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#12 学校再編のつまずき①

 全国の自治体で学校が急激に減少しています。文部科学省の学校基本調査によれば2010年度から2019年度までの間に全国の公立小中学校で3,100校あまり、年間300校を超えるペースで減少が進行している計算になります。また、8割以上の市区町村の学校規模に課題がある一方で、その内の42%の市区町村において検討の予定が立っていないという調査結果(文部科学省「学校規模の適正化及び少子化に対応した 学校教育の充実策に関する実態調査について」2017)も出ています。
 今回はこの、学校再編という問題を考えてみたいと思います。次に紹介するのは、筆者の勤務する大学で現職派遣の教員として学びながら、学校再編に関係することになったK教諭の手記です。

事例 置き去りの学校現場

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X市は、2019年現在人口2万人強、児童生徒数1,200人ほどの市であり、2017年に過疎地域の指定を受けた。市内7小4中のうち複式学級編成の小学校が1校、単学級編成の中学校が3校ある。

学校の小規模化はかねてから課題になっており、X市教育委員会の設置するX市立学校再編整備審議会は2007年に「平成22年4月1日にA中学校とB中学校を統合し、B中学校校舎に新中学校を創設する」との内容を盛り込んだ答申をまとめた。

しかし、教育委員会定例会において、保護者や地域住民の十分な同意を得ることができなかったとして、「A中学校とB中学校の統合は、当面先送りする」との結論に至り、2009年の6月に新聞発表された。先送りとなった原因は、地域から学校がなくなることによる地域の衰退感などの不安に対し、統合のメリットやインセンティブを地域住民に納得してもらえなかったことであったという。

筆者は6月の新聞報道によってこのことを知るところとなる。当時、どことなく教職員が「置き去り感」を感じていたことは同僚との会話から回顧される。教育を担う教職員の意見が、未来の学校の在り方を検討する場に反映される仕組みはなく、そうした場において積極的に意見を述べる文化も教職員にはなかったためである。

2013年以降、市教委は、反対の多かった地域において「子どもの学習環境に関する意見交換会」を数回にわたって開催し、そこで児童生徒数減のへの懸念が地域住民から寄せられたことで再び学校再編について検討することとなった。そしてその後の協議を経てX市立学校等再編整備審議会の答申をもとに、翌2017年8月の総合教育会議で市内4中学校を2022年に一校化する方針が打ち出され、以降そのための準備が進められることとなった。

こうした学校再編に向けた動きが本格化しつつあった2017年の4月から2年間、筆者は教職大学院に派遣されることになった。子どもたちや地域に光を示せるのではないかと考えて大学院の研究テーマを学校再編に決めた上で、教職員が新たな学校づくりに主体的に参画し、新中学校の魅力化について研究することにした。

そして大学とX市教育委員会の協力のもと、学校再編を担当する部署に教職員代表として参画させてもらうことができた。学校再編に関係する仕事の中でも特に注力したのが、「統合準備委員会」等の実務的な諸課題に対応する会議とは別立てで、新中学校の在り方を未来志向で構想する部会として、4中学校の教職員の他、地域代表、保護者代表、行政、有識者などをメンバーとする「未来のX創造プロジェクト部会」を設置することを提案し、動かしていくことであった。

この部会では、こうなってほしい未来のX市を想像し、そこで活躍する地元住民の姿から逆算的に考えて新中学校の教育の在り方を考えていくもので、子どもたちの教育を、大人がワクワクしながら夢を語り合い、新中学校を魅力化していけるよう、新たな視点や思考を会の運営に取り入れている。例えば、大学教員を招聘し、デザイン思考について講義を受けた上で協議を進めたり、企業のライブオフィスの視察をした上で新中学校の働き方のデザインを協議したりもしてきた。

この部会では未来のX市を担う人材の具体像を35歳に仮設定し、①X市に戻ってきてX市のために貢献できる人、②X市を離れてもX市のためにアクションを起こせる人、③新たにX市に流入しX市に貢献できる人、の3つの観点で新中学校ではどのような経験や仕掛けをデザインすればいいのかという具体的なアイディアについて現在も活発に協議が進んでいる。     (中学校教諭 40代男性)
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<次回に続く>
*このマガジンは2019年度に教育公論社の雑誌『週間教育資料』で取り上げられた連載記事を一部修正し、出版社の許可を得て掲載するものです。(著作権は教育公論社にあります)

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