NMTは単なる営業機会

Google が Neural machine translation (NMT) を採用したことをきっかけに、NMTが従来の機械翻訳よりナチュラルな文章を作り出すことを、一般の人々まで知るようになった。そして機械翻訳を売り物にした翻訳システムの販売が加速している感がある。

先日、某社が企業向けに行ったAI機械翻訳システムの説明を聞く機会あった。

説明内容の主たるものは、従来からある翻訳統合管理システムや翻訳支援ツールのそれとまったく変わらない。用語の管理や Translation memory (TM) の利用など、従来からあるものとなんら変わらない印象だった。

そして、肝心のAI機械翻訳の説明はどうなったかといえば、その営業担当者の説明文句によると「国際規格のようなもの」を用いて、人工知能を使った機械翻訳と人間翻訳を比較した結果がXX%の精度であるという説明と、機械翻訳されたサンプルを投影して(読ませることなく)流す程度の説明で終わってしまった。

つまり、自社開発したという「人工知能を使った機械翻訳」の翻訳品質を具体的に見せて説明することはなく、ひたすら、システム利用による翻訳プロセスの効率化と統合的な翻訳環境の優位性の説明に終始していた。これでは、従来の翻訳支援ツールの説明となんら変わりがない。聞いているこちらは「こんなシステムは以前からある」としか感じられなかった。ただ、そういうシステムを知らない一般の顧客層には、きっと魅力的に映ったに違いない。

そう、そういうことなのだ。「人工知能を採用した機械翻訳」とは、システム販売の単なる営業機会であり、宣伝文句として利用しているだけであって、売り方は従来の翻訳支援ツールのそれとまったく変わらない。そして導入する顧客の多くは、NMTだから良い翻訳結果が得られるのだろうという漠然とした理解と、統合された翻訳環境によって得られる効果への期待感で、判断してしまうのだと思う。

こうして、一般が持つ翻訳というものの概念がさらに壊されていくのだろう。言葉への意識とこだわりも一緒に。

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