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心理学の実験室実験とAPAレポート覚書~水着着用で数学のテストが悪くなる?~【ゆっくりコラム Vol.3】

ゆっくりしていってね!!!!

そのうち書く書くと言いながら、まだ書けていないやつのお話をちょっとだけするのだわ。

アメリカ心理学会が2007年に出した『Report of the APA Task Force on the Sexualization of Girls』について批判的に扱う予定なのだけれど、今回はその準備体操として、いわゆる「心理学実験」の結果を解釈・活用するときの難しさを説明しておくことにするわ。

心理学実験っていっても色々なんだけど、ここでは特に実験室実験を扱うわ。

まー、実験室実験で最も典型的に行われるのが、たくさん人を集めて、暴力的なゲームを30分プレイするグループと、非暴力的なゲームを同じく30分プレイするグループにランダムに振り分け、「暴力的なゲームをプレイすると、人は暴力的になるのか?」をテストしてみるランダム化比較試験というやつね。

これを行うと、一応、その実験室環境では因果関係が示されることになってるんだけど、現実世界にどこまで適用していいのかがビミョーなのよね。

この話は以前もしたけれど――たとえばマリオカートをプレイして、赤コウラを3連続で喰らって、1位から12位まで一気に落ちたらめっちゃムカつくわよね?

あるいは、Minecraftで苦労して集めた素材をマグマダイブで全ロストした時でもいいし、エリトラで飛行中に壁に衝突して死んだ時でもいいわ。(この記事を書いている30分前に私の身に起きた不幸な出来事よ……。)

ともあれ感情的になっているものだから、直後に人に話しかけられた時にはちょっと八つ当たりしてしまったりとか、あるいはそこまでじゃなくても、普段より冷たい対応になるでしょう。

じゃ、このマリオカートやMinecraftで実験した結果をもって、「マリオカート(またはMinecraft)は人を暴力的にする効果がある」と言えば、まあそりゃ嘘ではないわよ。

でも、この知見が「現実世界における私たちの意思決定」にどう役立つのかっていうと、「うーん……?」って感じよね。

別にテレビゲームに限定する必要もないわ。サッカーでも野球でも、残念な負け方をすればそれなりにストレスは生じるし、チームプレイのスポーツなら、人間関係のトラブルに発展することもあるわね。また身体を動かす以上は怪我をする可能性なんかは当然増えるでしょう。

熱心なサッカー部員は、熱心な帰宅部員に比べてたぶん1000倍くらい捻挫しやすいけれど、じゃあサッカーすんなって話になるかというと、そうはならないものね。

もちろん、ストレスやフラストレーションの度合いがどれくらいかを研究することが無意義だとは言わないわ。けれど、心理学の実験室実験で一面的に検出された「悪影響」「危険性」を現実に応用する時は注意が要るってことね!

水着を着ていると数学の点が悪くなる?

APAレポートで紹介されている論文の一つでは、「セーターを着せた場合と水着を着せた場合では、15分間の数学のテストを受けさせた際、女性において数学の試験結果が悪くなった」という結果を示したものがあるわ。

でも、これ実験設計の時点でけっこうツッコミどころがあるわよね。

まず「水着を着ること」=「性的モノ化ないし性化されている状態になること」という置き換えは成立しているのかしら?

水着って、グラビアアイドルが着るような、あえて煽情的なデザインしてあるものを除けば、性的になるための服装ではなくて、泳ぐための服装よね。

数学のテストを受ける時に水着を着ることは有り得ないし、研究の趣旨からすれば、陸地用の露出の高い服装(たとえばノースリーブのシャツとホットパンツ)のほうが適切でしょう。

ネットで適当に写真を探すとこんな感じね。

露出高めの服装の一例

もしこの程度の服装では数学のテストを解く力に有意差が出ない(検出できない)なら、それはもう現実世界では大して影響はないことと同義になるわね。

ついでに、数学のテストを解くのに与えられた時間がたった15分というのも気になるわ。これを30分や60分にすると、水着という変な恰好への「動揺」が収まって、セーターを着た場合との有意差が出なくなる可能性はあるわね。

まあ、このように「いかがなものか?」と思うけれど、とにかくこの研究での結果はこうなったわ。

Fredrickson, B. L., Roberts, T.-A., Noll, S. M., Quinn, D. M., & Twenge, J. M. (1998)

ざっくり言えば、水着を着せるという性化(Sexuzaliation)をしたことによって、数学を解く力が低下したという主張をしている訳ね。

男性では水着のほうが数学のスコアが上昇しているけれど、著者らは「有意差ではない」としているわ。(じゃあエラーバーを描いておけよと思うけども)

この研究結果からは、①通常有り得ない「水着」という極端な服装で、②ごく短時間の数学のテストを解かせると、③女性のほうで数学のスコアが下がる――という主張までしか出来ないわ。そのうえ、「水着の着用」が「自己性的モノ化・性化」を意味しているかも謎よ。

いや、謎というか、もうぶっちゃけ間違ってると思うわ。

論文では、タイトルにもあるようにSelf-Objectification(自己性的モノ化)を実験したのだという話になっているけれど、水着の着用は、マーサ・ヌスバウム的な性的モノ化の定義には該当しないわよね。(もちろん、ヌスバウムさんにだけに性的モノ化の定義を決める権利があるわけではないとしても。)

7つの条件(すべて同時に満たす必要はない)を思い出してみましょう。

1 .道具性(instrumentality)。ある対象をある目的のための手段あるいは道具として使う。
2 .自律性の否定(denial of autonomy)。その対象が自律的であること、自己決定能力を持つことを否定する。
3 .不活性(inertness)。対象に自発的な行為者性(agency)や能動性(activity)を認めない。
4 .代替可能性(fungibility)。(a)同じタイプの別のもの、あるいは(b)別のタイプのもの、と交換可能であるとみなす。
5 .毀損許容性(violability)。対象を境界をもった(身体的・心理的)統一性(boundaryintegrity)を持たないものとみなし、したがって壊したり、侵入してもよいものとみなす。
6 .所有可能性(ownership)。他者によってなんらかのしかたで所有され、売買されうるものとみなす。
7 .主観の否定(denial of subjectivity)。対象の主観的な経験や感情に配慮する必要がないと考える。

水着の着用って、1~7のどれにもカスりもしないわよね。

結局、この研究って、性的羞恥心の男女差を短時間について計測したに過ぎないと思うわ。

で、これがAPAレポートで、ある種「重要な結果」として紹介されているわけで、他に出されている論文もほぼ同様だから、さほど真剣に捉えるものではないと思うわ。まあ、このあたりの詳細なお話は本格的に批判記事を書く時に扱いましょう。

今回は以上!

なお、本記事は月額課金マガジン第3弾として書いたわ。全文無料で3つの記事を書こうという予定だったので、次回からは有料マガジンにするわ。(無料で楽しみにしてくださる方々はごめんなさい! でも、登録してくださるととても励みになるわ!)

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