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てるるな話 第一葉 てるる誕生

①プロローグ

彼はもう何十億年も前から、ただひたすら燃え続けていた。
彼には先輩もいないし、妻もいない。先祖はあるかもしれないが、天文学度が過ぎるので、考えるのはやめた方がいい。
彼にはしかし、憧れの存在がいるし、楽しみもあるので、そんなに孤独ではないから心配しないでほしい。
第一彼は、地球上の生命の源。彼が我々を心配することがあっても、我々が彼にそのような思いを抱くことなどおこがましくて出来っこない。

人は彼のことをこう呼んでいる。

・・・・・・太陽先生。


②てるる誕生
ありえないくらいゆるいBGMが聴こえないだろうか? 
さすが太陽先生を取り巻く空気は違う。それはもはや、空気ではないのかもしれない。そんな空気っぽい何かに取り巻かれた気の緩んだ太陽先生が、あろうことか日向ぼっこをしている。実はこれ、いつもの光景だというのだから、人知を超えている。
「ん〜、暇じゃ。そうだ、ダンスでもしよう。ワン、ツー、ワンツースリーフォー。ドゥビッ、ドゥビッ、イエー! イェー! うはははははは! ……ふう」
ダンスもそれなりに様になるが、太陽先生ほど壮大な存在にとってそれは、たいした暇つぶしにはならないことは明白。
「暇じゃ。いったいあと、何十億年この暇をつぶし続けなきゃならんのだ。ああ、暇死にする。わしは太陽先生じゃぞ! えらいんだぞ! わしがいなくなったら、みんなすんごい困るんじゃぞ。があ! わしがこんな目にあっているというのに、世の中の連中はなにをやっておるのだ! 」
その時だった。
太陽先生の目に、ある物達が映ったのだ。

それは、地球のとある国の空き地に転がっているハリガネと布だった。

「なんじゃあいつらは! なぁぁぁんもしとらんではないか! わしへのあてつけか! 許さんぞ。許さんから、許さんの歌を歌ってやる。ゆるさんぞ〜♪ ゆっるさんぞ〜♪ ほれ、お前たち、手拍子でもせんか。踊りたかったら、リズムにのって、上下左右にゆれていいんじゃぞ。ジャジーに! ゆるさんぞ〜♪ 」

微動だにしないハリガネと布。

そして、三十一年が経った。

「ゆるさんぞ〜♪ ほんっとに、ゆ〜るさんぞ〜♪」
太陽先生はまだ歌っているし、ハリガネと布は昔より少し見劣りするけれども、ただひたすら、そこにあり続けている。太陽先生は歌うのをやめ、上がった息を整えた。
「・・・・・・お前たち、すごいな。なぁぁぁんもせずにただずっといることができるなんてな。とんでもない暇人じゃなあ。好きじゃ。わしはそんなお前たちが、気に入った。弟子にしてやろう。そんで、わしと一緒に暇人生活を送るのじゃ! さあ、わしに似て、かっこよくてかっこよくてかっこよくて常に光り輝いている姿形にしてやるぞ〜。一蓮托生ビーム! 」

「てるるだよ」
ハリガネと布は、形を変え、いわゆるてるてる坊主の姿になった。顔には、愛嬌のある下がり眉とつぶらな瞳。間抜けにも、悲哀にも受け取れる表情だ。

「わしに全然似てない!」
太陽先生は、てるると同じ眉をぴくぴくさせながらそう言った。

こうしててるるは、太陽先生の暇つぶしの相手として誕生したのだった。

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