社とTwitterの間に、中継ポイントを複数挟むんです。この状態だと、Twitterが知っているのは「Twitterから見て一つ手前」にある中継ポイントのIPアドレスだけです。手嶋さんに直通はしません。

てっしー:
本当にそうなるの?

レン:
なりますよ。いまの私のIPアドレスはこうです。あ、これは隠したりしなくていいですよ。

てっしー:
ふむ。確かに私のときは表示されてた、お馴染みのネット接続会社さんのお名前がないわね? でも、見えてるは見えてるわよ。ここに「お問い合わせ」して教えてもらえばいいんじゃないの? 裁判所さんに命令をもらってね。

レン:
まあそうなのですが、さらによく見て下さい。「berlin」(ベルリン)とある通り、このIPアドレスはドイツのものです。Twitter社が日本の裁判所からの開示命令に応じても、Twitter社はこのIPアドレスしか知りませんし、これしか出しようがありません。私にたどり着きたかったら、次はドイツの裁判所に訴えないと「その更に一歩手前」のIPアドレスも出てきません。しかも、そのIPアドレスすら、私にまだ直通ではありません。絵には3つ赤い丸があるでしょう?

私の状態をお見せしますと、Twitterに到着するまでに経由している国は、現在こうなっています。

順としては、私のパソコン→ネット接続会社→ポーランド→オランダ→スウェーデン→Twitterですね。開示請求するなら、これを逆向きに辿らないといけません。

てっしー:
は!? めんどくさ!! ていうかこれ海外経由してんの!? 

……ん。あれ? ドイツは? 最後はドイツのベルリンのはずでしょ?

レン:
あ、すみません。一定時間ごとに自動で中継ポイントが変わるので、もうドイツじゃなくなっちゃいました。

てっしー:
ええと、じゃあ、もし今の状態のレンさんに開示請求をかけるとしたら……。

レン:
Twitterに情報開示で提訴して「スウェーデンからだよ!」と教えてもらった後、スウェーデンで提訴して「オランダからだよ!」と教えてもらい、オランダで提訴して「ポーランドからだよ!」と教えてもらい、ポーランドで提訴して……ぜんぶ開示させて私にたどり着けば、やっと法的措置が取れます。

ちなみにスウェーデンで開示させないと、原告の人にとっては次がオランダであることも分からないです。

もちろん、それぞれの国の法律に合わせて開示が認められる必要がありますから、「日本の裁判所が命令したから」は必ずしも通用しません。時間をかけている途中でアクセスログの保管期間が過ぎていたら、開示が認められても追跡はできません。加えて、基本的にTorの中継ポイントはアクセスログを保管しないという方針を立てていることが多いです(守られているかはともかくです)。

てっしー:
あの、それって、「現実的にほぼ無理」って言ってない?

レン:
そうなります。正確には、追跡は技術的には可能だけども、事務手続き的には不可能という方が近いですかね。……まあ、技術的にも相当怪しいですが。ログが消えているか、そもそも存在しないことも多いでしょうし、加えて「中継ポイント間でどういう情報がやり取りされたか?」を秘匿する暗号化技術も絡んでいます。

実際にTor版Twitterを使ってみたい方は、私の記事を参考にしてください。

Tor版Twitterは、Twitter社が公式にTorの使用を前提として用意しているものです。「Torだから」を理由としてアカウントが凍結されることはないでしょう(もちろんTwitter利用規約に違反するツイートをすれば普通に凍結されます)。

Torの悪用、逮捕者について

てっしー:
んー……でもこれ、悪用が簡単すぎない? そこまで簡単に悪いことができるのかしら?

各国の警察だって「お手上げです!」のまま黙っていないはずでしょう? それに、匿名のなんちゃらソフトを使っていて逮捕されたとかいうニュースを見たこともあるわ。それがTorだったかは覚えてないけど。

レン:
Torかもしれませんし、何かのファイル共有ソフトだったかもしれませんね。確かにTorでも逮捕者は出ています。でも、Tor接続を「逆向きに辿る」ような方法で真正面から突破した事例は、少なくとも私は知らないです。

こっそりとどこかの国家機関でTor追跡が実現されていている可能性はありますが……日本の警察にその技術があれば、殺害予告や爆破予告での逮捕者は、間違いなく今の何十倍、何百倍も多いはずです。加えて、ネット検閲にためらいのない中国政府やロシア政府ですら、Tor利用を止められていません(Tor関係の中継ポイントをかたっぱしからブロックする、Torそのものを違法とする等していて、Torを使う難易度を上げていますが、完全には止められていないという意味です)。

てっしー:
逮捕者が出てるのに、突破はできてないってどういうこと? バレないなら逮捕もされないんじゃないの?

レン:
Torとは別のところでバレるんですよ。

いくつか主な原因があって、まずはケアレスミスですね。うっかり1回でもTorを経由せずに普通に接続して違法な何かをダウンロードしたり購入したりしたら、そのログが保管されている期間はバレます(このケアレスミスは先に自分で気づけばカバーできなくはないですが……詳細は伏せます)。

バレれば警察が来ますし、パソコンも証拠品として押収されます。そのパソコンにTorが入っていたら、報道記事には「Torの利用者が逮捕された」と書かれます。それ以上のことは警察も言いません。

てっしー:
ああ、まあ、その方が抑止力になるものね。暗に「Tor使ってても捕まるよ」って。私が警察でもそう発表するわ。

レン:
次が「手順が逆」のパターンですね。Torをきちんと使って――というのも変ですが、大麻だの覚醒剤だのを買ったとします。そこまではバレずに何とかやれました、と。ですが、ネットがどうとか関係なしに職務質問や「不審な郵便物」などで違法薬物の所持・購入がバレたりします。これまた当然に家宅捜索が入りますから、パソコンが押収され、「あ、購入にはTorを使ったんだ」と分かりますよね。これもまた「Torの利用者が逮捕された」です。

てっしー:
パソコンが押収されたらそりゃ終わりよね。根本の根本なのだわ。

レン:
あとは「不審なお金の流れ」ですね。いきなり銀行口座のお金が大きく増えたり減ったりすると、まず税金関係でバレます。しかも、何の収入や出費か分からないと余計に不自然です。たとえば、現金を仮想通貨に交換した後「何か」したみたいだとか、クレジットカードで海外のサーバーに「何か」のためのお金を払ったとか。そうしたお金の流れが(色々と条件付きですが)バチクソに怪しければ、家宅捜索のための捜査令状は出せる可能性があります。あとは同じです。

てっしー:
お金の流れは追われるに決まってるわよねぇ。でも、Torをちゃんと使っていれば大丈夫だと思っていいの? 気を付けられる人なら、悪い事しほうだい?

レン:
絶対にやめておいた方がいいです。「Torの正面突破」が難しいのはそうですが、「完全に不可能」ではありませんし、よしんば今は「現実的に不可能」でも技術革新によって明日どうなるかは分かりません。ネット以外の面における日本の警察の捜査能力は高いです。人間は必ずミスもしますから、そもそも危険なことはしないのが一番です。

また、日本を含む101ヵ国で締結されているサイバー犯罪条約もあって国家間連携も深まっていますから、Torはあくまで違法行為を行わない前提で、「シートベルト」や「救命胴衣」のように使用するべきです。シートベルトを装着していても、安全運転はするべきですよね?

私の使い方で言うなら、Twitterでの発言が誹謗中傷や名誉毀損・侮辱に該当しないように気を付けた上で、恫喝訴訟・スラップ訴訟から身を守るだけと割り切っています。

罵詈雑言は使いませんし、議論と関係のない容姿への中傷や人格攻撃はしません。殺害予告や爆破予告なんてのはもっての外です。

てっしー:
なるほどね。そして、恫喝訴訟・スラップ訴訟まわりの話は私もできそうよ! 最後にそのことを話しましょうか。

レン:
はい。ただ、Torの仕組みの解説は他のサイトにもありますし、「こういうものもある」くらいですが、ここから先の訴訟の話は、桁違いにヤバさがヤバいので、無料公開は控えましょう。分かってますよね。これからどういう話をするか。

てっしー:
……うん。まあ、めっちゃ分かってるわ。
(※今回の記事で頂いたサポートは、銀星レンさんと折半致します)

恫喝訴訟・スラップ訴訟について

てっしー:
さて。これはレンさんがリプライでたくさん言われているのを知っているのだけど、「誹謗中傷しない自信があるなら堂々として、スラップ訴訟を起こされても、きちんと裁判に応じて勝てばいい」という意見について、どうお考えかしら?

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