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ペドフィリアは性犯罪をしやすいか?~最先端の科学的知見~

ゆっくりしていってね!

先日、「ペドフィリアは性犯罪を起こしやすいのか?」という問題がTwitter上で話題になったわ。今回はこれがテーマよ!

で、いつも私のnoteをお読み頂いている方は、先にこう予想する(あるいは期待する)んじゃないかしら?

「どうせ手嶋だし、ペドフィリアが性犯罪を起こしやすいなんてことは無いと主張するんだろう」

ごめんなさい。私自身も否定論を書くことになるだろうと予想してたんだけど、論文調査とその内容の検討をした結果、「ペドフィリアが性犯罪を起こしやすい」は、ペドフィリアの定義が(俗語的なものではなく)ちゃんと医学的なものならば、可能性として科学的かつ合理的な範囲でありうるわ。

ペドフィリア研究が抱える困難性――典型的には、ほとんど性犯罪で逮捕された人たちしか研究できていない、実物の児童ポルノを使用した実験が倫理的に不可能である、統一的なペドフィリア診断が難しい(担当医師や検査手法によって診断結果が変わる)等――から、つねに確実な因果関係があるとは言えないのだけど、「ペドフィリアであること」が性犯罪を起こす主要な因子の一つに挙げられると主張されても、ただちに否定はできないのよ。

なぜか? そこをきっちりと今回のnoteで説明するのだわ。

ただ、リスク因子であっても、当然ながらペドフィリアの人々の権利保護は重要だし、とりわけ社会的スティグマを慎重に避けねばならないことを先にお話するわね。

ペドフィリアに関する神話、スティグマのリスク

ペドフィリア=悪というスティグマのリスクは、『後天性ペドフィリア:デルファイ法に基づく国際的合意ガイドライン(2023)』でもはっきりと明記されているわ。

(※診療ガイドラインの合意形成に用いられる「デルファイ法」に関しては吉田(2018)が日本語論文で理解しやすい。なお、上記合意ガイドラインでは不正な統計操作等の防止のため事前登録制も活用されている)

最後に注目すべき重要な倫理的懸念は、特発性ペドフィリアと後天性ペドフィリア(小児性愛的行動ではない)の両方に対するスティグマのリスクに関するものである。性犯罪を犯したことがなく、積極的に助けを求めている小児性愛者がいる以上、汚名を着せることは犯罪の防止につながらないため、避けるべきである。

Scarpazza, C., Costa, C., Battaglia, U. et al. (2023).

また、Moen(2015)は倫理学的な観点から、小児性愛=悪とする典型的な論を取り上げて個別具体的に批判し、「小児性愛が悪いのは、それが子どもに害を及ぼすからであり、その程度によってのみ悪いのであって、子どもに害を及ぼさない小児性愛的表現物やその消費は道徳的に問題ない」「小児性愛者が小児性愛的な内容の(創作の)小説やイラストを楽しむことは、説得力のある反論・反証がない限り、道徳的に許される」と結論しているわ。(ただし、後述するけど、性犯罪をせず創作表現を消費するだけの人は、医学的な「ペドフィリア」にはあてはまらない可能性が高い)

さらにペドフィリアにまつわる神話とスティグマのリスクに関しては、Glina et al.(2022)が系統的レビューとメタアナリシスの両方を実施して明らかにしているわね。

それによると、ペドフィリアについて7つのカテゴリーに分類される間違った神話――①責任の拡散、②虐待性の否定、③厳しいステレオタイプ、④被害者の年齢と結果、⑤社会的スティグマ、⑥懲罰的態度、⑦治療法――が蔓延しており、実在児童への性加害を防ぐためには、一般人にも正しい理解が広まることが重要であるとの見解を述べているわ。

予防政策を立案する際には、一般人の認識を考慮すべきことが示唆された。また、小児性愛者に関わる社会的スティグマや偏見の証拠が存在するため、そのような認知も対策・改善の対象とすべきである。このような現象は、小児性愛者の社会的、感情的、認知的問題を引き起こすだけでなく、虐待行動を起こすリスクがより高くなり、助けを求めにくくする原因になりうる。

Flavia Glin, Joana Carvalho, Ricardo Barroso Daniel Cardoso (2022)

まあ当然よね。真っ当な医療機関・医師に「障害」(disorder)であると診断された人たちに制裁的な非難に加えても、小児の性被害が減る訳でも、障害が治る訳でもないでしょう。前向きな効果が望めないことをやるのは単なるイジメだわ。

ペドフィリア(Pedophillic disorder)の認定条件は厳しい

では、ペドフィリアが児童の性被害に対するリスク因子である点について説明しましょう。

私はこれまで複数の論文をもとに、暴力的表現物や性的表現物について「犯罪を引き起こす」ような強い因果関係や直接的で大きな悪影響を否定してきたわ。

それなのに、なぜ今回、一体どのような科学的背景が異なるために、ペドフィリアでは「因果関係すらありうる」と言うのか?

最大の理由は、DSM-5やICD-11で定義されている医学的な意味でのペドフィリア、すなわち小児性愛障害(Pedophillic disorder)の診断条件は――MSDマニュアルの「小児性愛障害」(Brown, 2019)および今回私が調査した小児性愛障害に関する論文に記載のあった診断時の注意点等を含めて総合すると――クッソ厳しいからよ。

マジでめっちゃ厳しい。

例えば、上記MSDマニュアルにも、「違法な児童ポルノを広範に使用しているだけでは、小児性愛障害の診断条件を満たさない」旨が明記されているし、現在、標準的なペドフィリアの検査法であるプレチスモグラフィー検査(ファラメトリー検査)に関しても、小児性愛傾向の判定は統計的に有意な水準で可能と認められるものの、複数の未解決問題を抱えていて、本検査結果のみで診断していいとはされていないわ(Blanchard et al., 2001; Muller et al., 2014; Bickle et al., 2021)。

そもそも、「あなたは小児性愛障害、ペドフィリアです」という診断を出すことで、冒頭で述べたように、患者の社会的スティグマになり新たに別のリスクが顕在化する問題も医師に認知・共有されているから、ペドフィリア診断を出されるのって、現代医学に近づくほどそうそう無くなってるのよ。(昔はもう少し緩い条件でも認定されていたと思われる)


それこそ、現実に小児への性加害を繰り返していても、やっぱりそれだけではペドフィリアではないのよ(Yana et al., 2009)。

だって、「非力で判断力、行動力に乏しいから小児を狙っただけで、別に"小児が好み"ではない。同じ条件を満たしていて、選べるんだったら断然スタイルのいい20代女性の方が良かった」とかあるからね。実際、小児への性加害者の約70%はペドフィリアではなかったという報告もあるわ(Seto et al., 2006)。

非常にざっくり言ってしまうと、最先端の知見まで考慮するなら、ペドフィリア診断を出して良いとされるケースは、ほぼ「小児に対する性犯罪を既に実行したか、これから実行する懸念が現実的に切迫していて、かつ、それがたしかに本人の小児性愛傾向に由来すると、現代医学の水準に照らして十分認められる時」くらいなのよ。

(最先端まで追っていない個々の医師の判断はともかく、小児性愛に関する研究論文は、全体としてほぼ100%この方向で動いているわ)

「ペドフィリア」って、この猛烈に高いハードルをクリアしてしまった人たち――という表現も変だけど、つまりはそういう事だから、「ペドフィリアは性犯罪を起こしやすい」と言われたら、私でさえ「確かにそうかもしれない」という答えになっちゃうわけ。

「ペドフィリア」の診断基準そのものに、「専門医からみて、性犯罪を起こしそうかどうか」が実質的に含まれているって感じね。

これを母集団にして統計分析したら、まあ性犯罪傾向と一定以上の高い相関が出るのは殆ど自明だし、因果関係も否定しえないでしょう。

加えて、ペドフィリアには特発性ペドフィリアと後天性ペドフィリアという分類があって、後者のタイプにはほぼ確実に犯罪行為と因果関係があるのよ。

後天性小児性愛行動(以下、簡潔にするために後天性ペドフィリアと呼ぶ)とは、神経学的由来の脳障害の症状として、小児性愛的興味や衝動の再来を指す [9, 10]。後天性ペドフィリアの発症は、前頭側頭型認知症 [11, 12]、外傷性脳損傷 [13]、外科的病変 [14]、 脳 [15] またはノトコルド [16] の新生物、および多発性硬化症 [17, 18] の結果として、これまであからさまに小児性愛的な振る舞いを示すことがなかった人々で報告されている。

Scarpazza, C., Costa, C., Battaglia, U. et al. (2023).

後天性ペドフィリアは、上記にあるようないずれかの原因によって、脳・神経系が物理的に壊れてしまって、健康なときにはなかった小児性愛傾向が現れたタイプのペドフィリアよ。(逆に「特発性」は、その症状が現れる生理学的原因が特定できないことを指す)

これに該当する人たちは、ほとんどのケースにおいて、自己制御能力も脳・神経レベルで失っているわ。だから性犯罪も起こしてしまう(もっとも、該当する場合は、少なくとも先進国では刑事責任は認められない。なぜなら「重度のうつ病でまともに働けない」や「足を複雑骨折してるから歩けない」と同じだから)。

冒頭で紹介した『後天性ペドフィリア:デルファイ法に基づく国際的合意ガイドライン(2023)』は、脳・神経に異常が認められない特発性ペドフィリアと、この「本人に責任がない」後天性ペドフィリアを区別するべきだという提言がメインのガイドラインよ。おそらく、次のDSM-6では両者の区別が反映されるでしょう。

逆にいえば、今は一部の研究でしか両者が区別されておらず、ペドフィリアかどうかの診断でも、「脳・神経系の物理的異常に由来するペドフィリアでないか、脳機能イメージング法等の利用により必ず調べて下さい」とは定められていないから、同じく「ペドフィリア」としか呼ばれないわ。

加えて、現状の特発性ペドフィリアも、単に現代医学の技術的限界で「脳・神経に異常がある」と検知できないだけで、本当は後天性ペドフィリアに分類すべき人たちが含まれている可能性があるわ。

今日に至るまで、科学界および臨床界は、小児性愛/小児性愛的行動をとる患者をどのように評価するかについて、明確なガイドラインを欠いているのが現状である。実際、小児性愛的傾向が精神医学に由来するものなのか、それともむしろ根底にある神経学的障害を反映しているのかを識別することは、いまだに非常に困難である。最近の論文では、後天性小児性愛患者の行動プロファイリングの可能性が示唆されているが [60] 、専門家間のコンセンサスはまだ得られていない。

Scarpazza, C., Costa, C., Battaglia, U. et al. (2023).


ほとんどの人はペドフィリアではない

私は専門医ではないから、個別にペドフィリアかどうかの判断は下せないけど(※医師法違反)、あくまで素人の憶測的見解だと前提したうえで言うと、いくらFANZAやFantia、pixivBOOTH等で創作物のロリポルノを長年にわたって買いあさり自慰をしていようと、また、幼稚園児や小学生との性行為を単に妄想していようと、おそらく現代医学ではペドフィリア診断は出ないわ。

――ただ、違法な実写児童ポルノ・児童性虐待記録物を入手しては、それで自慰を繰り返していたり、小児への性加害を行うための具体的な犯行計画を練り始めたりしているなら、ペドフィリアの可能性があるかもしれないわ。性犯罪ギリギリか、もう法のライン越えを起こしているのなら、病院へ行くか警察に自首する等の適切な対応をしてね。


俗語の「ペド」「ロリコン」と「合法的なフィクションの児童ポルノ」の関係

今回の私は「ペドフィリアと性犯罪との因果関係は、科学的・合理的な範囲でもありうる」としたけれど、これは現代医学に基づくペドフィリアに限定した話よ。

よく表現規制派フェミニストが言う俗語としての「ペドフィリア」または「ロリコン」(いずれも非常に対象範囲が拡張されている)、および「合法的なフィクションの児童ポルノ」については、性犯罪との因果的かつ深刻な影響を示すデータは私の知る限りは無いし、今後も科学的に妥当な方法では出てこないだろうと主張するわ。

それに「フィクションで楽しんでいる程度の人たち」をペドフィリアに含めるなら、今あるペドフィリアと性的問題行動の関係についてのデータも崩壊するでしょう。

だって、「その程度の人たち」、すなわち「合法的に購入・所持が可能な、フィクションの児童ポルノの消費しかしてない人たち」は、現代医学の厳密なペドフィリアよりも、「人数」がめーーーっちゃ圧倒的に多いのよ?

すると、データは事実上、この人々の行動傾向で埋め尽くされてしまうわね。「真のペドフィリア」は「データ分析上、いないも同然」の存在になる可能性が高いわ。たぶん性的問題行動との相関関係や因果関係は検出されなくなるでしょう。

もう少し慎重論を採るとしても、相関が小さくなる方向に動くのは間違いないでしょう。ペドフィリアの定義を拡張しておきながら、拡張前の相関を維持できる理由はもちろん、ましてや大きくなる理由なんて私には全く思いつかないのだわ。

もちろん、これは予想だから研究してみないと確実とは言えないけれどね。暴力的ゲームや過激なポルノの影響についての論文を参考にすると、まあそうなるという予想を述べるのはいいでしょう。


最後に

小児性愛者の人権を守りましょう。そして当然、児童が性被害に晒されることからも守りましょう。

優先度としては、どうしたって「児童の性被害を防ぐ」が高くなるのは私も理解するし、賛同もするのだけど、そのためにも、科学的に妥当な知見に基づいて、きちんと効果があると合理的根拠がつくことをやりましょう。

小児性愛に限らず、スティグマを押し付けてボロクソに叩き、社会から孤立させても、あるいは創作物を規制しても、「ああ、性犯罪がそのおかげで減った」という効果が確認されたことはないのだわ。そう示唆する論文は少なくとも私の手元にはない。

さて。これは本論とは関係ないんだけど……。

本記事の内容は、複数の論文を私なりにかなり調べて、相当の手間とお金がかかっているのだわ。でも、今回はどうしても「全文」の内容を知って頂きたいし、中途半端だと誤解を広めるおそれもあるから、無期限に無料としたわ。

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科学論文を「最初からすべて正しく」まとめ切るのは、私としてはどんなに力を尽くしても、ミスや抜け漏れも出るし、過去にもご指摘をいただいては更新履歴をつけて修正を行っているわ。

もし余裕があれば、ご支援いただければ幸いよ。
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