外資系で働く:それは、突然やって来る

コロナ禍な昨夏の月曜の朝、それは突然やって来た。直前の週末に入院中の母が重篤な状態になったので、始業直後に「午後休を取得したい」と上司Gに連絡し、休暇と引継ぎのメールをチームに送信した直後、社内チャット画面に、突然シニア・ディレクターMからのメッセージが表示された。シニア・ディレクターMは、私の二段上の上司だ。

おはようございます。突然ですが、今日11時から30分程、1on1をしたいので、時間とれますか?カレンダーには登録しませんが、時間になったら電話します。

「1on1」が、突然急に自分のカレンダーに登録されることなく設定される、しかもトピックが事前に共有されない。これはアレだ。念のために上司Gに電話をし、単刀直入に聞いてみる。

突然、Mさんからチャットが来て、30分後に1on1したいって。これ、レイオフかな?

私の上司Gは、昔の私の部下で、私が管理職に昇進させた人であり、すごく親しいという程ではないが、深いところで本音で話し合える関係だった。もう10年以上の付き合いである。しかし、今回、上司Gは「私は内容は判りません。」と言う。

間違いない、これは「レイオフ(layoff)」、解雇の通告だ。特に重大ではないトピックならば、二段上の上司Mから私に話は来ない、上司Gがすれば済む事である。そして、普通のトピックならば、トピックの共有もなしに会議は設定されない。

そして、これから部下に対してレイオフの通告があることを、直属上司が知らないはずはない。内容が重大だからこそ、上司Gも事前に余計なことを一切、口にできないのだ。上司Gが何も話を出来ないのを判っていて話を続けるのは意味がないので、電話を切り、シニア・ディレクターMからの電話を待つ。おそらく、私が午後休を取ることになったので、慌てて午前中に通告することにしたのだろう。会社は今日中に通告する必要があったのだと、予想は確信に変わっていたので、心臓の鼓動が大きくなるのを感じながら、11時になるのを待つ。

11時になり、電話が鳴る。コロナ禍で、当時は社員全員がリモートワーク中であり、私も誰もいない自宅で電話を取っていた。

シニア・ディレクターMの第一声。

今日はこれから、てるさんの、今後の在籍に関する、重要な話を伝えます。

予想通り、レイオフの通告だった。予想していたのに、心臓が早鐘のように鳴る。

・会社都合解雇であり、理由は「業務上の都合」。これ以上の説明は提供しない。
・現部門に在籍できるのは、再来月末まで。
今月の残りは業務の引継ぎを行い、終了したら有給休暇を消化して休業する。来月からは就業不要。
・パッケージは退職の翌月末に支払われる。
・他部門のジョブポスティングの応募は可能。再来月末までに異動が決まった場合、パッケージは支払われない。消化した有給休暇も戻らない。

途中から人事も交え、説明を受けること約1時間。

・退職合意書が別途速達で郵送される。合意する場合は、サインをして返送すること。
合意書にサインするまで、「直属上司」「配偶者」「弁護士」以外にレイオフ対象になったこと自体を口外してはならない
条件等詳細は、「配偶者」「弁護士」以外に口外してはならない
口外した場合は、直ちに懲戒免職となり、パッケージは支払われない。

詳細は、郵送される退職合意書を読んでほしいとのこと。人事曰く「対象者が多く、説明の時間が十分に取れない」のが、申し訳ないとのこと。対象者が多くて?一体、何人切られるのか?

そして、コミュニケーションに関して、こんな厳しい条件は初めて聞いた。それなのに、今月は業務の引継ぎをしろと言う。どうすればいいのか。そして、すぐに上司Gに電話する。上司Gは私から電話が来ることを確信していたようだ。

私:やっぱり、レイオフだったわ。もちろん、知ってたよね?この話、いつから出てました?
G:自分が聞いたのも直前、先週の木曜。突然、上から降りて来たので。

やっぱり、直前か。もちろん人事は随分前から準備しているはずだけど。

私:サインするまで何も言うなって。でも、引継ぎはしろってさ。
G:私も同じ。口外したら、私も懲戒免職と言われています。

なんとまあ。こんなとこ(秘密保持)は、徹底しているのか。いずれ判ることなのに。とりあえず「母が重篤→当面、午後休みが多くなる」を理由にして業務をチーム内で引き継ぐことにした。

母の病院に行く時間だったので、詳細は明日以降にして、最後にどうしても聞いておきたいことを確認する。

私:(私を対象に)決めたのは、自分?それも(管理職の)仕事だって判ってるから、決めたこと自体は正直に言って。それとも、決めたのは、Mさん?
G:いや、ホントに名前だけが降りて来て。自分は納得いかず、理由の説明をMさんに求めたけど、Mさんも自分が決めていないと言うし。

シニア・ディレクターMが決めてないは嘘っぽいと思った。私はMとは折り合いが良くない。

G:今回の話は、私から伝えるべきだと思ったので、それもMさんに交渉したけど、本社から「シニア・ディレクター以上の職責」じゃないとダメだと言われているとかで、私がお伝えすることはできませんでした。

これ以上、Gをつついても仕方ない。誰かを出さなくてはならなくて、それで私に決めたのだとしても、Gは自分の仕事をしただけのことだから。


外資系用語

ワン・オン・ワン(1on1):
1対1の個人面談の事、通常は上司と部下の個人面談をさす。

レイオフ(layoff):
ググると「一時解雇」と出てくるが、実際に再雇用されることはない。整理解雇のこと。

パッケージ(package):
レイオフ時に支払われる、特別退職金および金銭補償のこと。外資系では、そもそも退職金がないことが多いが、レイオフでは対象となる従業員に揉めることなく黙って辞めてもらうためにお金を積む。(事実上、退職の強要なので)金額は退職者のポジションや勤続年数、会社の業績による。経営層ではない普通の従業員の場合、日本の大企業の希望退職における割増退職金ほど多額ではない。

ジョブポスティング(job posting):
社内公募のこと。ポジションにもよるが、社外の応募者と同じ条件・基準で選考されることが多い。日系企業でも増えてきたシステム。



#エッセイ #外資系で働く #外資系用語 #50代の就活 #仕事

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?