網膜色素変性症と診断されたら今後のために知っておいてほしいこと

もしあなたが網膜色素変性症と診断されたのだとしたら、きっと将来への不安でいっぱいだと思います。僕が14歳で診断されたときも、自分でもよくわからない悲しみと絶望感でいっぱいでした。それから25年経ち、いろいろなことを経験しました。「先に知っておけばよかった」、「これを経験できてよかった」と思ったことをこの記事にまとめました。先に知っておけば心づもりができます。情報として得た上で、状況に合わせて今後の生活に活かしてもらえたらうれしいです。


網膜色素変性症とは

まず、網膜色素変性症の特徴をざっくりと書きます。この病気の初期症状は夜盲症です。光の少ないところで見えづらさを感じます。そして、進行性の病気で、徐々に視野が狭くなっていきます。と同時に視力が低下したり、白内障になったりします。そして、今のところ治療法がありません。また、発症する年齢と進行の速度が人によってかなり異なります。発症して数年で失明する人もいれば、僕のように発症して25年以上経っても視野と視力が残っている場合もあります。網膜色素変性症について説明しているページは多数ありますので、詳しくはそちらをご確認ください。

仕事~目が見えなくても好きな仕事をしてほしい~

診断されたときの年齢にもよりますが、すでに働いている方であれば、これからどう生計を立てていくかということが一番の不安ではないでしょうか。

もし今の仕事が好きな仕事だとしたら、目が見えなくなってもその仕事やその業界に関われる形を考えてみて下さい。近年、お金の稼ぎ方は多種多様です。すぐには答えが見つからないかもしれませんが、せっかく見つけた好きな仕事をすぐにあきらめるのはもったいないです。少し酷ですが、どうせこの病気と長く付き合っていくのだとしたら、自分の好きな仕事をしている方が幸せです。

もし今の仕事が好きな仕事でないとしたら、網膜色素変性症の診断を転職のきっかけとして捉えてみてはいかがでしょうか。自分のやりたい仕事について、じっくり考える良い機会になるはずです。このとき、「目が見えないから、このくらいの仕事しかできないだろう」という考え方もありますが、「目が見えないけど、この仕事をやってみたい」と考えることもできます。先ほども書きましたが、どうせ目が見えなくなるなら、好きな仕事をしている方が幸せです。

障害者手帳~知って得する様々な支援~

診断されて間もない時期に障害者手帳のことを考えるのは気が重いかもしれませんが、いずれ通る道なので知っておいて損はありません。知識を得た上で手帳を取得するかどうか判断するのが得策です。

手帳を取得するメリットは、何と言っても経済的支援です。手当(お金)をいただいたり、税控除をしてもらえたり、医療費が1割負担になったり、タクシー代が1割引になったり、様々な支援やサポートを受けることができます。本当にたくさんあるのでここでは書ききれません。

国によって提供されているものは住んでいる場所に関係ありませんが、自治体によって提供されているものは住んでいる場所によって内容が異なります。詳しくは、お住まいの自治体のホームページを確認するか、電話で問い合わせてみてください。

参考として、東京都港区のホームページのリンクを載せておきます。このページは、障害者の受けられるサポートが一覧になっていてよくまとまっています。

病院~どの眼科でもいいというわけではない~

すべての眼科医さんが、網膜色素変性症や障害者手帳の等級に詳しいわけではありません。ある眼科で「この症状では障害者手帳を持つほどではない」と言われても、正しい知識のある眼科では「すでに視野障害2級です」と言われることがあります。

適切な眼科を見つけるには、自治体に問い合わせて「障害者手帳の申請に必要な診断書を書いてもらえる眼科を教えて下さい」と尋ねて下さい。

この記事を読んでいる方の中には、「地元の病院より大病院の方がいいのでは?」、「大病院なら何か治療法があるのでは?」と思う方がいるかもしれません。実際に僕は東大病院に行ってみましたが、東大病院に行っても治療法はありませんでした。その際、経過観察を受けるためだけに多くの時間と労力を費やしました。かかる負担を考えると、自宅から行きやすくて、あまり大きくない病院がベストです。

障害基礎年金~65才以上でなくても年金はもらえる~

年金=高齢者がもらうもの、と思っている人が多いと思います。しかし、障害基礎年金は、60才以上や65才以上でなくても受け取ることができます。

ただし、障害者手帳を持てば障害基礎年金をもらえるというわけではありません。障害者手帳の申請とは別の診断書と申請が必要です。障害基礎年金には1級と2級があり、受け取れる金額が異なります。身体障害の1級・2級と障害基礎年金の1級・2級は判断基準となる症状の程度は似ているそうです。そのため、身体障害の1級・2級と診断された場合は障害基礎年金の1級・2級と判断される可能性は高いようです。

詳しい要件や金額は、こちらの年金機構のページを確認してください。そして、「自分の場合はどうなんだろう?」と思ったら、自治体に問い合わせてみてください。

役所~先に電話で問い合わせよう~

障害者手帳の申請などについて相談したくなったら、まずは住民票のある自治体に電話で問い合わせてみましょう。そして、役所に行かなくても得られる情報や送ってもらえる書類があるなら、できる限り電話で済ませることをおすすめします。なぜなら、僕は諸々の手続きのために役所と自宅を何度も往復して大変だったからです。人によっては役所が遠いところにあるでしょうし、一人で行くことが困難な場合もあります。役所に行ってみたら必要なものが足らなかったということもありましたので、役所に行く前に先に電話で確認しておくことをおすすめします。役所に出向く回数を少しでも減らせるなら、それに越したことはありません。

白杖(はくじょう)~使い始めると便利さがわかる~

視覚障害者と言えば、白杖を思い浮かべる人は多いのではないでしょうか。しかし、実際に自分が使うとなると抵抗感がある人は多いはず。僕自身、白杖を使い始めたとき、周囲の目がとても気になりました。針のむしろにいるような感覚がしました。声をかけてもらって助けてもらいたいという気持ちがある一方で、じろじろと見られるのはイヤという気持ちもあり、つらかったです。

一方、使い始めてみるとわかりますが、使ってみると本当に便利です。何かにぶつかって怪我をするのではないかという不安がかなり軽減されます。昼間は何とか歩ける人でも、網膜色素変性症の人は夜盲症もありますから、夜間の歩行のために白杖を携帯しておくのも良いでしょう。僕がまだ白杖を使っていなかったとき、夜に電信柱に衝突したり、縁石につまずいてこけたりして、何度も怪我をしました。そんな実体験があるので、抵抗感がある人でも命を守るために白杖を携帯しておくことを強くおすすめします。

ちなみに、障害者手帳を取得すると白杖が勝手に送られてくるということはありません。障害者手帳を取得するしないにかかわらず、誰でもいつでも白杖を購入することができます。僕はまだ障害者手帳を持っていないときに最初の白杖をネット通販で購入しました。もし障害者手帳を持っていれば、白杖の購入費用を自治体が負担してくれます。詳しくは自治体にご相談ください。

治療法~死ぬまでには治るかもしれない~

この記事を書いている2019年12月現在、網膜色素変性症の治療法はありません。しかし、同じく網膜の疾患である滲出型加齢黄斑変性に対するiPS細胞を用いた臨床研究が進んでいます。僕は現在39歳ですが、僕が死ぬまでには治療法が確立されると予想しています。

また、いわゆる西洋医学上は治療法がないと言われていますが、この世界に治療法が存在しないと決まったわけではありません。この方法なら治るという話を聞いたことはありませんが、世の中にはいろいろな代替医療があります。いくつか試したことがありますが、試したことで進行が遅くなったのか。少しは改善したのか、はたまた悪くなったのかがよくわからないのが悩ましいところです。しかし、特に代替医療は治療法との相性が人によって異なると思うので、もしあなたが「試してみようかな」と感じるものがあったら試してみてはどうでしょうか。

心~最も大切な部分~

この病気と付き合っていく上で最も大切な部分が、自分の心です。みんなが持っているものが自分にはない、これまでできていたことができないということで、様々なネガティブな感情を感じます。悲しみ、不安、怒り、恥、絶望、孤独、焦りなど、書いているだけでもしんどくなる言葉ばかりです。この病気と生きていくということは、これらの感情とどう向き合い、どう折り合いをつけていくかということでもあります。

個人差はありますが、これらの感情と折り合いをつけていくにはある程度の時間が必要です。時間が経てば経つほど、目が見えない状態での生活に慣れていきます。慣れれば慣れるほど、気持ちがラクになっていきます。どんなに慣れてもしんどい局面があるのは事実ですが、それでも最初の頃より断然ラクです。だから、今つらいと感じているとしても、「きっと時間が解決してくれるだろう」という考えをどこかに持っていてもらえたらと思います。

家族・友人・恋人~自立と依存のバランスが大事~

網膜色素変性症と診断された人の中には、人に頼ることに抵抗がある人がいると思います。例えば、仕事を転職するまで実家に住ませてもらうとか、友達に相談するとか、彼氏や彼女に生活を支えてもらうということに躊躇(ちゅうちょ)するのではないでしょうか。その気持ちは僕の中にもあります。しかし、あなたの親友が誰にも頼らずに一人で頑張っていたら、「どうして頼ってくれなかったの?」となりませんか。人に頼るのは申し訳ないと感じるかもしれませんが、頼られた側は結構嬉しかったりもします。

逆に、目が見えないことによる不自由さを誰かに補ってもらいたい、誰か助けてくれないだろうかという気持ちがむくむくと出てくるということもあります。それは自然な感情です。とは言え、何でもかんでも相手に頼ると、相手に負担になることもあります。この辺りは、その人との関係性とコミュニケーションによって如何様にも変化します。

僕の考えとしては、一人でできることが少ないと不自由なので、それはそれで困ります。自分でできることのバリエーションは多い方がいいと思います。でも、しんどいときは人に助けを求めることが大切です。目が見えていたとしても、自由に人に頼ったり頼られたりできた方が幸せです。

仲間~同じ病気だからこそわかりあえることがある~

同じ病気の人との出会いは、孤独感や悲しみを和らげてくれます。同じ病気の人がそれぞれの置かれている状況で生きている姿に触れることで、得られるものがあります。診断されて間もない時期はそこまで気が回らないかもしれませんが、いつか接点を持ってもらえたらと思います。きっといろいろな気付きがあるはずです。

僕の場合は、掲示板のオフ会に参加したり、ブラインドサッカーをやったり、地域の視覚障害者の集まりに参加したりしました。同じ病気でも、性格や背景は人それぞれです。明るい人、寡黙な人、よく喋る人、活躍している人、自営業の人、いろいろな人がいて、どの出会いも刺激になりました。この病気になってなかったら出会わなかったと思うと、不思議に感じます。

LINEのオープンチャットに「網膜色素変性症コミュニティ」というのがあります。ニックネームで参加できるので、同じ病気の人とのつながりの場所として参加してみてはどうでしょうか。以下にリンクを貼っておきます。

スマホとパソコン~アクセシビリティ設定でより使いやすく~

現代人にとって欠かせないスマホとパソコン。目が不自由な人にとっても欠かせないツールです。僕は、AppleのiPhoneとWindowsのノートPCを使っています。白黒反転や画面読み上げ、拡大鏡を駆使すれば、目が見づらくてもこれらのデバイスを使いこなせます。ちなみに、視覚障害者の多くがアンドロイドのスマホではなく、AppleのiPhoneを使っています。

まとめ

この記事では、網膜色素変性症と診断された人が生活を整えていく上で必要なことや大切なことを書きました。手続きや制度のことはできるだけ正確に書いたつもりですが、もし間違っていたらごめんなさい。時間が経つと状況が変わる部分もあると思うので、その点もご容赦ください。

たくさん書いたので、「こんなにやることがあるのか…」と思われた方もいるかもしれません。冒頭にも書きましたが、知識として持っておいた上で、行動するかしないか、いつ行動するかを選択してもらえたらと思います。

この記事を読んでいる方の中には気持ちがどん底まで沈んでいる方がいるかと思いますが、この先ずっとどん底のままということはありません。今は信じられないかもしれませんが、これから先、つらいことや悲しいことだけではありません。焦らず、ゆっくり進んでいきましょう。

中川テルヒロへのご相談

もし中川テルヒロに相談したい、話を聞いて欲しいという場合は、以下フォームからお申し込みください。手続きの細かな情報は持ち合わせていませんが、将来への不安や絶望感に対しては支えになるお話ができると思います。また、ご本人でなく、ご家族や親しい方でこの記事を読まれている方もいらっしゃると思います。本人のご家族や親しい方でもお気軽にお申し込み下さい。


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