CMなんて大嫌いだ
1996年。
それは、まだ僕が幼稚園だった頃。
ぼーっとテレビを観ていると、
キンチョーのCMが流れてきた。
テレビの中では、
父親がゴキブリの衣装を着て、
白ホリの真ん中敷かれた、6畳ほどの畳の上で倒れている。
(注 父は辻中達也。CMプランナー。1999年 TCC入会。)
「ゴキブリキューで、バッタンキュー。
バッタンキューの、ピークピク。
ゴキブリキューで、バッタンキュー。
バッタンキューの、ピークピク。
ゴキブリキューで、バッタンキュー。
バッタンキューの、ピークピク。
・・・・退屈?」
今でも鮮明に覚えている。
地獄の30秒。
次の日、幼稚園では親から聞いたのか
「てるくんのパパはゴキブリ」という
パワーワードが飛び交っていた。
この世界には、たくさんの子がいる。
警察官の子。
パン屋さんの子。
建築家の子。
その中で、僕はゴキブリの子に選ばれたのだ。
「ゴキブリの子。」
この事実と向き合って、
これから生きていかなければならないのだ。
ある日の夜。
父と母と3人でカレーを食べているときに、
そんな思いがこみ上げてきて、急に涙があふれてきた。
「てる、どうしたん?!」
と母が心配そうに尋ねる。
僕は泣きながら父に聞く。
「なんで、お父さんゴキブリなん?」
父はちょっと笑って
「ごめんなぁ。」というだけだった。
CMよ。もう流れないでくれ。
そんな僕の思いは届かず。
今日もCMは流れる。
大好きな、ポケモンの間に。
大好きな、るろうに剣心の間に。
大好きな、ドラゴンボールGTの間に。
日本中に向けて、
「ゴキブリキューで、バッタンキュー」
が響きわたる。
CMなんで大嫌いだ。
僕は心の中で叫んだ。
20年後。
自分も父と同じCMプランナーになるなんて知らずに。
2019.09.09 TCCリレーコラムより
https://www.tcc.gr.jp/relay_column/id/cm%E3%81%AA%E3%82%93%E3%81%A6%E5%A4%A7%E5%AB%8C%E3%81%84%E3%81%A0/
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